大晦日、急遽決まった「世界」vs「日本」王者の対決、という感じの一戦は、井岡一翔が福永亮次に3-0判定勝ちでした。
簡単に言えば、採点の数字とはまた別の話で、完勝、大勝というのとは少し違う、という印象でした。
序盤は福永亮次が、思ったよりは「見る」感じではあったか。
実況解説が言うように、もっと出ないと、攻めないと、というのは単なる無謀というもので、出来ればもっと離れて、動いてもいいと思っていたくらい。
しかし、時に懐深く使ったり、井岡一翔に先に打たせて打ち終わりを狙う時間帯もあるなど、良い回りかとも見えました。
特に3回など、福永に与えても良いか、とも見えたラウンド。
ヒット率が高いとは言えませんが、左ストレートの好打があり、アッパーを織り込んだ連打などで振れるか、と見ました。
しかし、このあたりから、思った以上にやれる手応えを得た?福永が、見る時間を減らし、打っていく回数が増えていきます。
そうなると井岡にしたら、自分が見て外し、打ち終わりを狙う回りで闘える。
一言、好都合、だったと思います。ここは「我慢」出来んものかなぁ、と見ていて思いましたが...まあ、無理だったんでしょうね。
福永の左ストレート、それにまつわるコンビネーションは速く鋭いですが、打った後、井岡なら当然のこと、足捌きで移動するところ、福永の方は打った後、しばしその場に止まります。
4回、その打ち終わり、井岡が左フックでボディを叩き、続いて上に3発、まとめ打ち。
そうかと思えば右ダイレクト。6回は左を食った井岡が、顎を出して、もっと来い、と挑発。
7回は福永が思い直して高く上げたガードの真ん中、インサイドを狙ってストレートパンチを連打。
福永は鼻血を流し、ダメージも当然あってペースダウン。
このあたりの展開は、やはり試合運びの巧さ、状況判断力の違いが如実に出ていました。
そして、要所で井岡が一発ずつ、特に右に力を入れて打つ回数が増えていて、これは終盤、どこかで倒しに行くのだろうな、と思っていました。
その布石としてのボディブローもよく入っていて、8回は下から上へ打ち分けて、立て続けにヒットを取る。
この間、福永も果敢に反撃し、実況解説が言うほど、または無視するほど、福永のパンチが完璧に防がれているわけではありませんでした。
しかし同じヒットでも、やはり正確さが違い、それは双方の動きの差に出ていました。
福永は懸命に耐えて攻めているが、フォームの乱れは隠せず。
井岡はしっかり見て、ヒットを喫しても揺るがず、打つべき時にしっかり、打ちたいパンチを打って、当てていました。
ところが10回、ちょっとしたアクシデントというか。軽い(といえる部類かと見えました)バッティングがあった直後、福永の左がヒット。
少し嫌がる風だった井岡ですが、グローブタッチで済ませ、再開。
何も無いかと思ったら、福永のワンツーを下がって避け...きれず?ちょっとバランスが後ろへずれる。
大丈夫かと思ったら、思ったより「効いて」いた?のでしょうか。
そして、残り1分38秒くらいのところで、井岡が左アッパーを当てたかと思ったら、ほぼ相打ち気味に福永が打った左(アッパー?)もヒットしていたか。
実況は井岡のヒット、としか言わず、インターバルのスローリプレイもなかったので、確かなことは言えないのですが、この後、目に見えて井岡が失速。
福永がワンツー、左ストレートを繰り出すと、井岡は打たれる度にロープ際に下がり、飛び退く。
敢えてこんな立ち位置を選ぶわけもなく、やはりダメージのせいか、と見える。
ラスト二つは、福永が手数を出して攻め、井岡はロープを背にしながら、時に回り込んではいたものの、基本的にはあまり動かず、止まり加減で対応。
ジャブを軽く当てたり、ボディブローを返して福永の波状攻撃を断ったりする巧さは見せていましたが、9回までの「思う様」の闘いぶりとは全然違う。
おそらく不本意な終盤のラウンドだったことでしょう。
判定は7対5、8対4、10対2で3-0でした。
最大限、福永に甘くつけても、7対5...あるのかな、とは思います。最大限、というなら、ですが。
しかし、井岡にとっては難しい試合だったことでしょう。
勝敗に影響こそしませんでしたが、やはり昨年の田中恒成戦と比べると「心身の張り」が全然違って見えました。
もちろん、あの状態を毎試合作って、いつも寸分の緩みもなく闘え、というわけにもいかないでしょうし、今回はまた、ジェルウィン・アンカハスとの統一戦が流れるという状況でしたから、仕方ないことではあります。
むしろ、福永のような相手に、勝敗自体は問題無い、という試合をするのだから、流石と言うべきところかもしれません。
ただ、ちょっとアンラッキーな面もあったとはいえ、9回に「詰め」には行かなかった、そのへんは田中戦の厳しさとは、やはり違っていた。
それが10回の小アクシデント?を招いた、という見方も出来ます。
それ以外、試合全般を通じても、やはり福永亮次の果敢な攻撃を、思った以上に受けてもいました。
来年以降、2月に試合を決めたというアンカハスには、さらにIBFが指名試合を課すという話も当然出てきているらしく、仕切り直しの統一戦も、春頃に出来るものとも限らない、というのが実際のところでしょう。
それを仮に実現すると見て話を進めると、前回と今回の試合、格下相手、というと言い方がきついので「予想有利の相手」に続けて見せた試合ぶりが、果たして強豪、強敵相手の試合に、どう影響するのだろうか、と思います。
統一戦というビッグマッチなら、心身共に張り詰めた状態で、田中恒成戦のようなベストファイトを見せるのか。
或いは「何らかの理由」もあって?もうあの時の心身の張りは戻らないのか。
その辺の答えを見るには、やはりアンカハス戦、ないしは誰相手だろうと統一戦クラスのビッグマッチが必要になりますね。
しかし、改めて、急遽決まった難しい試合に、結果として取りこぼしをすることなく勝った井岡一翔は流石でした。
福永亮次も、苦しい中盤を乗り越えて、果敢な攻撃を最後まで続けました。
かなり一方に偏った実況解説が耳障りではありましたが(両者ヒットの応酬、と見えても、井岡だけが当てている、或いは井岡だけが避けている、という「設定」になっていた模様)色々と興味を持って試合を見るのは、楽しい時間でありました。
そういうことで、この拙いブログをご覧いただいている皆様に、この感想文をもって、新年のご挨拶とさせていただきます。
本年もよろしくお願いします。
※写真提供は「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。
いつもありがとうございます。
「読み」を込みで試合を見るのが当たり前のことになってしまってますね。受け容れたくはないというか、それを前提にするのが「通」なことだという風潮には、どこかで抗っていたいと思います。
プロ野球も選手は審判の傾向を見るようですが、さすがに思惑までは見ないでしょうね。
井上VSドネアは素晴らしい試合でした。
やや落ち目にあったドネアに、下馬評では井上のKO勝ち予想が多くありましたが、試合は接戦でしたね。
序盤にドネアのフックで眼底骨折した井上。
物が二重に見える視界の中、眼底骨折した眼を自らのグローブで塞ぎ、片眼にした状態に、二重に見える視界を防いだ機転の速さが井上の凄いところな気がします。
仮に物が二重に見える視界で戦った場合、さすがにレフリーやセコンドも異変に気付いて試合をストップするでしょうし。
野球は野球で、詳しい人から見れば、語られるべき話が語られていない、という面はあることでしょうが...。
TV局が、というのも含め、地元に勝たせたい、というレベルの試合は、突き詰めていえばそういうものでしかない、というところでしょうね。どっちが勝とうが負けようが、良い物を見たい、見せねばならない、という「公」のリングこそが、真に世界と言える試合でしょう。そして、日本でそれを見られるのは極めて希なことでしょうね。井上、ドネア戦などは数少ない例外だった、と思いますが。
亀田の頃、解説の赤井英和が「亀田君が1ポイントリードしてます」と言って、赤井英和はプライドが無いのか、と思ったものです。
思うに、ボクサーには大手のスポンサーが付いてませんから、テレビ局からしたら、スポンサーを気にせず、視聴率が出せるボクサーに勝たせたいのでしょう、
>ポイズンさん
カード変更という要因は大きかったのでしょう、井岡が田中恒成戦のようなベストではないことは仕方ないと思います。70年代、80年代の中南米の軽量級王者のような、敵地で判定を勝ち取る「ビジネス」を闘う、という風情のボクシングに似て見えましたね。それはこちらの気の持ち方ひとつ、ロケーションの違いで、楽しく好ましく見られるものでもあるでしょう。ただ、井岡一翔に対しては、まぁ...色々思うこともあり、そういう気持ちではないですね。
福永は現状、精一杯だったんでしょうね。今までの試合では問われることのなかった、広い視野や展開への対応の部分で、差があったように思います。
実況解説に関しては、仰る通り、白井義男氏は厳しめだったですね。他局でも、田辺清は西城正三の、どう見てもクリアに勝ち、という試合でも「負けている」と言い張っていたりしました。そういう厳しい見解が、好意的に取られる風潮だったのかもしれません。反面、愛国主義というか、日本贔屓的なものも根強かったでしょうが。
TBSに関していえば、鬼塚、タノムサクの初戦で、鬼塚劣勢、と見たままに語った具志堅の解説(それでもだいぶ、気遣った語り口ではありましたが)に、先代金平会長が怒ったあたりから、がらりと変わった印象です。その昔は「アホにモノ教えたってんねん」みたいな実況アナの語り口が耳障りなくらいでした。その他、トカちゃんの試合であれこれあったものの、鬼塚の勝利が疑問視されるなか「(かつての名王者である)具志堅が劣勢と見ているのに、あの判定はおかしい」という趣旨の抗議が一定以上あったらしく、それを受けて、解説に対してかなり「制限」がかかったのではないかと。当時中継を見ていて、それ以降の試合はかなり「忖度」しているというか、ああ、だいぶ「言われた」んやな、と感じました。
それに輪をかけたのが亀田騒動で、それ以降もその方針、という感じですね。もっとも、TV局にしたら、具志堅現役時代とは違い、力入れてる感じでもなく、面倒は御免だ、という感じかもしれません。言えるのは、ボクシング業界にはジャーナリズムの存在意義を理解し、それを支え、護ることがイコール、ボクシングそのものを護ることだ、という認識を持つ人間が少ない、ということでしょうね。少なくとも「支配体制」の側には。そういうものを「扱う」メディアの側も、競技としてのボクシングについて深く関わることはせず、イベントや興行としての側面に比重を置くしかないのでしょう。簡単にいえば、競技ではなく見世物として扱う、ということです。それがメディア側の結論であり、その反映がああいう実況解説なのでしょうね。
>アラフォーファンさん
体格面では、例えば田中戦やそれ以前の試合では、不利な面も感じたものの、ある種の強靱さも見えたと思います。しかし10回などに代表されるように、一歩間違えば、という印象も残りました。それが何故なのか...その答えは、この先に見えてくるものかもしれません。私はセーフティーに流した、というだけではない何かを、今回見たように思っていますが。
福永は局面毎の力は出せていたと思いますが、試合全般を見渡して闘う、というような部分で劣っていましたね。力の出しどころを弁えて、というようなことを求めるのは酷でしょうが、そう思ってしまうこと自体が、このカードの内実を現していたのかもしれません。
>neoさん
9月の試合に続いて、攻防の切り換えにキレを感じませんでしたね。田中恒成戦が凄すぎたのかもしれませんが。その変化が何故か、というところ、いろいろと思ってしまうことがあります。まあ、必死にならざるを得ない相手ではなかった、それ故の難しさだ、というのが、一番わかりやすい解釈ではあるのでしょうが。それでいけば、アンカハス戦は勝ち負け以前に、ベストの井岡が見られるだろう、と期待出来ます。しかし...という部分が不安でもあります。
>hiroさん
観戦は出来る限り行きたいと思いつつ、いまだいろいろ制限が続き、その反面あれこれ配信も増え、会場から足が遠のきつつありますね。うーむ。
今回の試合ぶり、ことに終盤は、本人が自分の意志でコントロールして引いた、と言い募っていますが、必ずしもそれだけで語り尽くせるものだったかな、と疑問です。報道はそれを全部鵜呑みにする「設定」のものばかりですが。少なくとも9回までは、どこかで行こう、と考えていたようにしか見えず、しかしその目論見が崩れた。その要因は何か...それは試合そのものからしか見えてこないはずだ、と思います。
なので、不評の内藤大助や内山の解説は聞かずに済みましたが、途中採点で内藤がフルマークで井岡優勢にしてるのを見て、またか、と思ったものです。
以前にTBSで解説してた元世界チャンピオンの白井よしおは、日本人ボクサーに厳しかったものですが、昨今のTBSは偏り過ぎですね。
内藤や内山もTBSに従って偏った解説をしてるんでしょうが、残念です。
畑山隆則や竹原は、正直に解説してTBSを降板させられた、と聞きますが。
ほんと、嫌な世界です。
また井岡の言動に批判的な世論もありますが、井岡の前々から変わった言動が多いので、自分は、あまり気にならなかったりします(笑)
井上尚弥がフェザー級なら普通の選手になる、と言われてますが、井岡もスーパーフライ級では厳しい、と福永戦で分かった気がします。
ミニマム級上がりのロマゴンもスーパーフライ級では厳しかったですね。
井岡選手、ベテランのボクシングでしたと言えば聞こえは良いですが、フットワークのスピード、ジャブのハンドスピード共に以前のそれではなかった気がします。リスクを取らなかったというコメント含めて、見ているのは「先」だったのでしょうが、それをアピールできたのかなぁ…と。福永選手、最初から最後までクリーンなボクシングで盛り上げてくれました。結果は残念ですが、2ヶ月の期間で、出来ることはやり遂げた気がします。
井岡選手の上手さは分かっていた通りでしたが、気が抜けていた所、年齢、やはり体力面で下の階級がある種上限だろうと思わされた試合でもありましたね。ご指摘のクリーンヒットでは無いですけど、一瞬フラついて下がる場面がありましたね。
福永選手はよく頑張りましたが、ご指摘の中盤の戦い方ですね。相手が相手なので難しいと思いますが、フレームを活かすところと体力を活かすところのメリハリは意識の問題なのでもう少し出来たかもですね。後半相手が下がるところの追い討ちや相打ちは良かったですね。
井岡は次戦アンカハスだとどうなるか、そもそも試合出来るのかもありますが、ちょっと甘い部分が目につく内容でしたね。
技巧の差、戦術の差、勝ち自体は動かないですが、中盤の内容見てたら最後数ラウンドはたしかに頂けないですよね。流した、というより無為に撃たせてポイント取られる状態にした訳ですし。
福永さんは頑張りましたが、戦前から心配した打つ前後の停止、、これで有効打を許していたのが致命的。
ただこの差を見せたら倒して締めて欲しい、この期待に応えられない事情が井岡さんにあったんでしょうか。考えたら今の階級では技巧は見せてもこの2戦やシントロン戦は、撃てばそれなりに撃たれる。パワー差や体格差など、厳しいものがある。気持ちの張り、なのかこの階級での限界なのか…不安はありますね。
福永はパッキャオのように、よく体を振り、果敢に攻めて善戦したように思えます。
前半は飛ばして、中盤に失速し、ポイントを失ったのが最後まで響きましたが、これはキャリアの差でしょうね。
井岡は、所謂、省エネのボクシングと言いますか、全く無駄が無いのでスタミナ消耗も少ない中、終盤に失速したのは、今後のビッグマッチに不安を残しました。
やはり、スーパーフライ級ですと、井岡も体力戦で消耗するんでしょうね。