非国民通信

ノーモア・コイズミ

他人の就職を世話する仕事

2010-10-28 22:57:57 | ニュース

就職できない大学生が3割 “大留年時代”到来の悪夢(DIAMOND online)

 9月下旬。東京・青山の高層ビルでは、合同会社説明会が開催されていた。

 「イオンさん、セブン&アイさんなど流通各社を50社以上回りましたが全滅でした」

 地場の中堅スーパーの採用担当者にこれまでの就職活動実績を問われた都内中堅大学の女子学生が伏し目がちに答えている。

 斜め後ろのブースは、一般には不人気な、生・損保の電話セールス会社が陣取っていたが、時間指定の整理券をもらわないと説明会に参加できないほど、希望者が殺到していた。


(中略)

 この合同説明会を開催したアクセスヒューマンネクスト社は、「去年の1.5倍、一昨年の2倍相当の学生が来たし、一流大の学生もいる。今年の就職状況の厳しさは、尋常ではない」と指摘する。

(中略)

 大学生の就活を支援する就職予備校の大手「内定塾」には、4年生の就活の厳しさを目の当たりにして、希望者が殺到している。昨年、年間で200人だった3年生の希望者はすでにこの半年で600人と満杯状態だ。しかも、「昨年までほとんどいなかった就職留年組が1割を占め、その半分は親が申し込んできた。早慶、一橋など一流大学も少なくないから、今年の就職状況がそうとう厳しいのは間違いない」という。

 中途採用者は元より高卒者の就職状況は輪をかけて悲惨な状況にあるわけですが、最も頻繁に取り上げられるのがこの大学生の就職難です。新卒者を優先的に採用する慣習のある社会であり、かつ中小企業すらもが中途採用を抑制して新卒採用にシフトしていると言われているにも関わらず、新卒予定の段階ですら就職できない人が続出していることが伝えられています。このような状況下では就職実績を売りにする類の専門学校や人材紹介を生業とする企業が栄えるもので、引用元で触れられているアクセスヒューマンネクスト社は「去年の1.5倍、一昨年の2倍」の集客に成功したようですし、就職予備校の大手という「内定塾」は前年比3倍の入学希望者を半年で集めたそうです。国内求人が急速に減っていく中で、「他人の就職を世話する仕事」だけは伸びていくわけですね。



 こちらは足立区の「若者正社員就職サポートプログラム」ですが、いかがでしょうか。私も問い合わせてみたのですけれど、ちょっと見つけた時期が遅かったせいか既に満席でした。新卒予定者向けの就職説明会の中には、受付開始から30分も経たないうちに満席で予約受付が閉め切られてしまうところも多いようですが、このプログラムはどうだったのでしょう? ちなみにこのプログラムに参加できるのは最大25名とのことです。何人くらい収容できる会場なのかはわかりませんけれど、12回も選考会が開催される中で選ばれるのは多くて25名ということになります。1回の選考会で合格するのは平均2名、就職ではなくプログラムへの参加という初期段階からして狭き門です。そしてプログラムに参加できたとしても確実に就業できる保証はない、正規採用される保証はないというのですからシビアなものです。

 なお足立区の名前が看板に掲げられてはいますけれど、実際に研修や就業先への斡旋を行うのは派遣会社のインテリジェンスです。これは別に珍しいことではなく、他所の自治体でも人材紹介/派遣会社への丸投げはよくあることのようです。まぁ自治体が就職支援のノウハウを持っているかというと甚だ心許ない、しかも人員削減を迫られている中では新規プロジェクトのために人を回す余裕はない、こういう状況では派遣会社(もしくはNPOなど)に委託するほかないのでしょう。派遣会社からすれば自治体からの謂わば「公共事業」を受注する格好の機会になるわけですが、こういう雇用対策事業って、皆様どう思われますか?

 ちなみに上記インテリジェンスなどの派遣会社がプログラム採用者の就職支援を行うかと言えば、そこもまたちょっと微妙だったりします。この辺この辺でも紹介したことになりますが、就職支援を行う部門でも非正規への置き換えは普通に進んでおり、各種の就労支援プロジェクトで働いている人も実は明日をも知れない派遣社員だったりすることが珍しくありません。そして派遣会社側では就労希望者に向けて「他人の就職を世話する仕事」を当たり前のように紹介してくるわけです。このインテリジェンスも例外ではなく、「○○市から請負った就職支援プロジェクト」として「紹介予定派遣を受け入れてくれるよう企業側の人事担当者と交渉する仕事」なんかも平然と募集しています。正直、他人の受け入れ先を探すよりもまず自分を採用してくれと売り込みたくなるところなのですが……

 政府は雇用と人件費削減を掲げ、それを自治体は人材紹介/派遣会社に丸投げする、それを請負った派遣会社は自社登録の派遣スタッフに営業活動をさせて、プログラムに採用された人の就職先を探させる――なんだか随分と、不毛なことをやっているように見えて仕方がありません。確実なのは「他人の就職を世話する仕事」という分野で働く人が増えると言うことでしょうか。まぁ社会の潤滑油として色々なものを仲介する仕事の必要性を認めないわけではありませんが、「他人の就職を世話する仕事」ばかりが増えているとしたら、それは何かが間違っているように思います。日本の生産性が上がらない理由の一つには、こういうところにばかりリソースを振り向けているせいもあるような気がしますし。



 ←応援よろしくお願いします


コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 何ともたまらないグダグダ感 | トップ | 人のフリ見て何とやら »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (2823@求職中)
2010-10-29 01:16:28
>日本の生産性が上がらない理由の一つには、こういうところにばかりリソースを振り向けているせいもあるような

ですよね・・・この国でなにかの対策を取るときに、視点の置くところがあと2マスくらいズレている感じがするのはなぜでしょうか。
返信する
Unknown (シトラス)
2010-10-29 10:52:56
ゴールドラッシュの勝ち組はスコップ売りだと言われるように、就職ビジネスが成長するのは商売的には納得がいきます。
また「飢えた人には魚ではなく、魚の取り方を教えよ」ということわざがありますが、今の状況は魚が死に絶えた海でこの言葉を連呼するようなものかもしれません。
返信する
この国では (ローリー)
2010-10-29 14:43:05
ワケのわからん間違った意見でも大声で言えば正論に聞こえる悪い癖がありますからね(笑)
悪徳弁護士や三流ロリコン芸人とか。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-10-29 20:52:59
>2823@求職中さん

 やっぱり、何かズレているような気がしますよね。どうも現状認識の辺りから間違っているというか、間違った認識に基づいて対策を立てて、そこに邁進しているような感じです。

>シトラスさん

 魚が死に絶えた海で、釣り道具を売る人ばかりが頑張っている、行政は魚の取り方を教える人にお金を払っている、といったところでしょうかね。やはりどこかズレているとしか……

>ローリーさん

 偉い人が自信満々に断言すれば、それで通っちゃうんですよね。国民も批判的に見るより、権威に同化したがる傾向が強いようですし。
返信する
困ったことに (凡人69号)
2010-10-29 22:55:12
派遣業の大幅な規制緩和など「労働ビッグバン」とやらで結局得をしたのは、就職情報産業と大手人材派遣会社だけというシャレにならない事態になっている気がするのですが・・・。
目先の人件費削減ばかりに目がいって、根本的な生産性向上などが果たせてないのが、この国の現状なんでしょうね。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-10-29 23:07:25
>凡人69号さん

 規制緩和によって直接雇用が間接雇用に置き換えられている中でも、「人を派遣する仕事」という需要は確実に増えましたからね。そして就職難になると就職情報関連が伸びてくる、ある意味、新種の雇用は生まれているかも知れませんが、社会全体の効率を考えると随分と馬鹿げた話ですよね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ニュース」カテゴリの最新記事