パラレルワールドを念頭にした検討の4回目。平行世界の検討は、一旦これで一区切り。
【輝く未来を抱きしめて】
劇中冒頭で野乃さんは元気よくおっしゃられている。
『なんでもなれる!なんでもできる!』
(「HUGっと!プリキュア」OP冒頭より)
その他、ジョージとのやり取りを初め「未来は変えられる」とも述べている。
これらを言葉通りに受け取ると「歴史は改変可能」です。未来は変えられる。そしてタイムパラドクスを避けようとすると「分岐世界」となる。
ですがテーマとしてみた場合、文字通りの「未来は変えられる」ではないように思います。
たとえばアンリ君の事例。
「過去に戻って怪我を防ぐ」ではない。
「根性で治癒して復帰」でもない。
「プリキュアになったことで足が治った」のでもない。
言葉通りの意味では「なんでもできる」は実現していません。
クローバーとの事例もそうです。「過去に戻って約束を守った」のではない。
ジョージの体験した悲劇を食い止めたのでもない。
ミデンの会社倒産も阻止していないし、過去に戻ってやり直しはしていない。
前髪のカットも、ついぞ最終回まで成功しないままだった。
では「なんでもできる」は嘘かというとそうではなく、「失敗や挫折をしてもそれで終わりではない。最初に描いた経緯と違っても、絶望に閉ざされはしない」の意味と思われます。
公式でも「子供向けだからこそ、挫折をないものとはしたくなかった」と語られています。
悲しいことですが、挫折はある。だから挫折を何が何でも防ぐのに執着したり、挫折したら終わりと考えるのではなく、「挫折しても立ち上がれる」「何度でも奇跡を起こせる」が現実的で前向きです。
どんな挫折が待っていても、なんでもなれるし、なんでもできる。
また「変わる」といえばもう一点、薬師寺さんの事例のように「なりたい姿」が変わる描写もあります。
これもそのまま見れば「未来は変わる」なのですが、「輝く未来」の観点では変わっていません。
薬師寺さんは女優に絶望したから、渋々医者を目指したのではない。彼女の「輝く未来」は変わっておらず、その手段としての職業が医者だったというだけ。
「ハグプリ」は「お仕事」がテーマだったこともあり、「職業に貴賤はない」はかなり意識されていたとのことです。
どの職業を選んだとしても、「だから悪い」「だから絶望」ではない。職業が変わったとしても、輝く未来は変わらないと信じたい。
故に、テーマ面から考えると「未来不変」。
頑張れば挫折はなくせる(歴史改変)や、挫折したままの別世界がある(分岐世界)ではテーマが成立しないように思います。
これまでのプリキュアシリーズを踏まえても、私としてはそう考えたい。
【似て異なる世界】
それでもなお「パラレルワールド」を前提とするなら、考えられるのは「分岐ではなく、単純な異世界」説です。
「はぐたんが未来からやってきたので分岐した」とかそういった「別の可能性の世界」ではなく、何となく似ているけれど無関係な異世界。本質的にはトランプ王国やパルミエ王国と同種の「異世界」であれば、上記の問題はクリアできます。
『アンリ君の怪我が治らなかったように、ジョージの「大事な人」も生き返ったりはしない。
でもジョージは前に進めるし、挫折から立ち上がれる。なんでもできる、なんでもなれる』
この場合、野乃さん達は「未来を守った」とか「破滅を回避した」のではない。
そもそもこの世界とあの世界は別世界ですから、あの世界の「未来」はこの世界の「未来」とは全くの無関係。
あっちが破綻したからといって、こっちが破綻するとは限らない。野乃さんらが頑張ろうと頑張るまいと、破滅なんて起きない(かもしれない。あっちの世界とは全く無関係に、別の理由で破滅が待っているのかもしれない)。
あくまで異世界からの侵略者・クライアスを撃退したというだけのことです。
これはこれで矛盾はしません。が、個人的には何か微妙です。散々「未来」と言っていたのに、実は全くの無関係では肩透かし。
それに「未来には挫折なんかないかもしれない」は、漠然と受け身に感じます。それならばまだ「挫折を防ごう」の方が前向きに思えるし、「挫折は起きるが必ず立ち上がれる」の方がパワフルに感じます。
【変わらぬ二つの世界】
上記の改良で、可能性としてもうひとつ。
「分岐したが未来は不変」説でも説明はできます。
『はぐたんがやってきたことで、世界がふたつに分かれた。
この二つの世界はそれぞれ「未来不変」。
分岐したその瞬間には異なる未来になるが、定まった未来は変えられない』
この世界観の場合、テーマとの不整合は回避できます。
あちらの世界の「ジョージ最愛の人」は亡くなられたままですが、ジョージは立ち上がれる。
こちらの世界でも何らかの挫折や破滅は起きるでしょうけれど、野乃さんたちはきっと立ち上がれる。
問題なく「未来不変・単一世界」と同じテーマ展開にできる。
できますが、じゃあ何で分岐を取り入れたのかが怪しくなります。
確かに「分岐した後」は不変でも、また分岐が起きたら未来が異なってしまう(世界がある)。
だったら、あっちの世界の過去にはぐたんを何度も送り込めば、「最愛の人」が生存できる世界も分岐するんじゃなかろうか。
ジョージの戦略が「時間停止」から「大量分岐」に変わり、更なる不毛な戦いが始まってしまいそうです。非常にまずい。
結局は「分岐」する時点で「未来が変わる」のだから、未来不変を前提にできなくなってくると思う。
新たに説明できることや解消できる問題もないのに、あえて複雑な設定を持ち込む必要はないはず。というか自分で書いておきながら、この項が指してる世界観はつかみづらすぎる。
【まとめ】
以上、ストーリー面・キャラクター面・テーマ面からパラレルワールド説を考えてみた。
いずれも大問題で、最初に書いた通り平行世界や歴史改変説は厳しいと思う。
逆にいえばこの3点をクリアできれば可能性が出てくるはず。
「前髪」の件のようにうまく説明できることもあるので、引き続き平行世界等で成り立つかは折に触れて考えてはいきたい。
参考:
●HUGっと!プリキュア 愛崎えみる研究室問題考察(一覧)
【輝く未来を抱きしめて】
劇中冒頭で野乃さんは元気よくおっしゃられている。
『なんでもなれる!なんでもできる!』
(「HUGっと!プリキュア」OP冒頭より)
その他、ジョージとのやり取りを初め「未来は変えられる」とも述べている。
これらを言葉通りに受け取ると「歴史は改変可能」です。未来は変えられる。そしてタイムパラドクスを避けようとすると「分岐世界」となる。
ですがテーマとしてみた場合、文字通りの「未来は変えられる」ではないように思います。
たとえばアンリ君の事例。
「過去に戻って怪我を防ぐ」ではない。
「根性で治癒して復帰」でもない。
「プリキュアになったことで足が治った」のでもない。
言葉通りの意味では「なんでもできる」は実現していません。
クローバーとの事例もそうです。「過去に戻って約束を守った」のではない。
ジョージの体験した悲劇を食い止めたのでもない。
ミデンの会社倒産も阻止していないし、過去に戻ってやり直しはしていない。
前髪のカットも、ついぞ最終回まで成功しないままだった。
では「なんでもできる」は嘘かというとそうではなく、「失敗や挫折をしてもそれで終わりではない。最初に描いた経緯と違っても、絶望に閉ざされはしない」の意味と思われます。
公式でも「子供向けだからこそ、挫折をないものとはしたくなかった」と語られています。
悲しいことですが、挫折はある。だから挫折を何が何でも防ぐのに執着したり、挫折したら終わりと考えるのではなく、「挫折しても立ち上がれる」「何度でも奇跡を起こせる」が現実的で前向きです。
どんな挫折が待っていても、なんでもなれるし、なんでもできる。
また「変わる」といえばもう一点、薬師寺さんの事例のように「なりたい姿」が変わる描写もあります。
これもそのまま見れば「未来は変わる」なのですが、「輝く未来」の観点では変わっていません。
薬師寺さんは女優に絶望したから、渋々医者を目指したのではない。彼女の「輝く未来」は変わっておらず、その手段としての職業が医者だったというだけ。
「ハグプリ」は「お仕事」がテーマだったこともあり、「職業に貴賤はない」はかなり意識されていたとのことです。
どの職業を選んだとしても、「だから悪い」「だから絶望」ではない。職業が変わったとしても、輝く未来は変わらないと信じたい。
故に、テーマ面から考えると「未来不変」。
頑張れば挫折はなくせる(歴史改変)や、挫折したままの別世界がある(分岐世界)ではテーマが成立しないように思います。
これまでのプリキュアシリーズを踏まえても、私としてはそう考えたい。
【似て異なる世界】
それでもなお「パラレルワールド」を前提とするなら、考えられるのは「分岐ではなく、単純な異世界」説です。
「はぐたんが未来からやってきたので分岐した」とかそういった「別の可能性の世界」ではなく、何となく似ているけれど無関係な異世界。本質的にはトランプ王国やパルミエ王国と同種の「異世界」であれば、上記の問題はクリアできます。
『アンリ君の怪我が治らなかったように、ジョージの「大事な人」も生き返ったりはしない。
でもジョージは前に進めるし、挫折から立ち上がれる。なんでもできる、なんでもなれる』
この場合、野乃さん達は「未来を守った」とか「破滅を回避した」のではない。
そもそもこの世界とあの世界は別世界ですから、あの世界の「未来」はこの世界の「未来」とは全くの無関係。
あっちが破綻したからといって、こっちが破綻するとは限らない。野乃さんらが頑張ろうと頑張るまいと、破滅なんて起きない(かもしれない。あっちの世界とは全く無関係に、別の理由で破滅が待っているのかもしれない)。
あくまで異世界からの侵略者・クライアスを撃退したというだけのことです。
これはこれで矛盾はしません。が、個人的には何か微妙です。散々「未来」と言っていたのに、実は全くの無関係では肩透かし。
それに「未来には挫折なんかないかもしれない」は、漠然と受け身に感じます。それならばまだ「挫折を防ごう」の方が前向きに思えるし、「挫折は起きるが必ず立ち上がれる」の方がパワフルに感じます。
【変わらぬ二つの世界】
上記の改良で、可能性としてもうひとつ。
「分岐したが未来は不変」説でも説明はできます。
『はぐたんがやってきたことで、世界がふたつに分かれた。
この二つの世界はそれぞれ「未来不変」。
分岐したその瞬間には異なる未来になるが、定まった未来は変えられない』
この世界観の場合、テーマとの不整合は回避できます。
あちらの世界の「ジョージ最愛の人」は亡くなられたままですが、ジョージは立ち上がれる。
こちらの世界でも何らかの挫折や破滅は起きるでしょうけれど、野乃さんたちはきっと立ち上がれる。
問題なく「未来不変・単一世界」と同じテーマ展開にできる。
できますが、じゃあ何で分岐を取り入れたのかが怪しくなります。
確かに「分岐した後」は不変でも、また分岐が起きたら未来が異なってしまう(世界がある)。
だったら、あっちの世界の過去にはぐたんを何度も送り込めば、「最愛の人」が生存できる世界も分岐するんじゃなかろうか。
ジョージの戦略が「時間停止」から「大量分岐」に変わり、更なる不毛な戦いが始まってしまいそうです。非常にまずい。
結局は「分岐」する時点で「未来が変わる」のだから、未来不変を前提にできなくなってくると思う。
新たに説明できることや解消できる問題もないのに、あえて複雑な設定を持ち込む必要はないはず。というか自分で書いておきながら、この項が指してる世界観はつかみづらすぎる。
【まとめ】
以上、ストーリー面・キャラクター面・テーマ面からパラレルワールド説を考えてみた。
いずれも大問題で、最初に書いた通り平行世界や歴史改変説は厳しいと思う。
逆にいえばこの3点をクリアできれば可能性が出てくるはず。
「前髪」の件のようにうまく説明できることもあるので、引き続き平行世界等で成り立つかは折に触れて考えてはいきたい。
参考:
●HUGっと!プリキュア 愛崎えみる研究室問題考察(一覧)