さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

試合ではなく「闘い」の末に散る 八重樫東、ゴンサレスに壮絶KO敗

2014-09-06 09:35:57 | 関東ボクシング


昨夜は何かを書くには頭が熱くなっておりました。今頃ですが感想です。


試合については、会場で見た限りでは、3回を境に八重樫東が闘い方を変えたように見えました。
動いて外して、捌いて、という展開では、捌ききれないという判断が、八重樫自身によって
下されたのではないか、と推測しますが、実際どうかはわかりません。


ローマン・ゴンサレスの攻撃は、ワンツーや右から入る形のいずれにせよ、後続のパンチが
正確な上、パンチとパンチの繋ぎ目が実に滑らかで、しかも打てば打つほど強くなる。
実際に対峙した、その攻撃力と質量は、八重樫の想像を超えたものだったのでしょう。

また、ゴンサレスの立ち位置の取り方も絶妙で、リング中央の「SPORT」の四角いロゴの外側に立ち、
必然的にロープの近くに立つことになる八重樫を、連打の最初のパンチでさらに下がらせ、
ロープを背負わせて後続の強打で打ち込む「手練れ」ぶりは、相変わらずさすがの一語。
相手を「倒し慣れ」ているボクサーの恐ろしさを、存分に見せつけられた感じでした。


そういう相手に対し、3回以降、正対しての攻防は不利とわかっていたはずの八重樫は、
サイドに動くよりも、正面から攻め込み、ハンドスピードを生かした右から左の返しを決め、
さらに左右のボディブローを決めてゴンサレスを止め、打ち合いを挑んでいきました。

3回は取れるかと思ったところでダウンさせられる痛い失点があり、5回は取れたかとも見ましたが、
もうこの時点で、八重樫は明らかに、ポイント計算ではない「勝負」に出ていました。

その覚悟は、当然、このカードには物足りない器の代々木第二体育館を埋めた満員の観衆にも
ひしひしと伝わっていて、場内には声援と悲鳴が間断なく交錯していました。


ポイント上は八重樫の劣勢ではあっても、7回までは、両者の闘いには最低限の均衡も見られていました。
ゴンサレスが連打の最後に右ストレートをボディに送れば、八重樫は左ボディで相手を止め、
ゴンサレスが左ボディを叩き返すと同時に、八重樫は左フックを上に合わせる。
八重樫の奮戦は誰の目にも驚異的で、ゴンサレスにとっては脅威だったでしょう。

しかし8回、とうとうそれが崩れ、ゴンサレスが明確に優勢。八重樫は身体を相手に向けられない場面があり、
それでもなお立て直して打ちかかる。9回、打たれながれも肩越しに右を当て、連打も決めるが、
とうとう最後の時が来て、左アッパーでダウンし、レフェリーがやっと試合を止めました。


セコンドが最終的に棄権しなかったこと、レフェリーストップが遅かったのではないか、という議論は
当然あるかもしれませんが、その反面、この試合はそういう近年の安全管理の趨勢とはまた別次元において
闘われた「死闘」だった、ということに、ある種の感動をしている自分もいます。
是非論は別として、このような闘いを、今の時代に見ることになるとは、想像していませんでした。



勝利の瞬間、両手を突き上げ、目を見開いて涙を流したローマン・ゴンサレスは、
ラテン・アメリカの死生観のひとつを象徴するボクシングの、勝利による生命の獲得、という事実に
感情を抑えきれずにいるように見えました。
そして八重樫東は、勝者に倍する拍手と賞賛の中、インタビューで客席を笑わせることまでして、
時折笑顔を見せながら、リングを降りました。



何と凄い試合を、いや、闘いを見たものか。
両者の闘う姿、そして闘い終えた姿を思い返して、何よりも強く、そう思います。


私が賢しらに、試合前に思い描いていた、或いは希望を込めて願っていた予想や、試合展開の想像などは、
試合が始まって早々に意味が無くなってしまいました。
ゴンサレスの圧倒的な力、それに対峙し、最後まで牙を剥き続けた八重樫。
その両者が見せた、闘いというものの本質、その根源的な生命の躍動は、圧倒的な熱量をもって、
昨夜、我々の心に伝わりました。


両者を賞賛することすら、今は何か白々しく感じられます。
今、彼らに向ける感情を言葉にすると「畏敬」の念、というしかないのかな、と、
そんな風に思っています。



そして試合後、八重樫と共にインタビューを受けるローマン・ゴンサレスの姿を、
花道から凝視し、鋭い視線を飛ばしていた、21歳の若き戦士の姿にもまた、
それに似た感情を抱いています。

いずれ時が経ち、彼がこの王者に挑む日が来るのでしょうか。
そのとき、どのような闘いが繰り広げられ、その果てに何が勝ち取られるのか、それとも。


この先、ボクシングファンとして当然ながら多くの試合をさまざまに見続ける中で、
心の奥底に、この試合を希求し続ける自分がいることでしょう。そう確信しています。




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6 コメント

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Unknown (R35ファン)
2014-09-06 12:11:42
おはようございます。敗者がこれだけ賛辞を受ける試合が他にあるでしょうか。ロマゴンは今まで見た中で1、2番の出来に見えました。脚がガッシリ太く、たまにあった強打に自分の身体がついていかずにバランス崩す場面もなく、長短、緩急、縦横自在の強打を出し続けてました。そんなロマゴンの一番良い所が出る展開に乗りだし、しかも時に怯ませた八重樫さん、途中ロマゴン効いた、と思わす場面も何度か作った八重樫さん、ただの無謀な打ち合いでなく、策を尽くした、勇気も出し尽くしてくれた八重樫さん、最高でした。
井上君が早速ロマゴンへ敵討ちを口にするなど頼もしい面も見せてくれたのも嬉しい。
これで益々井岡君は3階級への価値が問われるでしょうね。この試合見て、本人も陣営も何も感じない訳ないはずですが。
返信する
Unknown (さんちょう)
2014-09-06 18:44:47
ただただ凄かったといいますか、感動したといいますか… 試合中涙が出そうになったのはパッキャオがデラホーヤに勝った試合以来でしょうか。 
もう本当にいい試合でした。八重樫選手というか、人間の底力を見ました。試合をした両者、すごすぎる男です。

テレビ画面からも会場の熱気、怒声のような応援が聞こえてきましたよ。 
井上選手、いつかもっと経験を積んでロマゴンとの決戦を見たいですね。実現したら今度こそ生観戦行きますよ。
返信する
Unknown (ナック)
2014-09-06 21:04:05
これが本当の男の闘いですね。
久しぶりにボクシング見て震えました。
両者にありがとうです。
返信する
Unknown (NB)
2014-09-07 00:48:39
とにかく残念、悔しい、我のボクシングの見る目のなさにも残念呆れます(笑)。本気で八重樫にならやれると思っていました…。

こんな結果になりましたが自分は更にローマンゴンサレスのファンになりました。とにかく凄い、そして格好いい、実際現地で見られたさうぽんさんは普通の選手とは違うオーラみたいな物は感じたでしょうか?自分はテレビ画面からでも、スーパースターだなぁと感じます。

皆さん同様俺も感動はしました。しかし強豪との戦いでは、打ち合うしか策がなくなり、真っ向勝負で力尽きるという日本人ボクサーに、これではいけない感を感じました。ついこの前の長谷川に続く事なんでだと思いますが悔しくて。

気合いや根性、真っ向勝負そして玉砕覚悟とか日本人は賞賛します、当たり前なんですが。しかし、強豪相手にはなかなか通用しませんね、効かされた後の対処、クリンチ技術や2発目の強打を食わないディフェンス力が物凄く必要に感じました。
日本人の他のスポーツでも良く思う事なんですが、攻撃的ではなかなか世界で勝てないように思います。
返信する
ローマン (nekomick18)
2014-09-07 03:54:13
ゴンサレス、あれだけよどみなく強打をつなげられるのは何故なんでしょうね。
全くスタイルは違いますが、ジェラルド・マクラレンのような肩の柔らかさを感じます。
新井田とやったときは、凄いとは思いましたがフレーム込みで、思い切り減量できる今だけだろうと、瞬間最大風速に(新井田が)当たってしまったのだろうと思っていましたが、いまさらですが本当に怪物でした。
返信する
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2014-09-07 22:54:18
>R35ファンさん

ゴンサレスはフライ級でも変わらず、自分の良さを出しましたね。下肢の安定と、やや前傾気味ながら独特なバランスの取り方、及び崩し方と戻し方によって4連打、5連打と繰り出す攻撃は、改めて凄いものでした。
八重樫もまた、元からあった手の速さを見せ、速いコンビを決める場面が何度もありましたね。中盤以降はダメージもある中、かなう限り、いやそれ以上に攻撃の切り口を作っていたように思います。ゴンサレスも試合中、表情を変えていましたね。あの表情をどう読むかはそれぞれに解釈がありましょうが、私は、ボクシングという、スポーツを越えた「闘い」の深淵に立った者のみが見ることの出来る何物かに対する、恐怖と興奮がないまぜになったものだった、と感じています。

井上尚弥は、彼が強者であるが故に、その先行きにも強者が立ちはだかるという宿命を生きることになるのでしょうね。また、そうでない者、そういう宿命に背を向けて生きる者の眼前には、そういう相手しか立つことがない、というのが、ボクシングという闘いが抱える法則のようなものなのでしょうね。
実際、ボクシングって「よう出来てる」なぁ、と思いますわ、ホントに。

>さんちょうさん

私も最後の数ラウンド、ちょっと危なかったですね。泣いとる場合か、もったいない、こんな有り難いもの、しっかり見な損や、と思って頑張りましたが(笑)
本当に、理も情もすべて踏まえて、それでも語り尽くせぬもの。至高の「ボクシング」を見せてもらった、ということでしょうね。勝った者の、生還と誕生のドラマ。敗れた者の、誇り高き笑顔。勝者と敗者を問わず、これほど輝かしい存在を、いったい他で、何をもって見ることが出来ましょうか。
試合を見ることに没頭していて、会場の様子まで気が回りませんでしたが、試合前後の拍手の熱量は、確かに今まであまり経験がないくらいのものでしたね。

>ナックさん

同感です。
この試合を見れば誰もが心を揺さぶられることでしょう。ましてボクシングファンなら当然のことです。
両者に対しては、表現や形はさまざまにあれど、そのような思いしかありませんね。

>NBさん

八重樫は全てを出し切って、でも及ばなかった。ゴンサレスに何らかの緩みがあればまた違ったかも知れませんが。こればかりはどうしようもないことですね。水漏れ無しの初回を経て、八重樫が闘い方をあのように思い定めた時点で、この結果は仕方なかったでしょう。
ゴンサレスに関しては、ある意味、今回ほど自身の状態と試合展開が順調でありながら、これほど打たれ、攻められた試合は無かったのではないか、と感じました。減量苦から解放され、早期来日により調整も万全、相手の研究も充分、そして試合では相手が序盤早々「来て」くれた。今までなら早々に相手を打ちまくり、叩き伏せていた流れです。にも関わらず試合中、遠目にも表情が変わり、挙動に揺らぎが見えた瞬間が、何度もありました。
こうした闘いを経て、中南米で現在最高の軽量級ボクサーとも言える逸材が、さらに凄みを増すのか、それとも我々には見えない傷をどこかに負っていて、今後失速するのか、という意味で、改めてローマン・ゴンサレスの今後に、私は強い興味を持っています。

八重樫の闘い方の選択については、本人が序盤、実際に闘った上で選択をし直したように見えましたが、試合後の報道でもそのようなコメントが出ていましたね。八重樫は元々から、動きの速さを攻撃に生かすタイプだったと思いますし、動いて外して捌いて、というのは、ゴンサレス相手には難しかったでしょうね。ボクサーがすべからく全ての局面を完璧に処理する才能を持っているわけではなく、それは八重樫のみならずゴンサレスも、程度の差こそあれ同じことでしょうね。八重樫の闘い方の変更は、攻防のバランスに関して、今回の試合においては妥当なものだったと、私はそう見て、納得している次第です。

>nekomick18さん

今回、会場で彼の全身を常に見られたのですが、本当に興味深い「型」だなと思いました。

下肢は少しゆらゆらしているように見えて、打つポイントを定めるまでの足の運びが読みにくい感じ。
そして上体はやや前傾が基本で、左右の肩の振りのリズムが変則的、即興的。
その上下のバランスの崩し方、戻し方が独特で、そのバランス復元を身体全体に巧く連動させて連打していました。

また、闘い方も思った以上に練られていましたね。
今回はほぼ左リードを省略して、右で探って後続に繋げたかと思うと、ダイレクトで強打したり。
八重樫から見たら、普通の左リードに合わせるきっかけが、まずひとつ選択肢から消された。
その代わりの右のリードが、ジャブ並の速さを持ち、なおかつ、軽いのかと思ったら強打だったりで、脅威だった。
そして強弱、長短の組み合わせが多彩で、柔軟な動きから硬質なパンチが来て、その上、セオリー無視の組み合わせで、変なとこ(例えば普通にジャブを打つはずの間合い)に、何故か右ボディストレートが来たり。
とにかく対応するのが大変だったと思います。

ゲホン戦、新井田戦の、アングルを決めたら外連味無く打ちまくるアタッカー、という印象とは、今回はだいぶ違って見えました。意外に、と言うのはあまりに失礼でしょうが承知の上で、こいつ、案外、奥深いんかな?、というのが今回の率直な感想だったりします(笑)

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