非国民通信

ノーモア・コイズミ

それでも就労先としては希望がないと思う

2010-03-06 22:52:35 | ニュース

林業は衰退産業という“ウソ”(日経ビジネス)

 政府は2009年12月に発表した「新成長戦略」の1つとして、林業を成長産業として位置づけた。現行20%強にとどまっている木材自給率を「10年後に50%に拡大する」というものだ。そして、今年に入って、その実現に向けての基本方針を定める「森林・林業再生プラン」の本格的な検討がスタートした。

 そのうち「製糸業は成長産業」「生糸の自給率100%を目指す」、なんて言い出す人が出てきてもおかしくないように思われる昨今です。「日本の一番情けないところは、単独で戦争ができないこと」と曰う知事もいますが、「日本の一番情けないところは、単独で食料が/木材がまかなえないこと」みたいに思っている人は多いでしょうし。自己責任の国は「持ちつ持たれつ」「お互い様」を良しとしないものです。ともあれ、林業はどうなのでしょうか。本物の成長産業ってのは政府が何もしなくても勝手に伸びていく産業であって、政府が肩入れしないと成り立たない産業=衰退産業ではないのか、成長戦略ではなく衰退産業の保護と言い切った方が正直なのではないか、そう思わないでもありません。

 つまり輸入自由化によって大量に入ってきた外材に、国産材がコストで到底かなうはずもなく、だからこそ林業は壊滅的な打撃を受けたのであり、外材こそが日本林業衰退の最大の理由であるとするのが、誰もが疑わない従来からの見方である。

 ところが、日本のスギ、ヒノキと競合する針葉樹の外材は、欧州や北米産のものがほとんどである。そもそも、世界の木材生産や製材などの木材加工の3分の2は先進国におけるものであり、実は林業は先進国型産業なのである。しかも、これら先進国林業は、必ずしも日本より条件が恵まれているわけではない。

 例えば、欧州の主要林業国の1つであるオーストリアを見てみよう。

 オーストリアは急峻な地形が存在するアルプス林業地帯であり、森林所有者も小規模が多いなど、林業を取り巻く条件は日本と大差ない。しかも、賃金コストに関しては、時間当たり4000円、1日当たりでは3万円を超え、日本の倍以上という水準である。ところが、そこで生産され加工された材が、鉄道でハンブルクを経由して、わざわざ船で日本にまで輸送されているのである。

 この辺は、なかなか考えさせられる指摘と言えます。製造業であれば人件費の低い新興国の製品によって高コストな国産品がシェアを奪われていくのが通例です。しかるに林業は別で、人件費の低い新興国ではなく、日本よりも人件費が高い、しかも林業に限れば倍以上の人件費が嵩む国と競合しているのが実態なのだそうです。日本の方が遙かに人件費が安いにもかかわらず、国産材のシェアは低いまま――割安な人件費という武器があっても外国製品に対抗できないのでは、やはり衰退産業なのではないかという気がしないでもありませんが。

 ちなみにこちらは、木材価格の推移を表したグラフです。高価な国産品が安価な輸入品に追いやられていくなら自然な流れと言わざるを得ませんが、こと木材に限っては、国産品が高かったのは過去の話、今となっては価格に大差はなさそうです。じゃぁ、どうして日本の林業はダメなのかと言うことで引用した記事では主に2つの原因が挙げられています。詳細はリンク先をお読みいただければと思いますが、要約すると過去の過伐と、木材価格の下落を嘆くばかりで林業界のマネジメントが昔から進歩していないことが問題のようです。その辺をどうにかすれば林業=衰退残業ではなくなるかも、という感じみたいですね。

 ただ、仮に林業が産業として再生可能であったとしても、あくまで経営する側の目線でのことではないかという気もします。例えば介護業界はどうでしょうか、まぁ社会的なニーズは今度も高まっていくことが確実ですから成長産業には違いないのかも知れません。ただし、人を介護させる仕事がビジネスとして成り立っていたとしても、自ら人を介護する仕事となると話は違ってくるはずです。介護業界は成長産業でも、介護職に従事する人の生活が成り立っているのかどうか? 同様に林業も、業界としての林業が盛り返すことはあっても、林業に携わる人は相変わらずの薄給に止まるかも知れません。林業が産業として成り立つ一方で、林業で働く人の人生は成り立たない、そうなってもおかしくはなさそうです。オーストリアのように「時間当たり4000円」の賃金を支払うようになれば林業が就労先としても成り立つのでしょうけれど、職を失って他に行き場もない人を林業に送り込もうなどと考えているような国では、危険や負担に見合った報酬が支払われる日は永遠に訪れないかのように見えますので。

 

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7 コメント

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Unknown (TAMO2)
2010-03-06 23:02:21
四国の海辺から、お久しぶりです。大歩危・小歩危のあたりを故郷に持つ同僚から聞いたのですが、林業の日当は大体6000円だそうです。誰も働きたがらないのも当然ですよね。

では。
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Unknown ()
2010-03-07 03:35:03
職が無ければ警察か自衛隊、というのが結構グローバルスタンダードで、日本でも通用してたと思ったのですが…
昨今の公務員削減の動きでそれも難しくなったんでしょうか。
国防公安は、仕事内容はともかくそれなりに高給で、不平を抑えるように考慮されていたみたいですが、介護や林業ではその辺を全く計算に入れてないみたいですね。
よっぽど奇特な人しか働いてくれないんじゃないでしょうか。
移民を充てるのかな?
少なくとも雇用対策とは別の思惑で動いているんでしょうね。
政府の意図が掴めません…。
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Unknown (ヒイロ)
2010-03-07 12:36:36
労働者に対して報酬で報いたり、継承者を育てる術を忘れた(意図的に放置してきた)という証左かもしれません。
賃金の話をすると「選り好みをするな」と根本的なことが否定されるのは始末に終えないことです。

「何とかの一つ覚え」でマンションばかり建設されています。私の地元は、田舎と言えばそういう扱いにされうる地域なのにマンションの建設が多いです。売価は、マンションが高いとは言え、一戸建てを何棟も建設しない不合理さに呆れています。法律で決まっているなら仕方がないのかもしれませんが。

一戸建てでも鉄筋を利用しているのですが、「木材だって捨てたモノじゃないのに」と思います。
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同感です (Bill McCreary)
2010-03-07 13:36:34
>職を失って他に行き場もない人を林業に送り込もうなどと考えているような国では、危険や負担に見合った報酬が支払われる日は永遠に訪れないかのように見えますので。

私もそう思います。貧しい人間を押し込む場所として林業を視野に入れているのでは、まったくもってどうにもなりません。

また、管理人さんが以前お書きになっていたように、林業は非常に事故が多いらしいじゃないですか。こういったところから改善することが絶対に必要ですよね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-03-07 23:27:35
>TAMO2さん

 オーストリアの90分=日本の日当ですか。それじゃぁ誰もやりたがらないでしょうし、それだけ人件費が安くても優位に立てない業界ってのもアレですね。

>魚さん

 最近は自衛隊も人気で、そう簡単には採用されないという話を聞いたことがあります。民主党も自民党と同様、治安部門や自衛官は削減しない方針のようですが、まぁそれ以外の採用の口が減る一方ですから。そうなると介護、林業、農業が頻繁に進められるわけですが……

>ヒイロさん

 日本では賃金のためではなく、「やりがい」とかその類のために働くことになっていますからね。賃金の問題だと言うことがタブーになっているのでしょう。まぁ木材か鉄筋かは好みの範囲だと思いますが。

>Bill McCrearyさん

 そうなんですよね、非常に危険性が高い、しかも引用した記事でも指摘されているように相応の専門的な技能や熟練が求められる業界のようですから。そうであるからには、高めの賃金でしっかり人を育てないことには始まらないように思えるのですが、適当に失業者を押し込もうというのでは、労働者と業界の双方にとってロクな結果をもたらさないでしょうね。
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林業 (コンポコ)
2010-03-08 00:03:14
私が住んでる市の緊急雇用対策で、林業の求人があったのを覚えてます。
他の雇用対策の時給が800円台だったのに対し、林業だけが時給1100円でした。
私が知ってる範囲では、若い人は応募せず、年輩の男性のみが応募したようです。

林業のような仕事を緊急雇用に入れるのはどうかなと思いました。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-03-08 18:53:10
>コンポコさん

 誰にでも務まる仕事であればいいのですが、実態は違うでしょうからね。若い人はまだ他に選択肢があったけれど、年配になると選ぶ余地も減ってくる、そうなると林業に応募する人も出てくるのかも知れませんが、その後は無事に務まっているのでしょうか。
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