非国民通信

ノーモア・コイズミ

否定できる根拠はない

2014-08-15 22:35:12 | 政治・国際

安倍首相、再三否定も… 「徴兵制」の発言、議論なぜ?(朝日新聞)

 「徴兵制につながるというとんちんかんな批判がある。徴兵制が憲法違反だということは私が再三、国会で答弁している」。5日、自民党本部で開かれた地方組織の幹部を集めた会合。安倍首相は集団的自衛権の行使を認めた閣議決定に触れる中で、徴兵制について自ら否定した。首相は最近、こうした発言を繰り返している。

 専門家の間では、高度化した現代の戦争では訓練を受けていない一般市民を徴兵しても意味がなく、徴兵制はあり得ないとの見方がある。政治的にも極めて難しいとみられる。

(中略)

 政権中枢にある政治家の過去の発言も、この見方を補強する。いま自民党幹事長の石破茂氏は02年5月、衆院憲法調査会小委員会でこう述べた。「徴兵制が憲法違反であるということには、意に反した奴隷的な苦役だと思わないので、どうしても賛成しかねる」

 

 ……とまぁ、以前にも触れましたが「徴兵制」を巡る論議があるわけです。先に結論を出すなら「否定できる根拠はない」といったところでしょうか。確かに従来は安倍が繰り返したように憲法違反に当たると考えられたものですが、同様に憲法違反である集団的自衛権の行使を「解釈の変更」という超理論によって可能にした直後の話でもあります。ならば徴兵制もまた「解釈の変更」によって可能であると考えるのが当然で、憲法違反の活動を容認すると閣議決定した人が自ら憲法違反を理由にするのは、これは甚だしく矛盾した発言であり、それに納得する人がいるとしたら本物のバカだと思います。「解釈の変更」によって徴兵制の可能性を否定する根拠は失われたとは言えるでしょう。

 そして知ったかぶり連中の決まり文句として、「高度化した現代の戦争では訓練を受けていない一般市民を徴兵しても意味がなく、徴兵制はあり得ない」云々と引かれています。ふむ、徴兵制を敷く国としてはロシアや北朝鮮、韓国に一応は中国、意外なところでシンガポールやフィンランド、そして世界最悪の侵略国家であるイスラエルなどが挙げられます。この国々の中には日本が敵視している国も含まれていますが、意味がないとされる徴兵を続けている国の軍隊は「高度化していない」ということでしょうか。そうであるならば、日本はもう少し軍備を軽くしても良さそうなものですね。

 

民間船:有事の隊員輸送 船員を予備自衛官として戦地に(毎日新聞)

 尖閣諸島を含む南西諸島の有事の際、自衛隊員を戦闘地域まで運ぶために民間フェリーの船員を予備自衛官とし、現地まで運航させる方向で防衛省が検討を始めた。すでに先月、2社から高速のフェリー2隻を借りる契約を結んだ。太平洋戦争では軍に徴用された民間船約2500隻が沈められ、6万人以上の船員が犠牲となった歴史があり、議論を呼びそうだ。

(中略)

 同省防衛政策課は、「予備自衛官になるかどうかを決めるのは船員本人で、強制できない」と強調。予備自衛官になるよう船員が強いられるおそれについては「会社側の問題で、省としては関知しない」としている。装備政策課は「有事で民間船員の予備自衛官が乗り組めば、操船技術は格段に安定する。船を操れる者と、自衛官の感覚を持つ自衛隊OBの双方が乗るのが好ましい」としている。

 

 なお、戦前も戦後も一貫する日本の戦争観として「兵站は軍事行為にあらず」みたいなものがあるように思います。前線で撃ち合うことの方に執心して後方支援に目が向いていないのは、戦前も戦後も同じ、ことによるとタカ派とハト派さえも相通じているところがあるのではないでしょうか。しかし後方支援もまた戦争の一環として、これが欠ければ先の戦争よろしく闘う前に死ぬ兵士が多数派を占めるという愚劣極まりない事態にも繋がります。そして紛れもない戦闘行為としての後方支援活動にも現代は批判の目が向けられるべきでしょう。この分野においては民間の技能者こそが、「高度化した」現代戦において戦力として価値を見出されることもあります。事実上の徴用に繋がる可能性について防衛相曰く「会社側の問題で、省としては関知しない」とのこと。実質的に強制であることを認めないのは、日本のお家芸ですから……

 率直に言えば徴兵制の必要性が出てくる可能性は低いように思いますが、そこから徴兵制を論じるのは日本国が合理的な判断をすると仮定した場合に限られます。むしろ合理主義の否定こそが日本の国是のようなもの、我が国の政治家は現実に目を背けてでも己の理想を追うものではないでしょうか。民主党や共産党からも賞賛される小泉純一郎は「景気が回復したら、改革する意欲がなくなってしまう」と語りました。そうして日本を世界経済の成長から取り残された孤高のガラパゴス列島にすることに成功したわけですが、合理性を重んじる政治家が権力を握っていれば、結果は全くの逆であったことでしょう。しかし理想を追う日本の政治家は、実利を伴わずとも自らの妄想で現実を上塗りしていくことの方に熱心なのが普通です。

 「(徴兵制は)意に反した奴隷的な苦役だと思わない」と、石破の発言が伝えられています。こういうロマンチシスト以上に危険なものはありません。必要性の有無よりも「こうしたい」という思いこそが政治家を突き動かすものであり、石破のような夢想家が権力を握れば、それは実行へと近づくわけです。実質的には強制的な徴用であろうとも、現実に目を向けたがらない人間は「意に反した奴隷的な苦役だと思わない」と。そうして、あたかも本当に人々が「自らの意思で」軍隊に協力しているかのごとくに現実をねじ曲げて解釈してしまうと言えます。そうなると、必然的にハードルは下がりますよね。

 そもそも集団的自衛権云々が取り沙汰される以前から、自衛隊とは日本で最も人気のある研修期間でした。多くの企業経営者は自社従業員に自衛隊員のようであって欲しいと願うもの、新入社員を研修のためと称して自衛隊に体験入隊させる会社は何ら珍しい存在ではありません。自衛隊生活を経験させることがビジネスマンとしての能力を養う上で有意とは思えませんけれど、それでも会社の偉い人達は社員を自衛隊に送りたがるわけです。合理性がなくとも、日本人はやりたいことをやる、やらせたいことをやらせます。非武装の「普通の」公務員とは裏腹に武装した公務員である自衛隊員の扱いは賞賛一色、徴兵制に合理性などなくとも自衛隊を範とする空気が高まれば、それが政策に反映される可能性も出てくることでしょう。国民を「自衛隊員のように」教育する等々。

 そもそも徴兵制の可能性は、何も批判的な立場からばかり示唆されてきたものではありません。「ない」と取り繕う側の自民党も持ち出したことは何度となくありましたし、自民党の候補を破って当選した政治家の口から聞かれることも珍しくない、防衛省から同質の計画が漏れたこともあります。狙いは論者により様々ですが、決して冒頭に引用した中で語られているような理由で、その可能性を否定できるものではないことは確かです。徴兵制を敷くことがプラスになる日は訪れないでしょうけれど、損得を省みず改革に邁進するバカ政治家は無尽蔵に存在していますし、それなりの支持を集めてもいますので……

 

自民、徴兵制検討を示唆 5月めど、改憲案修正へ(共同通信) 2011年3月

 自民党憲法改正推進本部(本部長・保利耕輔前政調会長)は4日の会合で、徴兵制導入の検討を示唆するなど保守色を強く打ち出した論点を公表した。これを基に議論を進め、05年に策定した改憲草案に修正を加えて、憲法改正の手続きを定めた国民投票法が施行される5月までの成案取りまとめを目指す。

(中略)

 論点では「国民の義務」の項目で、ドイツなどで憲法に国民の兵役義務が定められていると指摘した上で「民主主義国家における兵役義務の意味や軍隊と国民との関係について、さらに詰めた検討を行う必要がある」と記述。

 

40代職員は自衛隊に体験入隊を 橋下知事が検討(産経新聞) 2008年6月

 大阪府の橋下徹知事は17日、同府和泉市の陸上自衛隊信太山駐屯地を視察。「自分を律することが公務員に必要」と感想を述べ、40歳代の職員を対象に自衛隊の体験入隊を検討することを明らかにした。

 

「徴兵制あってしかるべき」 東国原知事が持論展開(朝日新聞) 2007年11月

 宮崎県の東国原英夫知事は28日、宮崎市の知事公舎であった若手建設業者らとの懇談会で「徴兵制があってしかるべきだ。若者は1年か2年くらい自衛隊などに入らなくてはいけないと思っている」と述べた。記者団に真意を問われた知事は発言を撤回せず、「若者が訓練や規則正しいルールにのっとった生活を送る時期があった方がいい」と持論を展開した。

 

防衛省、人材確保に民間からの「レンタル移籍制度」(読売新聞) 2007年8月

 防衛省が、民間企業の若手社員を自衛隊に2~3年の期限付きで入隊させる「レンタル移籍制度」の創設を検討している。

 人材確保策の一環だが、背景には自衛隊の若手教育に対する企業側の期待もある。同省は、今年度中にも民間企業などに意向調査を行い、試行につなげたい考えだ。

 

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4 コメント

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専門性云々について (おひさま)
2014-08-17 09:42:30
徴兵制でよく言われる「現代戦では兵器の高度化が~」ですが、あまり意味がないと考えてます。

軍隊を支えるのは兵站ですが、これは物品の管理、輸送であって、いわば倉庫管理やデリバリー、配膳給食と一緒なんですね。
民間でもバイトやパート使ってやってますから。

で、自衛隊はこれが圧倒的に足りない。兵站軽視は旧軍からの伝統のようなんですね。
例えば、演習で野戦食つくるために、実戦部隊から人を出させる。すると、演習が成り立たない。
演習でさえこういう状況ですから、いざとなれば、徴兵してでもこういう後方活動をしてもらいたい希望はあると思います。
飯を作ったり、トラックで物品運んだり、倉庫管理やったり、とにかく人手は必要ですから。

徴兵制になるかはともかく、有事にこういう誰でも出来る仕事につかせてボランティアというやり方なら、ありうるでしょう。
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Unknown (非国民通信管理人)
2014-08-17 22:02:47
>おひさまさん

 結局、左派あるいはハト派も前線での撃ち合いを念頭に置くばかりで兵站を軽視しているために、右派あるいはタカ派が助けられているところもあると思うんですよね。仰るように後方支援要員として「徴用」のニーズは否定できるものではありませんし、そのハードルは決して高くない、より現実的に懸念されるものですから。
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Unknown (ペルソナノングラータ)
2014-08-18 04:08:19
徴兵制は必要ない。装備の高度化という軍事技術的側面と冷戦終結によって、巨大な軍はドイツのような大陸国でも必要なくなったことは確かにあるが、それ以前に日本はイギリスと同じ島国だ。だから、専守防衛をかかげている限り、徴兵は必要ないし、冷戦時代ですら要らなかった。徴兵制を有している国は皆地上国境を有している国だけだ。イギリスのように陸軍を強化することに予算を使うより、空軍と海軍を強化することのほうが国家防衛には重要だ。戦前の日本は朝鮮半島を領土にしてしまった結果、半分大陸国になってしまっただけである。
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Unknown (非国民通信管理人)
2014-08-18 22:21:17
>ペルソナノングラータさん

 なかなか独自のご意見ですが、「必要性」で徴兵制を論じるのは片手落ちで、必要性などなくとも「そうしたい」という政治家の理想が世の中を動かす可能性も、とりわけ日本においてはもう少し考慮すべきかと思います。
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