さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

ただただ感心/期待と現状のズレ/大橋ジムの「後続」二人/動画紹介

2014-09-08 21:41:15 | 井上尚弥



メインがあまりに強烈だったので、それぞれに印象深かった前座も、ほとんど「飛び」ました。
まあしかし、せっかく直に見てきたんだし、ということで、簡単に感想、雑感など。

=================================================

井上尚弥vsサマートレック戦ですが、これはもう、井上が限界を超えた減量にも関わらず、破綻無く闘って勝った、
その一事にまずは感心しました。

相手のサマートレックは一階級下にランクされていたそうですが、なるほど小さくて打ちにくそうな的でした。
それでも井上が序盤は攻め立てる展開。しかしなかなか倒れてくれず、4回、ダウンは取れてもフィニッシュに至らず。
レフェリー、止めろ、と見てるこちらが思っても、ちゃんと反撃の手が出るものを止めるわけにもいかない。

しかし井上は、もちろん減量で削られた体力を考えたのでしょう、6回は無理に行くばかりでなく、足を使って
左一本で捌く、ということを一分以上続け、これはこれで鮮やかで、場内から拍手が起こる。こういうのはちょっと珍しい。
しかも、その捌く展開には、試合のリズムを変え、受けに回って井上の強打に耐えていたサマートレックの身体の締めを
若干緩める効果もあり、その後井上が繰り出した連打、左ボディが効き、サマートレックが二度目のダウン。

7回から井上はさらに丁寧に打ち、休み、というペース配分。11回、ストップまでの流れは、やや迫力に欠けましたが、
要所で正確なヒットを重ねていて、勝ちは問題なしでした。

減量苦を抱えた身で、夏場の調整ということもあり、非常に苦しんだとは思いますが、たとえ格下とはいえ、
驚異的な粘り、闘志をもって食い下がってきた相手に対し、危ない場面を作らせず、リスク管理をほぼ間違えずに
闘い抜いて勝った、というのは、21歳の若いボクサーとしては、なかなか見られない冷静さです。感心しました。

これほど才能と力に恵まれた若者ならば、悪い意味で若さを露呈し、愚かしい選択ミスを犯し、試合のペースを
みすみす相手に渡して、試合展開を悪い方に傾けてしまうことがあっても、何の不思議もないと思います。
しかし、井上尚弥はそういう間違いを何一つ犯さず、問題なく試合を終わらせました。


サマートレックの大健闘、奮戦を称えたい一方、やはり試合前から思っていたとおり、井上尚弥にとり、いまひとつ
闘う意義が見出せない試合ではありました。こんな防衛戦より、112ポンドでの初戦を無冠戦で闘ってほしかった、
という気持ちは、今でも変わりません。しかし、無理のある状況下においても、その若さに似合わぬ確かさを、
井上尚弥に見ることが出来たのは、やはり彼の今後への期待が間違いではないと思え、嬉しい気持ちにもなりました。

前日計量の写真、そしてこの日、花道に顔を見せた時の表情は、普段とは別人のように顔が細くなっていて、
一定の限界を超えた減量の結果がこうなのだろう、と、見た瞬間に背中が冷たくなりました。
その時の印象から思えば、内容も結果も、見事なものだったと思います。

=================================================

村田諒太については、残念な内容だったと、誰の思うことも同じでしょう。

考えてみれば、金メダリストとはいえ、別にアメリカの選手みたいに、プロへの助走という発想で
アマチュアを闘っていたわけではなく、その上、けっして器用なタイプでは無い村田にとり、
プロ5戦目で闘う相手として、アドリアン・ルナは色んな意味で、難しい相手ではあったのでしょう。

今回は調整段階で不調だったとか、或いはミスがあったのかも知れませんけど、考え得る中では
本当に最低の部類の試合だったでしょうね。何もあの相手を鮮やかに倒せなければ駄目、とまでは言いませんが、
最初の接触で「パンチが無い」と思ったら途端に、防御に関する集中が緩み、相手に安易に手を出させてしまう、
村田諒太の悪癖が、先の京都での試合の2回と同じく、今回も早々に出てしまったような気がします。
そしてその流れの上で、柔軟さでは村田を上回ったアドリアン・ルナを相手に、村田は外されているパンチの軌道や
身体の位置、連打のリズムを何一つ修正できず、もどかしい展開のまま試合を終えました。


欧米のメダリストやアマチュアの有名選手が、プロ入り後「2勝65敗」「3勝74敗」みたいな、どえらい戦績の選手と
キャリア初期にどんどん試合数を重ねて、当然とんとんと勝ち星を重ねつつ自信をつけていく、という例が
よくありますが、そういうキャリア構築にも、傍目に見える以上の深い意味、意義があるのかもしれない。

村田が序盤から同じミスを繰り返し、単調な攻めに終始し、そのせいで無駄に体力を浪費し、
しまいには口を開けて息を切らしているのを見ながら、ぼんやりとそんなことを思っていました。
我々が思う村田諒太の実像は、このくらいの相手なら圧倒するだろう、というものでしたが、
それが実は間違いで、もう少し話のレベルを下げる、或いは巻き戻して、彼の試合を見るべきなのかもしれません。
まあ、拙戦もありながら成長していくのかも、という期待も、当然ありはしますが...。


=================================================

この日の第一試合は井上拓真の三戦目。彼のライバルである名古屋のニュースター、田中恒成と同じく、初KO勝ちでした。

お兄さんがあんなだから目立たないですが、この弟も実のところ、普通に見てかなり強い、期待したい選手です。
ファイターだけどパンチが正確で、攻めながらも強振一辺倒でなく、軽く合わせる技もあり、要所ではやはり強打出来る。
やれ最短記録だなんだ、という選手ではないかも知れませんが、じっくり見ていきたいと思わせる、見所のある選手です。

二試合目は長身、イケメン、11戦全勝、どないしたろかこのガキ...じゃなくて、とにかくこちらも期待の星、松本亮が登場。
河野公平戦のKO負けに続いて来日のデンカオセーンを2回、左レバーブローで倒しました。

立ち上がりは少し重いか、と見えた松本でしたが、すぐに距離を取り戻し、長いパンチで圧倒し始める。
初回終盤に右で倒し、2回にフィニッシュでしたが、デンカオセーン不甲斐なし、というのはまた別にしても、
松本が順調に力をつけているのも事実として見えました。

個人的には、井岡ジムの石田匠との、東西長身対決が是非見たいですね。
体格は似ているけど、タイプが微妙に(...全然?)違うような気もして、色んな意味で興味深い試合になりそうです。


大橋ジムの、八重樫、井上に続く「後続」の二人は、着実に成長し、大器ぶりを証明していくことでしょう。
このふたりの今後にもまた、期待大、ですね。


================================================

で、この興行を関西でとりあげた「せやねん」動画を最後にご紹介。
まあ、目新しいことは特にないですが、こちらでもそれなりに見られていた、ということで。







コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 試合ではなく「闘い」の末に... | トップ | 内山来阪/11月が熱い?/キ... »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (neo)
2014-09-08 23:17:01
井上尚弥選手は、減量のせいでしょうけれど、調子悪かったですが、ほとんど破綻ない試合運びは流石でした。しかし、彼ほどの選手にして、体力が落ちた状態だと、あの信じられない機会を打つ、その作業が難しくなるのだなあ、と思いました。
相手は覚悟を決めた、経験豊富な粘り強いタイプで、同じような選手は日本レベルでも佐野選手や田口選手とやっていますが、より実戦的な印象を受けました。
村田選手は特殊で異常な武器でアマを制した選手ゆえ(アマのルール変更が非常に有利に働いた例だと思います)、初歩的な技術の不足を強く感じました。
ガード主体のファイターなら幾人か名選手が頭に浮かびますが、距離感と足とジャブが彼らに較べて決定的に劣っていると思います。そしてこれらの技術は初歩であり、持たざる選手の拠り所であり、それ故に工夫および練磨が最も厳しく問われる武器だと思っています。この試合で最も端的に露呈した不足点を村田選手がどこまで深刻に受け止めているか、その深刻さが今後を決めると思います(正直、インタビューからは危機感を殆ど感じられませんでしたが)。
返信する
Unknown (R35ファン)
2014-09-09 07:16:04
どうもです。井上君は鮮やかに、とは行かずともスピード、タイミング、正確性、技術、バリエーションを見せてもらいました。これだけの逸材が無理矢理小さな箱に閉じ込められるより上の階級で、力強さも披露し、エストラーダやロマゴンとアメリカで戦う事を願ってやみません。
村田君はプロ転向一年にしては、という普通のアマチュア上がりと同じ扱いではないですからね。ただほぼワンツーしかない攻めの単調さ、種類の少ないジャブ、固い膝、ガードしかない守りが今の段階でも直っていないのは厳しい。何べん「左の返し!」と叫んだか。それに思ったよりスタミナないんだな、と思いました。村田君みたいなタイプはアメリカ式にじっくり20、30戦経験積んでから世界やる方が良いと思いますが金メダリストの肩書きがそうはさせないのでしょうか。
大橋ジムは逸材揃いで面白いです。その中の一人、原君が井上次男君のライバル、田中君と行う東洋タイトルマッチも非常に楽しみです。
返信する
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2014-09-09 18:27:30
>neoさん

サマートレックは強打で鳴らすランディ・ペタルコリンでも倒せなかったという話を試合直前に聞いて、ちょっと難しいかなと思っていましたが、井上自身の顔つきを見たときに、これは相手どうより井上自身に不安があると感じました。闘志と粘りは驚異的な相手に、あの感じでありながら、無理なく闘って勝てること自体が凄いことだと思います。
村田は確かに当時のアマチュアにおける勝ち方の趨勢を上手く掴んだ選手なのかも知れませんね。ただ、力自体は確かにあり、身体の強さも相当なものだと思います。問題はその強さや特性を生かす基盤がなく、基本的な部分がまだ磨かれていないとことでしょう。イスマエル・サラスの指導力にもやや疑問を感じますが、今は練習でも試合でも、我慢の時なのかもしれません。個人的にいえば、どうも「当たり」で負けないと見た相手に対して、技術的な面で隙を見せすぎ、受けに回りすぎ、という印象が拭えず、技術もそうだが心がけの面で不満を感じる、というところですが。

>R35ファンさん

フライ級あたりの軽量級で、米大陸での活躍がどの程度期待出来るかはちょっとわかりませんが(カルバハルやチキータの頃の「ブーム」は、今思えば例外的な現象だったかも)アメリカのファンがどう思おうと好選手が揃って来た軽量級クラスで、井上尚弥の国際的な活躍という夢を見られるのは楽しいことですね。
村田に関しては上記コメントに加えるとすれば仰るとおり、左の返しが上に行かないことですね。もっとも今回、終盤に初めてかと思うくらい、何発か左フックが上に返りましたが。あれを打てるならもっと元気な序盤のうちに打っておけばいいのに、とちょっと不思議でした。メダリストだから早期に世界、というのは、やはり多少軌道修正した方がよさそうです。「リングの上では、肩書きは闘わん」とは、若き鬼塚勝也の名言ですが、まさしくその通りです。
原vs田中戦は、調べた限り、どうやらTVがなさそうです。ということで、また馬鹿を企てる羽目?になりそうです...。
返信する

コメントを投稿

井上尚弥」カテゴリの最新記事