非国民通信

ノーモア・コイズミ

イデオロギー主導

2011-03-13 23:40:42 | ニュース

 なんだかまだ体調が悪くて目眩がする、というより微熱が出てきたのですが、被災地からは遠いところにいる人間がへこたれていてもしょうがないので、普通に記事を書くことにします。というより、金曜日に掲載するつもりで下書きしておいた記事ではあるのですが……


自民、徴兵制検討を示唆 5月めど、改憲案修正へ(共同通信)

 自民党憲法改正推進本部(本部長・保利耕輔前政調会長)は4日の会合で、徴兵制導入の検討を示唆するなど保守色を強く打ち出した論点を公表した。これを基に議論を進め、05年に策定した改憲草案に修正を加えて、憲法改正の手続きを定めた国民投票法が施行される5月までの成案取りまとめを目指す。

 参院選を視野に、離反した保守層を呼び戻す狙いとみられる。ただ05年草案も徴兵制には踏み込んでおらず、「右派」色を強めたと受け取られる可能性もある。今後党内外で論議を呼ぶのは必至だ。

 大島理森幹事長は4日夜に「論点は他の民主主義国家の現状を整理したにすぎない。わが党が徴兵制を検討することはない」と火消しを図るコメントを発表した。

 論点では「国民の義務」の項目で、ドイツなどで憲法に国民の兵役義務が定められていると指摘した上で「民主主義国家における兵役義務の意味や軍隊と国民との関係について、さらに詰めた検討を行う必要がある」と記述。

 ネット上で軍事について「詳しいフリ」をしている人の決まり文句として、高度に専門化された近代の軍隊においては徴兵で集められた人員は役に立たない=だから徴兵はない、とするものがあります。ただその辺は、徴兵という行為が何を目的にしているかを理解できていないがゆえの強弁でしかありません(軍事に限らず、経済、科学技術等々ネット上で専門家を装っている連中のいうことほどアテにならないものはないです)。もちろん兵隊の「頭数」を確保することを目的とした徴兵が主流を占めた時代もあったのかも知れませんが、それは徴兵の一側面でしかない、むしろ現代における徴兵の持つ意味合いはもっと別のところにあるはずです。

 たとえばほら、社員の研修先として自衛隊は大人気です。研修と称して従業員を自衛隊に送り込む企業は増加の一途、そうでなくとも「若者を自衛隊に叩き込め」といった類の主張は定期的に持ち上げられています。なぜでしょうか? 武器を手に戦う能力を持たせ、「敵が襲って来ても守れます」みたいな社員を育てたいのでしょうか。でも「当社には襲ってくるような輩はいません」というのが普通の会社ですし、それに人に危害を加えるのは犯罪ですよね? 雇用主や研修屋は社員を自衛隊に送り込んで、あるいは道徳屋は若者を自衛隊に送り込んで、いったい何を得させたいのでしょう。

 結局、日本社会における自衛隊は武道に近い、戦闘能力よりも精神修養的な側面を強く期待される組織として位置づけられているわけです。そして軍隊的な精神を身につけることを期待して、社員や社会不適合者を自衛隊に送り込みたがる連中がいると言えます。つまり日本における自衛隊とは教え導くもの、謂わば教師であり聖職者なのでしょう。このような社会における「徴兵」という制度が意味するのは、軍人(サムライ?)の心を教える新たな義務教育の誕生であって、それは戦闘要員の確保ではなく、もっと別の思惑を以て導入されるものなのです。

 そこで「保守」の名の下、保守本流路線に背を向けて「真性保守」路線を突き進む自民党のプランはどう見るべきでしょうか? 表だって「徴兵」を掲げるつもりはなさそうですが、その一方で改憲草案には兵役義務も視野に含まれているようです。徴兵で烏合の衆を集めても自衛隊の「戦力」が増すかどうかは疑わしいところですが、国民に兵役の「義務」を課すことで、国民に軍人的な精神を身につけさせたい、国家統合のプロセスの一環として兵役を組み込みたい、軍隊に国民や若者を「しつけ」して欲しい――軍事の合理性ではなく、あくまでイデオロギー的な側面からの徴兵を夢見ている人は、現に議席を有している人の中にも少なからず存在しています。


パソナ、新卒200人雇用し就農支援(読売新聞)

 人材派遣大手のパソナグループは7日、大学・短大を卒業後3年以内の若者200人を雇用し、農家としての独立を促す事業を今年4月から始めることを明らかにした。

 民間企業による就農支援では最大規模となる。農業就業人口の減少が続く中で、農業に興味を持つ若者に就職先を提供し、農業の活性化にもつなげたい考えだ。

 淡路島(兵庫県淡路市)の農場(約10ヘクタール)で、地元の若手農家らが、野菜の栽培や加工、販売のノウハウなどを教える。雇用期間(1~2年間)中は月給約10万円を支給し、寮も用意する。近く東京、大阪で説明会を開く。雇用期間中は、ビジネスマナーなども教え、社会人としての適応力を高めてもらう。希望者には、雇用期間終了後、新たな働き先となる大規模農家の紹介なども行う予定だ。

 さて日本には「徴兵」と並んで「徴農」の思想があります。就職できない若者や職にあぶれた失業者などを農業に送り込めと言い放つ手合いには事欠きません。そうでなくとも農業で働く人が増えて欲しいと思っている人は少なくないはずです。こうした「国民の声」に応えて実践に踏み切った一例が、今回のパソナと言うべきでしょうか。そしてこれは徴兵の場合と同様に、日本では合理性よりもイデオロギーが先行することを端的に示しているようにも思われます。

 例えば先進国であると同時に農業大国でもある国としてフランスやアメリカ、オーストラリアなどが挙げられますが、いずれの国も第一次産業で働く人の割合は日本よりも少ないのです。農業生産を増やすと同時に、農業従事者を減らしてきた、それが農業先進国の姿と言えます。農家を増やすのではなく、農業の高度化に対応できる農家を絞り込む、農業大国はそうやって今に至るわけです。しかるに日本は、いつまで経っても農家を保護するのが農業を保護するのかすら決められないでいます。挙げ句の果てには就職できずに行き場のない人間を集め、薄給で農場に送り込もうというプランが出てくる始末、経済全体がそうであるように、農業分野でも日本はガラパゴス化の度合いを深めるばかり、相変わらず目指している未来が違うようです。

 農業生産の効率を考えるなら、若返りはともかく農業従事者の「数」は減らすべき、より集約化を進めるべきなのに対し、他に就職先がないから仕方なく農業をやる――そういう人を農場に送り込もうとする昨今の風潮はまさしく時代に逆行する代物です。しかし日本では合理性よりもイデオロギーが大事なのでしょう。日本には外国人研修生という国家ぐるみの人身売買システムがあり、農業分野でも積極的に活用されているわけですが、「農業を教える」という名目で月給10万円で人を働かせようという企ては、その延長線上にあるものと言えます。効率よりも、人を薄給で働かせる枠組みの継続をこそ、日本は追い求めてきたのではないでしょうか。

 「雇用期間中は、ビジネスマナーなども教え、社会人としての適応力を高めてもらう」などとも伝えられていますけれど、ただでさえ就職できなかった人が1~2年間の就農体験によって一般的な企業から離れてしまえば、それこそ他業界での就職はなおさら困難になるはずです。独立開業できる土地や資金を持っている人ならいざ知らず、10万円から寮費を差し引かれるであろう薄給では貯金することすらままならないだけに、この「就農支援」を受けた後は受ける前よりも格段に、苦しい立場に追い込まれていることでしょう。そうなるとパソナの紹介する「大規模農家」の小作人にでもなるしかなくなってしまうのかも知れません。薄給の労働者を大量動員することで「農業の活性化」などと考えるのは、それこそ植民地時代の発想でもあり現代では著しく効率の悪いもののはずですが、そういう方向に突き進んでいるのが日本の今であるように思われます。

 

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10 コメント

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後者の話に関して (看板当て本塁打)
2011-03-14 01:27:19
(地域差があるということを前もってご理解いただければ幸いです)

最近は、農業に企業が参入しても、思うように成功できない状態だったりするのに、そこに人材を派遣すると…?
それに、栽培~販売の技術だけ教えても、経営のことまで教えないと、農家として独立は出来ないだろうし…(あるいは、農協の組合員として、数千万~億単位の負債を負って「補助金ってなんですか?」と言う状態になるなら…)

>雇用期間中は、ビジネスマナーなども教え、社会人としての適応力を高めてもらう

これ、1~2年の間、どういうカリキュラムで、農業の技術と両立して教えるのかな?
目的がどっちつかずで、どちらにしても不十分なままなので、管理人様が言うとおり、小作人になるか、地元の派遣会社の「農作業」をやるしかないと思います。
(私の近所では、派遣の人を頼んだら、農家の母ちゃん達より腕力・体力に劣る人が来たため、派遣会社の印象は悪いです)
そして、小作農として働いたにしても、住宅などのサポートを受けたとして、満足に生活できる給料が出るとも思えません。
(企業・法人でうまく行っているところならともかく、農協の組合員で農家やっている人なら、まずは自分の給料が欲しいという気分です)
この派遣会社、貧困ビジネスの実態を隠すため、格好の良いことを言っているだけだと思います。

>大学・短大を卒業後3年以内の若者

「3年以内」というのでさえも悪意を感じるので、若い人にはこんなのに騙されないでほしいと思います。
ガーデニングの延長で「農作業」をやるなら楽しいですが、職業としてやるには制度も環境も酷すぎます。
(以前、池上ナントカという人がニュースをわかりやすく説明する番組で、農家の所得保障が話題に出て、農協組織について一言も触れなかったのは、すごく「巧い」と思いました…悪い意味で)

前者の話題にも重なりますが、ここ何年かの間
「Bと言う目的を達成したいが、そのまま言うと印象が悪いため、当たり障りのないAと言う目的を強調して物事を説明する」
人や話し方が増えたような気がします。

あと「格好いいことを言っているけど、結局の所、お前の社会的地位だけで、人に対しての支配欲を満たしたいだけだろ?」といいたくなるような言説も…
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Unknown (davs)
2011-03-14 07:31:30
こうした若者を自衛隊に送り込んで鍛えろ! という方々から、若者が成長してほしいと考えてなくて、若者が苦しむ姿を見て自分が喜びたいという考えが感じ取れるます。
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Unknown (2823)
2011-03-14 09:34:24
自衛隊の側だってそんな一般人が「研修」の名目で施設内出入りしているなんて迷惑でしょうに。それで満足するのは人材マネジメント0で奴隷しか使えないパーチクリンだけでしょうね。そんな方法だったらスーファミのシュミレーションRPGで「一軍ユニット」だけ使ってリセットしながらマップ攻略した私でも会社経営ができるw
災害復興支援で現地で昼飯食べてた隊員に「暢気に飯食ってる暇があったら仕事しろ」と、被災した地元民が言い放った事があるとか。ひどい。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-03-14 22:43:25
>看板当て本塁打さん

 他分野で経営体力を蓄えた企業が農業分野に参入してくることには一定の可能性もあると思うのですけれど、なかなか芳しい例は出てきませんね。元より農業だって決して簡単なものではないはず、単に若者を放り込めば済むというものではないように思われるのですが、この辺はロクに考えられていない気がします。「若者の就労支援」「農業参入」と銘打てば昨今のトレンドではあるのでしょうけれど……

>davsさん

 自衛隊を賛美する一方で、自衛隊が「自ら入りたいところ」になっているかというと、決してそんなことはないですからね。

>2823さん

 まぁどこでも暴言を吐く輩は這いますけれど、自衛隊員と違って武器を持たない公務員に関しては、平時からそう言われるのが常態化している、責任ある立場の人間がそれを積極的に煽っている国ですから。それだけ、他人に要求するものが厳しいということです。
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>社員や社会不適合者を自衛隊に送り込みたがる連中 (Bill McCreary)
2011-03-15 00:45:14
社会不適合な連中を自衛隊なんかに送り込んだらますますどうにもならなくなりますよね。管理人さん仰せのとおり

>ただでさえ就職できなかった人が1~2年間の就農体験によって一般的な企業から離れてしまえば、それこそ他業界での就職はなおさら困難になるはずです。

になることは明々白々です。

>希望者には、雇用期間終了後、新たな働き先となる大規模農家の紹介なども行う予定だ。

相当好意的に考えても、明るい未来はありそうにないですね…。
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日本では (凡人69号)
2011-03-15 22:24:19
「今の若いやつは甘えてる」ということが当たり前のように言われ、「だから試練を与えて鍛えなければ」という理屈で、徴兵制うんぬんも出てきているんでしょうね。(「韓国復活の裏にあるのは徴兵制」なんてことを語る輩もいそうで。とはいえ、「日本にも徴兵制を」という連中がご立派であるわけがないのですが)
>自衛隊が「自ら入りたいところ」になっているかというと、決してそんなことはないですからね。
目立った産業のない地方では、就職先のひとつとして、自衛隊があるようですし、また最近では、いわゆる「貧困ビジネス」として、自衛官募集をやっているケースもあるらしいとか。

パソナの件でいえば、さすが小泉政権での規制緩和で肥大した政商らしいあざとさを感じます。日本農業を支えるというより、自らのビジネスのためというニオイがプンプンです。
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2011-03-15 22:26:03
軍隊に人が足りないから募集する、ではなく「今の若い者はなってない」と思う人への得点稼ぎとしての徴兵ですから、「高度に専門化された近代の軍隊においては徴兵で集められた人員は役に立たない」という主張が正しいとしてもその正しさは無意味でしょうね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-03-15 23:41:13
>Bill McCrearyさん

 結局、この手の就職ビジネスに携わっている会社の多くは、(とりわけ上に行くほど)実際に就業する人のことなんて考えてないのでしょうね。見せかけだけの就業実績=会社の実績を作れれば十分、そこで就業した人の将来がどうなろうと知ったことではない、そういうものなのでしょう。

>凡人69号さん

 しかも新たな雇用創出が見込めるビジネスであればまだマシなのですが、パソナの場合は就業希望者の立場の弱さに乗じて薄給で働かせる、収益性の高さではなく人件費を削ることで利益を出すという、いかにも日本的な負の経営モデルですしね……

>ノエルザブレイヴさん

 要するに軍事に「詳しいフリ」をしている人は軍隊を美化して語るばかりで、それがどういう思惑を以て運用されるものかまでは理解できない人ばかりなのでしょう。徴兵にしても、軍備増強とはもっと違った意図が込められているわけですし。
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Unknown (シトラス)
2011-03-29 22:38:43
現実的に考えても、マレーシアでは国民を教育するために若者を強制的に集団生活させる制度があるそうです。
そもそも日本の教育というのはセーラー服をはじめとして軍隊の形式を取り入れたものらしいので、理想の教育の姿を軍隊に求めてもおかしくないと思われます。
理想の姿といえば農業の場合でも、「ものづくり」と同じように効率化すると「古きよき農業」が壊されると思っている人がいるかもしれません。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-03-29 23:10:53
>シトラスさん

 他国を的に見立てた自国の「防衛」のためなどではなく、国民を統治し教育することの方が、国によってはウェイトが高いんですよね。とりわけ徴兵制の国はその傾向が強い、結局は合理性じゃなくてイデオロギーの世界なのだと思います。農業にしても然りで、現状の個人事業主的なやり方が抱える諸々のデメリットが無視されて、従来型の小規模農業が変に美化される、これもまたどうかと思いますね。
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