非国民通信

ノーモア・コイズミ

どうしようもない

2012-07-17 22:56:55 | 社会

いじめ自殺、校長「けんかだと…判断甘かった」(読売新聞)

 大津市立中学2年の男子生徒(当時13歳)が昨年10月、いじめを苦に自殺したとされる問題で、中学の校長が14日午後に行った記者会見での主なやり取りは次の通り。

 ――男子生徒がいじめを受けていたという認識は。

 校長「(5日は)いじめという通報で始まったので、確認しているはず。ただ、(男子生徒と同級生に)確認したら、双方が手を出したけんかということだった。その段階で、いじめだという確実な認識はなかった」

 

 方々で話題になっている大津市のいじめと自殺の問題ですが、とりあえず学校(教職員)側は「いじめとの認識はなかった」とのことで綺麗に意思統一されているようです。そんなわけあるかいな、と思うのが至って普通の反応というもので、学校の側の対応については当然ながら囂々たる非難が寄せられているところでもあります。まぁ日中はずっと生徒と一緒にいる教職員が気づかないというのも、とうてい考えられない話ですから。しかしなんでしょうね、例えば学校給食費の滞納問題で原因は何だと「思う」かを教職員に問うみたいな調査があったわけです。これに「保護者としての責任感や規範意識」と回答した教員が多かったのですが、それは単に「そう思う」教員が多いことを明らかにしただけで、滞納の原因がなんであるかを調べたものではありません。ただ、この場合は教職員側の「そう思う」がほぼ全面的に信頼されていた、教職員の回答=事実として取り扱われていたはずです。時に全面的に信用され、時に全く信用されない、学校の先生の権威というのも吹けば飛ぶようなものなのでしょう。

 教員になる過程でそのように教育されるのかも知れませんが、学校の先生には「生徒を平等に扱う」という「美学」があるような気がします。その実践として、学校「以外」では暴行や傷害、器物破損や窃盗、恐喝や不法侵入に相当する行為を繰り返すような生徒の言い分も、あるいは大人しいだけの生徒の言い分も、両者を「等しく」扱うことに誇りを持っている先生も多いのではないでしょうか。ゆえに「いじめられっ子」が暴行や恐喝を受けたと訴えても、「いじめっ子集団」が「そのような事実はない」と反証すれば、「いじめがあったとは言えない」ものと判断するのが一般的な教員というイメージがあります。痴漢みたいに一方の訴えだけで全てが決まってしまうのもアレですが、学校の先生の場合も色々と行き過ぎているように思いますね。

 法律による制限などなくとも「校則」によって学校の中では禁止されている事柄も少なくない一方で、上述の暴行や傷害、器物破損や窃盗、恐喝や不法侵入といった類が許されているのが学校という空間であった記憶もあります。学校の窓ガラスが割られたり消化器が撒き散らされたり、何かが盗まれたり壊されたり、時にはハサミやノコギリで斬り合ったり、階段から突き落とされて骨折する生徒もいましたけれど、それで警察が呼ばれるようなことは一度もありませんでした。昨今は気概のない大学が多くて、自治の精神を躊躇なく放棄しては警察と連携を図るみたいな事例も多いようですが、もしかしたら小中学校とかの方が警察には頼らず自分たちの間だけで始末を付けようという意識が強いのではないか、という気がしてきます。

 

担任「やりすぎんなよ」 大津自殺、暴力見た生徒が証言(朝日新聞)

 大津市立中学2年の男子生徒(当時13)が昨年10月に自殺した問題で、同じ学年だった複数の生徒が、教師がいじめたとされる生徒の暴力行為を見ても、「あんまりやんなよ」と言いながら、ほとんど止めようとしなかった、という趣旨の証言を生徒の家族にしていたことがわかった。

 生徒らは昨年12月、家族に直接証言した。それによると、担任教師の名前を挙げ、いじめたとされる生徒2人が亡くなった生徒に暴力をふるっているのに、「隣にいたが止めなかった。笑ってた。『やりすぎんなよ』って」と話した。ほかの生徒も同様の証言をし、「周りにほかの教師もいた」と話す生徒もいた。

 

 問題の中学校では保護者会が開かれて、言うまでも無く保護者からは学校側の対応への「怒り」が寄せられたようです。被害者の遺族でもないのに、一方的に学校側を非難するばかりの保護者には「あなたのお子さんは何をしてたんですか?」と釘の一本も指したくなるところではあります。まぁ、同級生であったとしても個人でいじめを止めるのは難しいわけで、だからこそ「権限」を持っているはずの教職員に「何とかしろ」と言い募るのはやむを得ないことなのかも知れません。しかし、生徒を指導する権限を有しているからといって教師にいじめが止められるかと言えば、そこは簡単ではないと思います。

 

中1が「先生流産させる会」結成 愛知の市立中、悪質いたずら(共同通信)

 愛知県半田市の市立中学で1月に1年の男子生徒11人が「先生を流産させる会4 件」を結成し、妊娠していた30代の女性担任教諭の給食に異物を混ぜたり、いすのねじを緩めたりする悪質ないたずらをしていたことが28日、市教育委員会への取材で分かった。

 

 誇張されて伝えられているところもありそうですが、中南米などでも麻薬カルテルの勢力が強いところでは、それを取り締まる「権限」を持っている警察官であろうと結局は何もできないとか。警官もまた麻薬組織を恐れ、ギャングのやることは「見て見ぬふり」で我が身を守る人も多いと聞きます。下手に取り締まりに動けば、見せしめとばかりに殺されるというのが珍しくない世界もあるそうです。そして程度の差はあれ学校教師の世界にも似たような構図はあるように思います。「いじめ」の被害に遭うのは何も生徒だけではありません。時には教師が標的にされることもあります。身の安全が保証されていないのは生徒だけではない、教師もまた、時に生徒から脅かされることがあるのです。そして教師が自らの安全を守るために、マフィアならぬいじめっ子の行為を「見て見ぬふり」をして過ごすこともまたあるのではないでしょうか。そうやって「お互いに手出ししない」暗黙裏の協定を作り上げる、汚職警官と麻薬密売組織のような関係を築いている、そうやって「秩序」を保っている学校現場は決して例外的な存在ではないはずです。

 いじめ――暴行や傷害、窃盗や恐喝などの犯罪行為――を受ける側にとっては一大事でも、学校組織にとっては日常の風景に過ぎません。いじめがあっても、大抵は被害を被る生徒が泣き寝入りして終わる、そのままいずれは卒業を迎えて「学校からは」忘れられるものです。大津の中学校の先生達も、そうなることを当然視していたのではないでしょうか。いじめは常にある、でも「学校側にとっては」大事に至ることなく済んできた、その繰り返しに馴れきっている教員側と、(今回の「いじめ」の内容は悪質なものが多いにせよ)何か特別なことが起こったかのように驚いている保護者側で温度差が生じているようにも思います。学校側はいじめがあったことではなく、いじめが泣き寝入りで終わらず自殺に発展したことに戸惑いを感じているのだという視点がないと、両者の溝は埋まらないでしょう。

 本気でいじめの問題に取り組もうとする教員なんて、自らの命を賭して麻薬カルテルと戦う警官なんかより格段に希少な存在なのかもな、とも思います。大した給料でもないのに、そんな危ないことにクビを突っ込めないよと考えたとしても、それは仕方が無いことなのでしょう。教師だって標的にされかねないのですから。政治家だって公務員なり電力会社なり、世間から嫌われている人を叩いて票を稼いでいるのです。周りと一緒になって誰かを叩く、そうやって連帯感を築いていく、仲間を増やしていくのは政治家だけではない、教師もまた例外とは言えないのではないでしょうか。場合によっては教師がいじめの先頭に立っているケースもありますけれど、そういう先生って基本的に生徒からは人気があるはずです。いじめを放置していたって基本的には被害者が泣き寝入りして終わり、それを教師が危険を冒して止めに入るだけのインセンティブは何もありません。

 いじめを止めるにしても教師にそれだけの力量や手腕があるかという問題もあるわけです。日夜、学校行事の準備に追われて勉強を教える暇にも事欠くのが日本における学校の先生という物でもあります。まぁ学力テストの対象になるような類の「勉強」よりも学校行事優先であるなら尚更、生徒指導の役目の一つと考えられるべきと言えなくもないでしょうか。ただ教師の役目はあくまで「勉強を教えること」です。そこにいじめなど生徒間のトラブル、と言うより「犯罪行為」を抑止するという役割を期待するのも無理があるのかも知れません。学校の先生に何でもやらせようとするより、学校生活の安全を確保するための専門家をおくなどの対応も考えられてしかるべきでしょう。もっとも、この辺の専門家というと百害あって一利なしの「自称専門家」が押しかけて余計に事態を悪化させる気がしないでもありません。基本的には救いようのない世界ですから。

 

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おまけ1

海自いじめ自殺の乗組員アンケ、4か月以上隠す(読売新聞)

 2004年に海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」元乗組員(当時21歳)が自殺した問題で、海自は10日、中間調査結果を発表し、いじめの有無に関するアンケート結果について、訴訟担当者が約4か月前に存在を把握しながら隠していたことを明らかにした。

 アンケート結果は、乗員190人に対していじめがあったかどうか回答させたもので、約370枚。海自は、遺族の情報公開請求に対し、「回答結果は存在しない」と説明していた。その後、遺族が国などに損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、1審で国側指定代理人だった海自幹部がその存在を告発すると、海自側はファイルが6月20日に見つかったと発表した。

 

 なお専ら話題を攫っているのは中学校の方ですけれど、似たような問題は他でも発生していることが分かります。まぁ、日本の学校教育制度と同じルーツを持つであろう組織ではないかという気もするだけに、根っこは共通している部分が多いのかも知れません。

 

おまけ2

首相、異例の呼びかけ「いじめられたら…」(読売新聞)

 野田首相は16日のフジテレビの番組で、大津市立中学2年の男子生徒がいじめを苦に自殺したとされる問題を受け、「いじめられている子にぜひ伝えたいことがある。あなたは一人ではなく、あなたを守ろうとする人は必ずいる。誰でもいいから相談してほしい」と異例の呼びかけを行った。

 

 言うまでもありませんが、問題となっている大津市の自殺問題では、担任にも警察にも(その過程では当然親にも)相談したと報道されています。にも関わらず、軽々しく「あなたを守ろうとする人は必ずいる。誰でもいいから相談して」と口にできる神経は理解できません。総理大臣が考えているほど、単純に片の付く代物ではないと思うのですけれど。


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22 コメント

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Unknown (Dursan)
2012-07-17 23:54:59
なんだかんだ行っても、
殆どの人に
「バックアップ」とか「ロジスティクス」
と言う視点が決定的に欠けてるわけで。

それなしで、モンペとかと対峙せぇといわれても
消耗するだけでしょう。

それが続けば無気力にもなりますって。
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Unknown (amanojaku20)
2012-07-18 21:17:22
クラスなんてモノがある内はいじめは無くならんような気がしますね。クラスに属する間はいじめっ子と毎日多くの時間を共に過ごさないといけないんです。そんなの大人だって気が狂いそうになりますよ。

いじめられっ子には逃げ場所が必要なんですよ。嫌な奴と顔を会わせずに済む居場所がね。







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いじめた側が悪いのは当然として (フィデル)
2012-07-18 21:29:59
一方でネットなどで撒き散らされる加害側への集中砲火もどうかと思いますね。
正義漢ぶってはいてもいつもの排害主義と同じ構図のようです。
ただ叩く対象を欲しているだけの"ある種"の人々にとっては最も安全に攻撃できるわけです。
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Unknown (プチ左派)
2012-07-18 21:59:00
いつもはエントリーに合わせてコメントしていますが、今回ちょっと違うことを書きます。
いや、世論に合わせて電力会社いじめをしているということでは共通点もあるわけですが・・・。

公聴会で電力会社の社員が原発存続の発言をしたことを世間が猛バッシングしているわけですが、これっておかしいんじゃないでしょうか?
電力社員だって市民なのだから、抽選で得た発言権は同等にあるはずだと思うんです。それを叩きまくり、しかも例によって大衆迎合の民主党が「疑念を呼ぶ行為」などという阿呆なことを言い出すなんてどうかしてます。

反対があれば賛成もあって、そこで両論意見を述べさせての公聴会なんじゃないですか?
これなんか電力会社いじめでしかないと思います。世論に乗ると自分たちがしていることが、いじめと感じなくなってしまう鈍感さが怖いですね。

こういうことを書くとまた脱原発派からは叩かれるんだろうなあ。私も本音は脱原発なのですが・・・。
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Unknown (雑民子)
2012-07-18 22:47:25
マスコミの「いじめ やめようキャンペーン」のワンパターンかつ無責任ぶりには、呆れ返るばかりです。
今いじめを受けている子供たちには同情的なのに、“元いじめられっ子”に関しては全く問題にしないどころか、非難の対象にすらしている。
新聞やテレビで挙って紹介している「(今)いじめられている君へ」と題したメッセージもその傾向を表していると言えます。
http://www.asahi.com/special/ijime/

マスコミのみならず多くの人間が大津事件の被害者を哀れんでいますが、年間7万件超にも達するいじめの認知件数を考慮すればいじめによる自殺(他殺)で亡くなる児童・生徒は極少数に過ぎず(無論、重大であるのは言うまでもありませんが)、多くのいじめ被害者は死なずに生き延びるのです。
近年、誹謗中傷の的になっているフリーターや無業者(引きこもり・ニート)だってその多くは生き延びた“元いじめられっ子”の成れの果てなのに、そうした“元子供”に対しては、「30過ぎてフリーターとか、人生オワタww」「『昔いじめられたから、人が怖くなった?』バカか!」などと罵詈雑言を浴びせる輩ばかりです。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/06/h0628-1a.html

日頃から“元いじめられっ子”のフリーターやニートを肴にしている2ちゃんねらー系の連中が大津事件の加害者叩きに精を出しているのは、何とも滑稽で、なおかつ矛盾していますね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-07-18 23:14:14
>Dursanさん

 生徒の保護者への対応は、モンペ云々という蔑称が用意されているくらい世間は教員の側に付いているわけで、それはまだしも楽な方なんじゃないですかね。

>amanojaku20さん

 自衛隊とか相撲部屋とか、あるいは運動部の寮生活で後輩を殴り殺したとか色々ありますけれど、要するに集団生活ってのは、かなり危険なものなんだと思いますね。集団生活を強いられる場所では、往々にして標的にされる人が出てしまうのでしょう。

>フィデルさん

 警察の対応もそうですけれど、今更正義感ぶって拳を振り上げられても、要はバッシングの機会の乗じているだけとしか言えないですよね。単に叩きやすい相手を叩いているだけ、それはむしろいじめる側の行動原理に近いと言えます。

>プチ左派さん

 その辺は個別に記事を書こうと準備中なのですが、まぁ相手の立場が弱くなれば言いたい放題、そして他人を誹り、咎め立てする自分の行動は省みない、相手にも問題があるからだといじめを正当化する論理がそこでも幅を利かせているように思いますね。

>雑民子さん

 いじめをやめようとか、あるいはいじめられている人へメッセージを送っている「つもり」の人も目立ちますけれど、まぁ空疎なものばっかりですよね。とりあえず前向きっぽいことを述べてはいるけれど、それではじめられっ子」への無関心にも繋がっているのでしょうか。
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2012-07-18 23:26:37
なんと言えばいいのでしょうか、こういう報じられ方が「死にでもしないと同情してもらえない」といった新たな絶望を提示してやいないか、と老婆心ながら心配ですね。
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いじめている君へ (元大阪府民からの伝言)
2012-07-18 23:30:50
本当に必要なのは、いじめられている人へのメッセージではなくて、いじめている者に対してのメッセージではないのかなと思うのですが。
「詰めたるぞゴラァ!」みたいな。
マスコミがそれをやらないから、加害者に対するネット上の制裁もやまないのでしょうね。
まあ加害者側に同情の余地は全くないので、彼らが今後どうなっても仕方がないでしょう。
 
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Unknown (せんせのはしくれ)
2012-07-19 12:28:17
消化器をぶちまけたらスプラッターですねえ。あり得そうで怖いけど。
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Unknown ()
2012-07-19 20:50:19
今回のいじめの加害者。被害者にスズメバチを食べさせたなどかなり常識を外れたいじめを行なっています。

世の中の人は、こういう子供に対して『1時間ほど説教すればいじめは無くなる』と思っているのでしょうかね?そのあたりをどう考えているのか聞いてみたい。
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