こちらのエントリで紹介した事例と被るので取り上げるかどうか迷っていたのですが、先日ある派遣会社から「就職支援プロジェクト」の仕事を紹介されました。就職支援プロジェクトを受けて就職を目指しませんか、という意味ではなく、他人の就職を支援するプロジェクトを運用する仕事をしませんか、というわけです。より具体的には横浜市の生活保護受給者の就業支援を担当するとのこと、こっちだってバリバリの失業者ですから他人の世話をしているような場合ではないのですが、その辺を派遣会社側は疑問に思わないものなのでしょうかね。まぁ紹介された仕事で採用されれば失業者ではなくなるわけですけれど、あまりに時給が低かった(ホワイトカラーとして普通の会社に派遣された場合の7割程度)ことに加えて通勤に2時間以上かかる場所でしたので、その日は他の求人に応募しました。
アナタだけの生活再建、考えます 失業支援でモデル事業(朝日新聞)
政府が検討してきた失業者の生活再建をマンツーマンで支援するパーソナル・サポート・サービスが、今秋から動き出す。横浜市や京都府など五つの自治体がNPOなどに委託してモデル事業を始める。就労支援と福祉政策とを組み合わせた「寄り添い型」支援といわれる初めての取り組みだ。
5日、モデル事業の説明会が内閣府で開かれた。来年度からのパーソナル・サポート・サービス実施を検討している県やNPOなど約70団体の職員らが参加した。政府は5自治体に加えて、来年度からは20団体にする計画。都道府県に設置した緊急雇用創出事業基金を活用する。2012年度から制度化し、全都道府県での実施を目指す。
サービスの対象は、失業中で、借金や病気、家族関係の問題など複数の理由で自立した生活を送れない人。自力では、必要な行政の支援策を利用することが難しいケースを想定している。こうした人は、頼れる家族や友人がおらず、孤立しているケースが多い。
実際には、都道府県や市町村がNPOや社会福祉法人などに委託する。県などが設置する「求職者総合支援センター」を拠点として、パーソナル・サポーター(PS)と呼ばれる専門員が活動する。
で、目にした記事がこれです。横浜市などで「自立した生活を送れない人」の就労支援事業を始めるそうです。う~ん、私が派遣会社から紹介された、横浜市から委託されているという就職支援プロジェクトって、もしかしてこれなんでしょうか? 新聞報道では「都道府県や市町村がNPOや社会福祉法人などに委託する」とありますけれど、どうやら派遣会社にも委託されているものと推測されます。派遣社員として働いている人ってのは基本的に正社員では就職できなかったから派遣社員として働いているわけで、その派遣社員がどこまで他人の就職を支援できるものなのか、まぁ指揮命令は手慣れたNPOの人がやるのでしょうし、自分で就職するのと他人を就職させるのとでは勝手も違いますから、就職力に劣る派遣社員でも意外な才能を発揮できるのかも知れませんが……
政府が手本にしたのは英国のパーソナル・アドバイザー。英国内に700カ所以上ある「ジョブセンタープラス」に1万3500人が公務員として常勤するほか、民間の就職支援企業にもいる。
ちなみに政府が手本にしたのはイギリスの制度だそうです。しかるにイギリスの場合、就労支援に従事する人は公務員として常勤するとのこと、対して日本の場合はといえば「NPOや社会福祉法人など」に加えて人材派遣会社などにも委託するのが既定路線です。この点だけでも、結構な違いがあるような気がします。本来なら就労支援も含めた公共サービスを拡大するのに合わせて担い手となる公務員数も増やしていかねばならないのですが、確たる根拠もない公務員削減が至上命題とされているために、色々と無理も出てくるのでしょう。公共サービスを拡充する一方で公務員を減らす、そうなると民間委託するしかない、結果として「NPOや社会福祉法人」+派遣社員の低賃金労働が行政の役割を代替する形になるわけです。一口にNPOや社会福祉法人と言ってもピンキリかも知れませんが、基本的には薄給で働いている人が多いでしょう。派遣社員に関しても言わずもがなです(特にこの仕事は派遣社員の水準から見ても時給が低い)。政府の就労支援事業の結果として生み出されるのが業務委託を請負う官製ワーキングプアだとしたら、やはり何かが間違っているような気がします。規制緩和で非正規雇用を増やして「失業率が下がった」などと言い張るような政策からは根本的に転換する必要があるはずなのに、実際に増やしているのが不安定/低賃金雇用でしかないなら、それは小泉/竹中路線が今なお継続していることを示すばかりです。
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困ったことに、私の棲んでいる県の最低賃金より全然「マシ」な額なのですが・・・。
>ちなみに政府が手本にしたのはイギリスの制度だそうです。
これに限った話ではないのですが、外国の制度や概念を日本の行政が取り入れる場合、何かと行政にとって都合のいい解釈をしがちなんですよね。
1990年代の『ジェンダーフリー』はその典型例ですが・・・。
言葉の問題なのか文化の問題なのか、さっぱり見当がつきません(苦笑)
横浜と言えば中田なんて、制作会社に仕事を回す事で”良い関係”を結び、赤字になると分かってるイベントを強行。
管理人さんが言われていた相場より安い時給ってのも、派遣会社のピンハネとも考えられますし。ってか、派遣会社がピンハネそのものか。
企業に利益を回すのが、今の政治家の仕事としか考えられません。
こんな就職支援なんて、ブラックホール経済の中で派遣会社に一息入れさせようとしてるに過ぎません。
内部留保に回る金を吐き出させなくて、どんな対策となるんでしょうか?
太平洋の海水をスプーンですくって干拓をやろうと言うのと同じ事です。イギリスの様に充分な数でもあれば、話しは違うんでしょうけど。
40才になってギターをはじめて、50年後にはクラプトンを超えるって豪語(?)してたゴキゲンな同僚を思い出しちゃった。
ジョークを大真面目にやってる滑稽な施策です。
「官製ワーキングプア」という言葉がまかり通る世の中ですから・・・
拙ブログにコメントを寄せてくれる人が、企業が「不況」で大変だから自分達も身を削らなくてはなどと、事実誤認に基づいた哀しすぎる思考に陥っています。
悪い人ではないのですが、こういう考えにしか行かない人が多い限り、「日本」ってよくはならないだろうな~と思ってしまいました。
新自由主義や小さな政府論でさえ、日本に導入される際は随分と独自に改悪されていますからね。外国を手本にすると言いつつ、本来ならば肝になる部分を除外して都合の良いものだけを取り入れて、そうして日本流を作り上げてしまう、当然ながら結果は失敗、それでいて「カイカクが足りない」みたいな方向に話が進められ……
>最下層公務員さん
もはや経済政策すらもが、企業に便宜を図っているだけみたいなところがありますよね。雇用対策もまたしかり、雇用対策に力を入れるフリをしつつ、実際は安く請負ってくれるところに丸投げだったりするわけで。何でも安く済ませることが市民の要望ではありますが、それでワープアを増やしては世話はないです。
>えちごっぺさん
「不況だから」という刷り込みで誤魔化されているものが多いですよね。何でも不況だからで済まされがちですが、実は日本全体で見ればそこまで景気は悪くない、もっと他に問題があることを考える必要があると思います。
「仏を作って魂を入れない」というのを生活の糧となる仕事に展開している様が手に取るように分かる話です。
こういう仕事は理由はどうであれ「何かがおかしいから就きたくない」と積極的に拒否した方が良いのかと思います。
そうですよね、積極的に拒否した方が良い……のですが、こんな仕事でも応募者は殺到してしまうのが昨今の就職事情なのですから堪りません。