昨日は横浜文化体育館にて観戦してまいりました。
メインイベントは井上尚弥が長身のフランス人、ヨハン・ボワイヨを3回TKO。
内容も結果も、期待通りのものでした。
しかし立ち上がり、足が動かず、圧し方もやや強引、手間を省く感じ。
探りや崩しを飛ばして、最初から仕留める構えで出た。そんな印象でした。
オマール・ナルバエスを沈めて以降、WBO1位の選手数人に逃げられて来ましたが、
米国デビューを果たしてからこっち、とうとう他団体の王者にも逃げられるようになり、
強すぎるが故に大試合に出られない、本末転倒のただ中にいる井上尚弥の、
苛立ちや焦燥が、僅かに垣間見えたような、そんな気がしました。
長身、モデルばりの風貌、懐深く、遠くからボディストレートを打てるボワイヨは、
懸命に手を出し、動き、とやっていましたが、井上が少しずつほぐれ、動き出すと
右クロスを食い、反撃を外され左フックを食い、ダウン。
これは井上が体全部を回していない「合わせ」だったので、ダメージは浅かったか。
ラウンド後半はいつもの感じに近い井上でしたが、全体的に圧しが強すぎかな、とも見えました。
しかし2回、同じ調子で出ているかな、と見えたところに、ボワイヨの右アッパー。
見ていて、タイミング抜群、いいとこ狙った!と思ったパンチでしたが、
井上は前に出ながらも、鮮やかに躱して左フックを返していました。
相手との実力差ありあり、なれど仕方なく?組まれたこの試合の、白眉といえるシーンでした。
TVでどう映っていたかはわかりませんが、会場で見ていて、若干攻めに傾きすぎかと見えながら、
それでもあのパンチを当然のように外して、また打っていける井上の、センスの片鱗を、
まざまざと見せつけられたように思いました。
3回、左のレバーパンチが決まり、あとは井上のクッキングタイムとなり、試合は終わり。
好カードでもビッグマッチでもないですが、一流王者の「片付け仕事」として過不足なし。
そんな試合だったように思います。
試合後のインタビュー、やはり井上尚弥の表情に、満足感は乏しかったですね。
ランカーが逃げるならともかく、王者を名乗る相手にも逃げられて、
嫌気がさしてしまう自分との闘い、それがこの試合の実相だったのかもしれません。
統一戦を戦わずして最強の評を得たまま、来年はバンタムに転じるのでしょうが、
標的は実質二択なのでしょうね。ゾラニ・テテか、ルイス・ネリーか。
個人的には、ゾラニ・テテに挑んでほしいと思います。
サウスポーで手ごろな相手と無冠戦でお試ししてから、というのが普通の発想ですが、
そういう話になる可能性があるかというと、たぶん...でしょうね。
バンタム転向、長身、強打、しかも左と、普通のボクサーならもう何重苦なんやら、
という話ではあります。
しかし井上尚弥のようなチャンピオンには、その偉大さゆえに、より険しい試練が、
宿命的に巡ってくるものだったりもします...本来ならば。
そして、その宿命に、いかに挑み、乗り越えるか。
井上尚弥が臨むべき闘いが、バンタム級に転じることで実現するのなら、
いよいよその闘いから目を離すことはできませんね。
つい最近、海外記者の投稿した記事を読んだのですが、井上尚弥についておおよそ次のように書かれていました。
『Sフライ級の3年間で、強敵と言える相手は全盛期を過ぎたナルバエスだけだった。彼は誰とでも戦うと言っているが、多くの日本人選手と同様に、それを実行することはない。バンタム級のゾラニ・テテは誰とでも戦うと宣言しているが、井上がテテと戦うことはあるのだろうか?』
一記者の意見が海外の総意だなどと言うつもりはありませんし、マッチメイクが諸般の事情でままならないことも理解しています。しかし、海外で高い評価を受けているという井上も、対戦相手の質という意味において、厳しい視線を向けられているのだと感じます。
かつて井岡一翔は高い才能を持ちながら、過保護なマッチメイクに守られ雑魚狩りを繰り返した結果、彼の才能に陰りを落としたと私は思っています。井上尚弥にもその不安を感じます。
2018年は、モンスターの真価が問われるようなサバイバルマッチを見たいものです。
最後になりましたが、今年一年も貴ブログを楽しく拝見させて頂きました。
良いお年を!!
完璧な勝利と呼べる内容で防衛を果たして、その後のインタビューでこれだけあからさまに喜ばず、怒りと苛立ちが心中に渦巻いているのが誰の目にも明らかだ、と言える態度を取る世界王者が今まで居たでしょうか? 拳四朗の上機嫌と見比べるとあまりに対照的で、異様さが際立っていたように思います。香川照之は「いつ井上を日本で見られなくなるかわからないのだから、我々はその心構えで彼の試合を見なければいけません」と言っていましたが、それが出来ていればそもそもこの試合自体が……。
多分皆、バンタム級で誰と戦って欲しいかについては意見が一致するのではないでしょうか? 今回井上がいつものようにジャブを打たなかったのも『彼』に対する為の予行演習の趣があった……かも知れません。『彼』相手にはジャブを下手に出したら長いリーチでの痛烈なカウンターが飛ぶ危険があります。実際、最近の井上相手にする選手はカウンターでどうにかしようという傾向が強いです。そうでなければ無理だ、という認識が広がりつつあるのだと思います。しかしながら、対策されてなお勝ち続けてこそ横綱、真の王者。それに相応しい相手との試合がバンタムでこそ決まって欲しいと思います。それこそ英国であれ米国であれ……。
余談ですが、井上については『怪物』という一瞬の夏みたいな?(読んだ事はないですが)ドキュメンタリー小説が来年3月に出るそうです。本来この手の本は買わないし興味もないのですが、万全なのにままならない、満たされないこの一年についての話だと言うのなら、それについて井上が何を思っているかその一端でも示されているかも知れぬと言うのなら、これに関しては話は別ですね。
ナルバエス戦以降強豪が避けているということでついぞ井上尚弥という存在に見合った相手と試合が組まれることなく転級することになりましたが、個人的には結局何のために今までスーパーフライに留まっていたのかと思ってしまいます。
従来の日本人ボクサーとは異なる次元にいる井上選手を長い視点でプロモートする力が大橋会長にないなら海外のプロモーターと契約するなり実力に相応しいキャリア構築が出来るようにしてもらいたいと心の底から願ってます。
さて,井上の相手,ポワイヨですが,戦前にはヨワイヨでしょ,なんて野次馬の声が聞こえてきましたが,背が高く手足が長く,ぎこちないながらも足が使えて,31連勝中と何かがあるかも知れない印象でした.実際に戦ってみると,距離も遠く,また右を振りながら頭を持ってくるなど,汚いながらも実戦的な技もあり,井上がいつもより観察に時間を費やした理由がよく分かりました.実際に試合が動き出しても井上は右を再三空振りするなど,距離の遠さを感じる立ち上がりでしたね.しかし一旦崩すと冷静に攻防を見極め最短でボディを攻めしっかり仕留めたのは流石でしたね.
ただ,皮膚の色つやなど体調は最悪に見えました.動き自体は良かったですが,攻防でやや攻め急いで圧力を性急にかける様な場面も多かったですから,Superflyは卒業もやむなし,みなさまご指摘の通りbantamでまず標的はテテでしょうかね.今回の試合を唯一メリットに変えれるなら,フレームの点で仮想テテと言えなくもないですし.大橋会長やアメリカのプロモーターのお手並み拝見と言ったところでしょうか.
ボワイヨ戦、リアルタイムでテレビ観戦した時には、初回から結構強引だなくらいの印象でしたが、見返すと雑というか何というか、マッチメイクに対する苛立ちが滲み出ているように見えました。それがある種の凄みにはなっていましたが。前回のニエベス戦でも思いましたが、戦い方がやや雑ゆえに、井上のパンチ力、フィジカルの優位性がよく分かる試合だったと思います。
2017年に戦った3選手に共通して感じたのは、井上の強さをよく分からずにリングに上がってしまったのかなと。いずれもリングで素で驚いた表情をさらしていたので。そういう‘分かっていない’選手しか試合を受けてくれない状況が何とも悲しいですね。
バンタムではやはりテテと戦って欲しいです。イギリスのサイトで早くも井上-テテが記事になっていましたので、イギリスに乗り込んで欲しいですね。
今年はトップ選手との試合が組めることを、心から願います。
不機嫌さが試合の勝ち負けに響くようなら問題ですが、そこはきちってしてますね。油断まで行ってしまうと困りますが、そうではないですから。
今回は正面から圧して、来たら叩いて、でしたね。左右に動くことはほぼなかったような。バンタム級はテテ、ネリーが次、指名された試合になりそうで、じゃあ二冠バーネットはどうか?それともまさかの5人目か?と思ったらこの人はこの人で転級間近だとか。まさかの5つめ王座決定戦出場やないやろね、と...はてさて、どうなりますかね。強さ故の難しさは、今後も変わることなく続くのやも、ですね。
>キーリチさん
結局、井上が活動の軸足をすべて完全に、欧米のリングに移して闘うなら、こういう論評がなされることもなかったでしょうね。昨年やっと一試合やりましたが、7度防衛をすべて米国でやっていれば、7度防衛のうち「強敵」との試合があと二つ三つは必ず組まれたでしょう。しかし実際はその段階に進んでいないわけです。この海外記事の筆者に倣い、辛いことを言えば、井上は実力に見合う商業的価値を持つ努力をせずに、強豪相手との試合を求めるという無理をしている、という言い方もあり得るでしょう。もちろん、他団体の王者が情けないというのもありますが。仮にもベルトを腰に巻く身でありながら...と言いたい気持ちもありますね。
拙いブログですが、お読みいただきありがとうございます。今年もよろしくお願いします。
>月庵さん
スーパーチャンプの試し斬り、というような試合でしたね。超一流の王者にも、時々はこういう試合があると。問題はこれが「時々」なのかどうか、ですが。
井上は様々に思うところがあったでしょうが、それでも投げやりにならず、自分の力を維持している点は、やはり冷静だし大人ですね。もっと「ガキ」な選手も過去にはたくさん見てきましたが、精神面でも出来が違うな、と。
バンタムでの予行演習、相手の背が高いから、という戦前記事には、どうかなそれ、としか思いませんでしたが、そこまで戦い方自体が意識されたものだったかどうか、ちょっとわかりません。距離の克服なるか否か、斜に構え、遠いサウスポーを打ち崩すには、サイドから食いつく攻め込み方が出来るかどうかだ、と一般論として思いますが、今回の試合でそれがあったかというと...その辺が、雑だった、というか、圧しが勝ち過ぎかな、と思った部分です。
対井上の策としては、仕掛けて狙っても、空いたとこ差し込むのが上手いから、待ちから試合を作ろうという流れになるのも止む無し、でしょうかね。以前は待ったらブロックの上から叩きに行きましたが、今は拳の負傷もあり、そこまではしなくなったことも一因でしょうか。
バンタム級の情勢は、すぐにとはいかない面もあるやもですね。テテやネリーのみならず、他に行っても、転級というのは困難なもののはずです。井上がその常識をまたも打ち破るのかもしれませんが。
その小説、ちょっと興味ありますね。機会あれば読んでみたいですね。
>海藻類さん
普通ならあれだけ背が高く、懐深く、足使う相手に、距離が合わずに大振りになり、雑に見えるのが普通のことではありますね。しかし、すぐに捉えて倒してしまうんですから、恐ろしいです。3回の詰めも、けっこう荒かったですね。強い相手と闘いたい、そう思って強くなったら、こんな相手とやらないかんのか...という心境にあるのではないかと、勝手にですが想像していまいました。相手との巡り合わせの話は、上記コメントのとおり、全部あちらに軸足を置くのでなく、国内の権益も捨てずに...という方針が原因として大きい一つだ、と思います。大橋会長も難しい舵取りを強いられている、という好意的な見方もありましょうが、日本ボクシングの枠内に収まらない選手が出たときには、また違った方向性があってしかるべき、と思いますね。仰るような厳しい見解が、もっとあっていいと思います。甘い顔見せたら、すぐに勝手な相撲を取り始めるのが、日本ボクシング界の既得権益者ですからね。
>hiroさん
セミとメインの間、ちょっと空きましたが、有名ドラマーさんの生演奏など、けっこう楽しくもありました。場内盛況でしたね。初めての横浜文体は、アクセス良いし、席は狭いが見やすい角度で、けっこう良かったですね。清水聡は試合はちとアレというかナニな感じでしたが、インタビューが面白くて良かったです。たくますだ戦は流れたんですか?まだ未チェックです。
それはともかく、今年もよろしくお願いします。
>Neoさん
こちらこそ、今年もまたよろしくお願いします。
井上は最初、正面から押しつぶしにかかる感じに見えました。相手との慎重さもあり、ちょっと不安もよぎりましたが、実際は迎え撃ちも鮮やかに外して打ち込む、井上ならではの攻めでもあったので、その辺は徐々に安心しましたね。体調はわかりませんでしたが、大橋会長による「減量苦ゆえのものもらい」とコメントには驚きました。本当にそうなら、やはり転級は必至ですね。実際、ジムで動いている映像を見ると、かなり大きいですしね。
今後はバンタムで、思うように話が運ぶか否か、ですが...少し待つならテテかネリー、もし受けてくれるならバーネット、英国遠征はどうか?最低なのはWBA第二王座に絡む動き?というところでしょうか。
>海の猫さん
初めまして、拙いブログですがよろしくお願いします。
会場で見ていると表情を逐一見ることは出来ないのですが、あの出方、闘い方だけで、そういう印象を持ってしまいましたね。
攻防一体、叩いて、引いて、来たとこ狙い、また攻めて、という井上の能力が十全に出る試合にはなりようがない、そういう相手だったせいもありますが、雑に見え、ベクトルが一方だったですね。
相手から見て、井上の強さは事前情報を超えるものがあるのでしょうね。単に強いだけではない、狙いの鋭さ、高度さという部分も。
イギリス遠征は、けっこう無茶もされるとか、過去の例ではありますね。最近はどうかわからないですが。良い条件ならどんどん行けばいい、井上尚弥はそれでも勝てる、と信じてもいますけど。