非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本の現実

2011-03-01 23:21:34 | ニュース

今期営業益1700億円超に=更生計画の2.6倍以上―日航(時事通信)

 会社更生手続き中の日本航空が2011年3月期の連結営業利益を1700億円超と見込んでいることが25日、明らかになった。昨年8月末に東京地裁へ提出した更生計画では641億円の見通しだったが、コスト削減の徹底により2.6倍以上に膨らみ、過去最高益となる見通しだ。手元資金が増えることで、経営課題である資金繰りの改善や財務基盤の強化が進むことになる。 

 相も変わらず賃金水準が下がり続ける昨今ですが、日航は過去最高の営業利益を記録する見通しだそうで、何とも景気のいい話です。しかるに、日航が不法な「整理解雇」を強行してきたことは記憶に新しいところでもあります。増収増益でも人員削減、給与カットは当たり前なのが日本的経営というものなのでしょうけれど、過去最高益を記録してもなおクビを切られるというのであれば、ちょっと操縦桿をひねってどこかに突っ込んでやりたい気にもなりますよね。

 かつて小泉純一郎は「景気が回復したら、改革する意欲がなくなってしまう」と語りました。好景気では構造改革という名の破壊を正当化しづらくなってしまう、だからこそ景気回復は避けねばならなかったわけです。そして日航に出資した銀行の関係者は「資金繰りの心配が薄れると、リストラが緩む」との警戒感を見せたことが伝えられています(参考)。経営難や資金不足を口実とすればリストラも正当化しやすいけれど、業績好調で手元資金も潤沢とあらばリストラを正当化できなくなってしまう、そうなってしまうことこそが警戒されていたのでしょう。

 この景気の良い「見込み」があったにも関わらず、日航は整理解雇を強行しました。業績からすれば当然、社員を残すことは可能だった「のに」、解雇に踏み切ったわけです。会長の稲森でさえ、解雇した社員を残すことは可能であったかと言えば「経営上不可能かというと、そうではない」と漏らしています(参考)。むしろ残すことが可能だった「のに」解雇したのではなく、残すことが可能だった「から」解雇したと考えるべきなのかも知れません。決算が終わって、過去最高益が記録されてしまえば不当な整理解雇への理解は得にくくなります。だからこそ、好業績が明らかになるより先に解雇を済ませておきたかった、それが性急な整理解雇の本当の理由なのでしょう。

 小泉にとって改革とは景気回復のための手段ではなく目的であったように、日航ひいては日本の企業にとってのリストラもまた、経営改善のための手段ではなく目的そのものなのでしょう。なにしろ日本のエグゼクティヴにとっては労働者こそ打倒すべき階級敵なのですから(参考)、まず何よりも労働者のクビを切ること、賃金を抑制することの方が優先されるわけです。だから「資金繰りの心配が薄れる」という本来なら喜ばしいことですら警戒の対象にされてしまう、これこそ日本的経営と呼ばれるべきものです。

 諸外国では一定の要件を満たせば解雇可能だが、日本では要件を満たさないと解雇できない――そう経済系のメディアでは盛んに語られています。経済系の論説の頭の悪さを象徴するかの如き物言いでもありますが、建前はさておき実態はどうでしょうか? 日航のような大企業でも、解雇要件を満たさないままリストラが強行されているわけです。しかも日本の監督官庁は決して主体的には行動しません。解雇に抗うためには、個人なり団体なりで裁判に訴え出るしかありません。アメリカのように訴訟へのハードルが低い社会ならいざ知らず、日本ではなかなか裁判で争うのは難しいところですし、日航のように組合があれば団体で訴えることもできますが、労組など存在しない企業が圧倒的多数を占める日本の場合は個人での行動を余儀なくされ、個人の無力さから泣き寝入りを強いられるのが現実です。結局のところ、日本における解雇規制とは経営側の良心次第という極めて脆弱なものしか存在しないと言えます。

 良くも悪くも日航は「国」との関わりも強い、日本を代表する企業です。その日航において、業績好調であるにも関わらず、解雇を回避する努力も見られないまま、特定労組加入者や特定の年齢層を狙い撃ちにするなど恣意的な選択による不当な解雇が強行され、それが黙認されるとしたら、まさしく国が不当解雇にお墨付きを与えているようなものです。経済誌に書かれているような社員が法的に保護されたユートピアからはほど遠い、合理的理由を欠いた「自由な」解雇が罷り通る現実がそこには厳然と横たわっています。

 

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6 コメント

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Unknown (とおる)
2011-03-02 05:52:16
そもそも、日航は人件費率がもともと高くなく、破綻原因は、経営側にあったそうですね。
それが、マスコミ報道になると、人件費等が主因であるかのようになる訳で、日本はどうしようもないですね。
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Unknown (ルーピー)
2011-03-02 23:47:38
トヨタが史上最高益を出したときも、賃金は微増でした。絶好調でもよくて微増、ちょっと落ち目になれば大幅減は当たり前、クビだって日常茶飯事というのが相場になっていますね。
 今回の件も、人件費を減らしまくったから上向きになったということにしたい人が多いですね。人件費をなるべく出さないことこそが大事なのだ、どんなに状態が良くても上げないことが肝要だ、というのが定説になってしまっていますね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-03-03 00:10:56
>とおるさん

 結局、日本のエグゼクティヴにとっては、やはり労働者は打倒すべき階級敵なのでしょう。労働者の賃金こそが諸悪の根源、それを打破することこそ改革だ――そういう考えが浸透しているのだと思います。

>ルーピーさん

 悪い意味で、結果よりも経過にこだわっているのかも知れませんね。結果が出れば(利益増なら)OKではなく、「人件費を削る」という経営側の信念に沿ったやり方を貫くことの方が重視されているかに見えます。そして結果を出すことよりも、人件費削減を正当化することの方に執着しだしてしまう、それが日本経済なのでしょう。
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Unknown (紅葉修)
2011-03-03 08:01:10
これで財界は法人税減税で雇用を云々・・・とか言ってるんですから。
まぁ、彼らのいう雇用って、年収100万、有給なし、年金なしのアルバイトみたいなのでしょうけど。
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Unknown (不肖の弟子)
2011-03-03 20:48:59
整理解雇に異議を唱えれば「会社更生法を申請した企業の従業員にそういう権利はない」とか、鶴のマークを復活させることにまでクレームをつける人がいるという話を聞いて、この国の狭量さを感じました。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-03-03 22:45:22
>紅葉修さん

 低賃金で期間限定の仕事ばかりを増やして「雇用を増やした」と踏ん反り返る人が後を絶たない時代ですからね。そして賃金の高い仕事や安定した仕事に就いている人を会社の重荷として攻撃対象にする、こんなものは資本主義ですらない気がしてきますよ。

>不肖の弟子さん

 何かにつれ、権利を「捨てさせる」ことを好むお国柄なのでしょう。権利を守ろうとする人は打倒すべき階級敵、自らの権利を投げ打つ人こそ社会に貢献している、だから権利を捨てよと説くのが今や日本の主流派ですから。
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