非国民通信

ノーモア・コイズミ

出版業界の選択

2014-08-29 23:32:54 | 社会

 先日の記事の補足的なことを考えてみますと、「薄利多売」か「固定ファンの囲い込み」のどちらを志向しているかは割に重要な気がします。販売価格を引き下げる代わりに幅広い客層に売り込んでいくことで売り上げのトータルを大きくしていくのか、それとも販売価格を維持して固定客から集金していくのか、どちらが利益を最大化してくれるのかは状況次第ですけれど、総じて経済が上手く行かない国においては間違った方が選ばれがちなのかも知れません。

 モノとしての実態がある商品が主力の場合、薄利多売路線は遠からず限界に突き当たると考えられます。たとえば牛丼の価格が大幅に引き下げられたとしましょう。そこで最安値を付けた牛丼チェーン店は業界内の最大手委にのし上がったとして、では業界全体の利益はどうなのか、と。牛丼が半額になっても、食べる量を2倍に増やす人は滅多にいません。大半の人は牛丼一杯で帰ってしまうのなら、売り上げは下がってしまいます。そこを他店から(安値を武器に)客を奪うことで補うとしても、今度は客を奪われたライバル店の売り上げが下がってしまうわけで、どこか特定の企業が一人勝ちすることはあっても業界全体が栄えるのは難しそうです。

 逆にモノとしての嵩よりも他の部分に価値がある商品の場合はどうでしょう。書籍や音楽CDのようにモノそのものではなく中身に刻み込まれた情報の方に主だった価値がある場合です。こちらは牛丼とは別で、半額ならもう1冊あるいはもう1枚、買っていく客もある程度までは想定できます。値下げすることで売り上げ部数の増加を見込めるわけですね。牛丼の価格が下がっても客が一度に食べられる量は増えませんけれど、本やCDを多めに買い込むのは、そんなに無理なことではないですから。ついでに制作するのにかかるコスト面でも、薄利多売路線への向き不向きはありますね。牛丼は増産した分だけ材料費が嵩みますが、書籍を増刷するコストなんて微々たるものなわけで。

 しかるに薄利多売が直ちに業界の縮小を招くような世界ほど不毛な値引き競争が激烈、一方で薄利多売と相性の良さそうな世界では再販制度や業界の連携によって販売価格が維持されていたりします。まぁ、とかくお金が絡むほど不合理な方が選ばれている印象が拭えないでもありません。ちなみに海外企業によるゲームソフトのダウンロード販売では、もう完全に薄利多売路線が主流でゲーム1本当たりの利益は減少傾向であろうことが推測されますが、一方で販売本数を伸ばすことには成功している、トータルの売り上げは上々のようです。日本のゲーム業界は概ね反対の方向を向いていると言わざるを得ませんが、将来はどうなるのでしょうね。

 一口に出版業界と言っても、再販制度や固定ファンの囲い込みによって命脈を長らえているところもあるとは思います。今のやり方を転換すれば、その「変化」に適応できない出版社が出てくることは避けられないかも知れません。そうは言っても、現状維持の中で潰れていく会社も多々あるわけです。日本の出版界は薄利多売に走るよりも価格の維持を選んでいるようですが、あくまで定価で本を買わせようとする以上、顧客をガッチリつかんで囲い込む必要があります。その帰結としてサイレント・マジョリティではなくノイジー・マイノリティが主たるターゲットになってしまうところもあるのではないでしょうか。マジョリティを相手に薄利で商売するよりも、マイノリティに定価で本を買わせる方を選んだ、そのノイジー・マイノリティの代表格がレイシストであり、出版(書店)業界が媚びる相手になっているようにも思えます。

 

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1 コメント

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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2014-08-30 12:59:01
あともう一つ思ったことはレイシストが嫌っている新聞社なり出版社なりが過ちを犯したことが、レイシストの正しさを証明するわけではないということは確認しておくべきだ、とう事ですね。
(個人的にはレイシストは「勝ち負け」にこだわりがちな傾向があるように見え、敵対者の過ちに「勝った!」と思ってしまう悪癖があるように感じます)
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