漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

残像に口紅を

2012年01月15日 | 読書録

「残像に口紅を」 筒井康隆著 中央公論社刊

を読む。

 進むにつれて、作中から文字がひとつづつ消えてゆくという実験小説。一度消えた文字は、それ以降使えない。登場人物たちは、自分たちが虚構の存在であると知っており、文字がひとつ消えるたびに世界からその文字が使われている物がどんどんと消えてゆくことも知っている。当然、物語らしい物語は展開することが出来ず、次第に主人公の自伝的な自省の中に沈んでゆく。
 よくこんな小説を書く気になったなと思う。初版が出版された当時は、本の半分くらいが袋とじになっていて、「ここまで読んで読む気をなくした方は、返金するので、袋とじを破らずに出版社に送り返してください」と書いていた。その時は「なんでこんなことをしているんだろう」と思いつつ、読まないままできていたが、今回読んでいて、「なんだこりゃって思う人もいるだろうなあ」と納得。でも、袋とじの中の部分に、セックス描写が延々とある部分があって、ここは、なんかすごいな、と思って感心した。小説として面白いのかといえば、それはあんまり面白くないと思うけれども、印象に残る小説。