選択的夫婦別姓の是非も今回の選挙の争点であると、幾つかのメディアで伝えられています。そして自民党以外の政党は概ね、選択的夫婦別姓に肯定的な候補が多数派なのだそうです。ではやはり自民党が問題なのだと、そういう方向に話を持って行きたがる人もまた多いところでしょうか。しかし私は、かつて選択的夫婦別姓の法制化を公約に掲げていた政党が与党の座に君臨していた頃を覚えています。当時の政府与党の名は──民主党です。
かつて民主党は、選択的夫婦別姓を認める法案を何度か国会に提出し、与党=自民党によって否決されてきました。そんな自民党も一時は支持率が低迷し民主党による政権交代を許したわけですが、この政権交代前の選挙に先だって民主党は選択的夫婦別姓の導入を公約集から外しています。そしてめでたく与党の座に就いた民主党は幾つかの強行採決で自民党からの批判を浴びたりもしましたが、選択的夫婦別姓については俎上に挙げるそぶりもなく、再び自民党に敗れて下野するまで黙殺を続けて今に至ります。
そんな民主党政権の残党は大きく二つの派閥に分かれて存続しているところですが、与党時代に封印していた選択的夫婦別姓を再び持論であるかのように掲げていたりします。かつて公約集から夫婦別姓を外した当時とは、自らが与党であった当時とは、何かが変わったと言うことなのでしょうか? 与党時代に「なかったこと」にしてきた選択的夫婦別姓を恥ずかしげもなく掲げる民主の残党に比べると、まだしも公然と反対している自民党の方が誠実と感じられないこともありません。
この手の発言は一部で喝采を浴びるものですが、与党(自民党)以外の目立ったところに票が集まった結果として現れたのは、何よりもまず維新の躍進でしょうか。自民党政治は糞であるとして、では自民党以外の政党や政治家に力を持たせれば世の中が良くなるかと言えば、「下には下がある」ことを証明しているケースが少なくありません。そもそも大阪近辺が維新の支配下に入って政治が良くなったと思い込んでいる人が「自民党に勝てそうな候補」への投票を呼びかけるのであれば理解はしますが、そういう人ばかりでもないはずです。
むしろ民主党政治に比べれば自民党政治の方がマシ、立憲民主と自民が争う選挙区であれば、立憲候補の当選を防ぐために妥協して自民党に票を投じる、という判断もあるように思います。今の自民党政治に肯定的な人は相当に限られることでしょうけれど、だからといって自民党以外の有力政党すなわち立憲や維新が議席を増やすことで事態が好転すると考えている人もまた限定的で、故に一部の支持層が期待するほど野党第一党への期待は高まっていない、というのが現状と私は判断します。
少なくとも民主党政権時代に「総理大臣」などの要職を務めたメンバーは今も立憲民主党の実権を握り続けており、実際に政権を取った場合に何をするような人々であるかは明らかです。そして維新もまた地域限定ですが、与党としてどのように振る舞ってきたかは十分に判断できます。安易に現政権への審判に持ち込んで自民党政治の○×を問い、そこで「×」ならば野党第一党に投票……みたいな意図が透けて見える主張を繰り返す人もいるところですが、ちょっと卑劣だな、と感じないでもありません。
以前にも書きましたけれど、政策が変わることで世の中も変わります。逆に政策が変わらなければ、世の中が良くなることはありません。同じ政党が与党のままでも政策が変われば世の中は変わりますが、別の政党が与党に成り代わっても政策が同路線であれば世の中は変わらないわけです。そして2009年の政権交代は、まさにそういうものでした。政権交代が、単なるガス抜きに終わってしまうようでは何の意味もありません。たとえ当選の可能性が低くとも政策の異なる候補に投票した方が、単に「自民党でないだけ」の候補に入れるよりはマシでしょうね。