感想文、順番に書いていかないと追いつかない、というのは大イベントの後、いつものことですが、今回も同様。
次はセミの感想...ですけど、この日一番のスペクタクルと言えるのは、この試合でした。
武居由樹と比嘉大吾の強打対決。しかし長身サウスポーと短躯のファイター、絵に描いたような対照。
試合が始まって、初回は遠めの間合いに見える。武居ジャブ。比嘉飛び込んで左フック、浅いか。
しかし2回から、両者の強打が際どいタイミングで飛び交う、目を離せない展開に。
武居は右アッパー飛び込み、合わせ。さらに左アッパーも多用。これは明らかに小柄な比嘉対策。
比嘉はしかし怯まず、左フックを被せて対抗。時に相打ちのタイミングで。
3回武居が先手。比嘉の左フックに右フック合わせ、タイミングが際どすぎて武居の右肩が比嘉に当たるくらい。
さらに武居の右フック、比嘉一瞬顔が振れる。
ここまで互いに好打ありも、武居が数でまさっていると見えたが、4回比嘉が踏み込んで、下を向いて目線を切った右フックを当てる。
何で当てる先も見ないで強いパンチが相手に当たるのか、素人目にはさっぱりわかりませんが、これが倒し屋たる比嘉大吾の天分。
ロープに押し込むことに成功した比嘉、左右フックで追撃。左フック、右フックが武居をまともに捉える。比嘉の回。
勢いを得た比嘉、5回、6回とプレスかけて出る。武居はアッパーで対抗。クリンチも駆使して食い止める。
武居徐々に立て直し、7回、足で捌いて左右アッパー。最後はちょっとパフォーマンスも。
ポイントも流れもやや武居かと見えたが、また比嘉が盛り返す。
8回、身体ごと押し込んで左右フック、ボディも攻める。
9回、武居ロープにもたれる。比嘉攻める。武居巧く左右アッパー、フックを合わせるが、比嘉が攻め続ける。
いくらなんでもそこに長居しては...と思う間もなく、比嘉の右フックが決まり、追撃も。この攻防は比嘉がまさる。
両者強いパンチを応酬するが比嘉が攻め、武居はクリンチから比嘉を押し倒してしまう。ちょっと苦しそう。
10回武居の左も当たるが、比嘉が出て武居またロープ背負う。比嘉の左ジャブ良く当たる。武居の右目周辺、腫れている?
流れが悪いとさらに良くないことが起こる、それが勝負事ですが、11回武居少し足を滑らせ、比嘉の左フックをもらう。
ロープ際でクリンチして逃れた武居だが、比嘉と打ち合い、ヒットを取るが右を当てられ、次の左フック、浅くもらったと思ったら左足が滑って、手をつく。
レフェリー、ダウンの裁定。見た目、パンチが効いて倒れたかどうか微妙だが、さりとて打たれた後に足が滑っているのを、パンチと関係ない、と断じる根拠もない。
咄嗟の判断でもあり、これは仕方ないところか。
ところが、大きなポイント挽回となった比嘉に対し、少し動きが重かった武居がこれで目覚めた?ダメージ自体浅かったこともあるか。
武居が反撃して攻め、比嘉は足使ってゴングを聞く。この回は10-8比嘉。
最終回、判定は競っているだろうし、ここ取った方が勝ちかと思ったが、ここまでスタミナ面での不安など見せなかった比嘉が、ここで疲れたか、或いはダメージがあったか。
武居が左右アッパーで猛攻、比嘉がのけぞり、クリンチに逃れるしかない。ダックというよりしゃがみかけたり、ロープに押し込まれ打たれりで、反撃の手は数えるほども無い。
武居がワンサイドに打ちまくり、試合終了。この回は武居の10-8になるべき内容、とも見えたが。
判定は競っている印象。割れるかとも思ったが3-0で武居。しかし僅差で、7対6が2者、8対5が1者でした。
強打者同士が、濃密でクリーンな闘いを終始繰り広げた、凄い12ラウンズでした。
最近、これほど互いに詰めた間合いで、恐れず強振し合う「接敵」の攻防を繰り返し見ることはあまりないような。
共に強打者としての意地、誇りを隠さない者同士の、激しい攻防から目が離せず、試合が終わったときは大きく息をつきました。
互いに指導者含めて交流が深く、しかし勝負となれば思う存分に、力を出し切って闘い抜いた。
激しい闘いのあとに爽やかな風が吹くような、素晴らしい闘いだったと思います。
そして、井上尚弥の桁外れな知名度や人気に、他のボクサーが覆い隠されかねない印象もある昨今ですが、この試合は、ボクシングの魅力は、凄みは他の試合、他のボクサーからも十分見て取れるものだ、という声高なアピールだった、とも。
今回の興行、米国ではESPNで放送されましたが、メインとセミだけが放送、あと3試合はESPN+の配信のみだった?何しろ扱いに差があったようです。
しかしこの試合が放送枠に入っていたのは、幸いなことでした。
井上尚弥の試合にしか興味がなく、馴染みの無い日本人同士の試合ともなれば、例えば私が海外試合のアンダーで米大陸以外の同国人対決にあまり興味を持たないのと同じで、米国の視聴者とて、気を入れて見ていない向きもあったでしょうが、この試合内容はそういう視聴者をも刮目させるに十分なものだった、と思います。
勝った武居由樹、敗れた比嘉大吾ですが、そこに明暗分かれる、という印象は持ちませんでした。
両者共に、内容や結果のみならぬ何かを勝ち取り、共に輝いた。そんな試合でした。
ひとつ残念なのは、敗れてもなお、新たな未来を得た、と見えた比嘉大吾が引退の意向らしい、ということだけですね。
もちろんそれは仕方の無いことで、彼のキャリアがここで終わるにしても、その健闘に拍手を送りたい気持ちではあるのですが、ファンの勝手を言えば...いやまあ、本当に素晴らしかった、というところで、今は抑えておくとします。
※写真追加しました。提供は「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。いつもありがとうございます。
武居くんはあの目の腫れとダウンからよく盛り返しましたね。前回手も足も止まった最終ラウンドとは真逆でしたし、一つ段階上がったのかなと。ただガードをしないならばあの近い距離に長く止まり少なからず連打を受けたのは頂けない。本人は効いてないつもりでも、この先見据えるなら改善点ですね。
いずれにしろ安い日本人対決とは全く違う、熱き漢たちの戦い、これは初めて見る方々にも響く名勝負でしたね
今回、比嘉の方が想定出来る範囲内で、最大限に良かったという印象を持ちました。左ジャブと左フック、良かったですね。リードだったり合わせだったりしましたが、どちらも。
本人の心境は仰るようなものかもしれませんね。我々の目に触れないところでの、膨大な労苦を費やした闘いの末に辿り着いたタイトルマッチ、それを闘い終えて...今後どのような結論になろうとも、敬意を表し、拍手するのみです。
武居由樹はまたひとつ、レベルの高い相手に厳しい闘いを経験しましたね。仰る通り最後、しっかり攻めきって終わったのも好印象です。ただ比嘉の左による「入り」が良くて、相手の間合いでパンチ交換するところは怖かったですね。左アッパーの多用で、その局面でも勝つつもりだったのでしょうが、この辺は比嘉がさすがでした。
今回の遠足観戦は、この試合があったからその甲斐あり、と言えるものになりました。出来るだけ広く多くの目に触れてほしい、そんな試合でありました。
武居はあわやという大苦戦だから必ずしも印象のいい試合とはみなされないでしょうが、ボクシングキャリアが浅く誰が見ても未完成で荒削りなファイトスタイルで、前戦と今回とでスタイルがまるで違う強豪相手に勝ちきったのは大きいです。文字通り一戦ごとに成長している段階でしょう。やはり相手のレベルが上がれば荒削りな『スカ勝ち』は出来ないし、パンチも貰う。それで馬脚を現して一敗地に塗れる強打自慢も少なくないことを考えれば尚更ですね。ただ、パンチの貰い方は印象の悪い貰い方ですが。見た目よりは効いていなかったとしても、ポイントは持っていかれるしダメージの蓄積も避けられない。まだまだ改善しなければならないことも多いですね。
実質的には世界ランカー同士のサバイバルマッチだ、というのはその通りだと思いますが、だからといっても試合の価値そのものが変わるわけではない。この試合に関しては、実質を無視して『世界戦』という冠を掲げたとしても通る試合だった。そう思います。
自分は比嘉の勝利と思いましたが、途中から比嘉に肩入れして見ていたからかもしれません。負けたら(勝っても?)比嘉は引退だろうと。フライでの計量失格の少し前くらいですかね、比嘉の顔つきが精神的に病んでいる人のそれで。復帰後は大分良くなりましたが、完全に健康には見えず。「お金のため」は半分冗談で半分本気、「再び世界王者に」というのは叶えるためと言うよりボクシングを続けるための目標に思え、一度気持ちが切れたら終わりだろうと。比嘉が心から、再びボクシングをしたいと思える日が来ることを願います。
あの件以降の試合ぶりは概ねそういう印象でしたね。ここに至るまでは、過去の自分らしさを無理に求め過ぎている感じもしましたが、今回は精神面はもとより、やっているボクシング自体も自然で、その上で「らしさ」が見えるものでした。僅差の判定でしたが、比嘉にとっては自分自身との決着がついた、という感じではなかったかと。同感です。
アメリカならまあ、ある意味商売になるから再戦というのも、ひとつの美徳とまでは言わずとも、当然ではあるのでしょうね。この辺はもう感性の違いなのかもしれません。
武居は二試合続けてフルラウンド、強みも弱みも両方見せて、大変だったと思いますが、糧に出来る内容だったでしょうし、それが出来ることの優秀を、これから示していくのかもしれません。気になるのは仰る通り、受けの悪さですかね。場面毎にパンチを寸前で殺す、芯を外す勘には秀でているが、展開自体が受けになったときの姿勢などが課題でしょうか。次の試合までは少し間隔を空けるでしょうね。
もし世界に統括団体がひとつしかなければ、この試合はランカー対決ですね。しかし試合の中身そのものが、実に価値あるものでした。タイトルがついていようがいるまいが、こういう試合の価値こそをしっかり見て、憶えていたい。それがファンとしての願いです。
>海の猫さん
本来、パンチに膂力を乗せる間が少しある方がいいのでしょうね。その間合いで、右ボディストレートを軸にした、即興なのか組み立てなのかわからない独特のコンビネーションがフライ級時代によく見られました。あの辺がロマゴンに似てると言われた所以でもありました。今回、その辺はあまり出なかったですね。言われて思い出しました。
判定は正直、読めませんでした。ダウンがあったので13ポイントを奪い合う、となって、普通に行けばドローは無いのか、と気付いたときは、双方にとり厳しい話だと思いもしました。私は最終回も10-8ではないか、と思いましたが、おそらくそうはならないだろうとも...。
この試合前から、比嘉がどういう決意だったかはわかりませんが、良し悪しではなく、井上尚弥とはまた違ったボクシングへの取り組み方をするタイプだろうなあ、と漠然と思ってはいました。どのくらいのスパンで区切りを付けるのか、という違いは、人それぞれですね。まあプロボクサーとして、トップレベルで何年も闘ってきて、ましてあのようなシリアスな挫折を経て、ここまで闘ってきただけで十分な頑張りなのですけど。
その末に今回のような試合があったことを受けて、彼は新たな気持ちを手に、もう一度闘う選択をすることだろう。私は彼の引退表明を知るまではそう思い込んでいました。さて、どうなりますかね。