非国民通信

ノーモア・コイズミ

泥舟から脱出するなら早いほうが良い

2014-05-05 11:23:41 | 雇用・経済

10日で辞めた新入社員、人事が諭した「下積み10年」論は今も正しいか(産経新聞)

 多くの企業で入社式が行われ、期待と不安を抱いた新入社員がそれぞれの職場に配置されるこの季節。だが、中には早くも会社を辞めてしまう新人もいる。そうした早期離職者に対して、大手企業の採用担当者が仕事についての心構えを諭した内容が、ネットで大きな反響を呼んでいる。賛否混在した意見からは、現代日本の就職風景が見えてくる。

 話題になったのは、家電量販店のヨドバシカメラの採用担当者が4月中旬、就職情報サイト「リクナビ」の人事ブログに投稿した「新入社員が退職した。」と題する記事だ。

 それによると、入社10日にして「販売はアルバイトの延長のような仕事。ずっと続けていく気にならないし、自分に向かない」と退職を決め、公務員を目指すという新入社員に対し、採用担当者はこの若者が大好きだというゲームを引き合いに、働くことの意義を説いた。

 「(ゲームでも)楽しさを理解するには練習と経験が必要だよな。ちょっとやってみただけで『つまらない』とか『自分には向いていない』っていうのは、早すぎるよな」

 その上で、「社会人の時間は長い。22歳で入社して、定年は60歳。約40年もの年月だ。つまり社会人にとって入社後の10年は、大学で言えば1年生に相当する」と、大学野球部の下積み期間にたとえ、「楽しさにたどり着く前に職を変えてしまうから、幸せになれない」として短期間での離職を繰り返さないよう戒めた。面談を終え、新入社員の退職意思こそ変わらなかったものの、その表情は「それまでと違って後ろ向きな逃避ではない、前を向いて一歩踏み出そうとする者の顔をしていた」と、この採用担当者は結ぶ。

(中略)

 その中には、「『昔の昭和の人』には相当好感を持って受け入れられる文章だろうが、今の若者にはどうかな?」(はてなブックマーク)と世代差を指摘する声もあった。たしかに、「最初の10年は大学でいえば1年生」という議論の有効性は、同じ会社に定年まで勤め続けられることを当然の前提としている。

 10日で退職は早すぎにしても、10年下積みを続けたとしてどれだけのキャリアパスが得られるのか。一昔前ならおそらく、圧倒的多数が「いい話」と受け止めて終わっていただろうエピソードについて、意外にも賛否が分かれたのは、終身雇用と年功序列という「日本型雇用」が自明ではなくなり、就職への認識が世代間で変わりつつある現状を映し出しているのかもしれない。(磨)

 

 日本能率協会の調査によれば「定年まで勤めたい」と回答する新入社員が今年は過半数に達したそうですが、そうは言っても早期に離職する若者はいるわけです。そんな折りにヨドバシカメラの採用担当者が「下積み10年」云々という決まり文句を披露していたとのこと、こうした手垢の付いた屁理屈しか持ち出せないような採用担当者の意見など聞くに値しないとしか言いようがありません。とはいえ、引用は省略しましたが採用担当者のメッセージに共感する内容のツィートなど感想が多く寄せられているとか。やれやれ。

 一方で珍しいことに、この件については記者側から適切にツッコミが入っているようです。結局のところ「同じ会社に定年まで勤め続けられることを当然の前提」として初めて10年間の下積みは意味を持ちうるものであり、10年後にはリストラ候補にされているかも知れないような会社においては、ここで引用した採用担当者が語るような類は悪質な「騙し」だとしか言いようがありません。果たしてヨドバシカメラは新人が10年間、我慢して働き続けた先にどのような対価を用意してくれるのでしょうか。その辺は当然ながら、語られていないように見えます。

 それが階段の一段目であるならば、多少の重労働や低賃金にも許容の余地は産まれるのかも知れません。しかし、苦労して上ったと思った階段が途中で途切れているようであればどうでしょう。そこまでに費やされてきた時間と労力は全くの無駄になってしまいます。そこで得られた経験や話のネタが次なる就業機会を切り開く上で大いに役に立つものであるならば、まだしも救いはあります。しかし、他の会社に就職しようとする上で何の役にも立たないようなキャリアでしかないのならば、それこそ一刻も早く泥舟からは脱出するのが吉であることは言うまでもありません。

 例示されている新入社員の退職理由は「販売はアルバイトの延長のような仕事~」だそうです。表向きの印象はともかく、退職を決める理由としては概ね賢明と言えるのではないでしょうか。アルバイトの延長のような仕事であるからには、アルバイトによって置き換えられるリスクに晒され続けるわけです。日本社会で自身のクビを守るためには、経営側の「非正規に置き換えたい」という欲望の波をいかにかいくぐるかを絶えず考えなければなりません。アルバイトに置き換えられるリスクの高い職業を避ける若者の動きは当然のことです。

 一方で当たり前のように残業代を踏み倒す本物のブラック企業にとっては、時間給で働くアルバイトよりも「定額使い放題」の社員雇用の方が安上がりと判断していると思しきケースも目立ちます。そうでなくとも小売りや飲食業界ともなれば、時間当たりの給与が一番低いのは超長時間労働を強いられる「店長」であることも多いはずです。果たしてヨドバシカメラで10年間、これは下積みの時期なのだと自らに言い聞かせながら踏ん張った結果として待ち受けているのは何なのでしょうか?

 小売りの店員も10年間続けてみれば、色々と見えてくることはあるのかも知れません。辞めずに続けていて良かったと思うこともあるでしょう。しかし、アルバイトの延長のような仕事を続けるトウの立った社員を経営側はどう判断しているのか、その功に報いて定年までの雇用を保障する意思があるのならともかく、中高年はリストラして若いのに入れ替えよう、正社員はリストラして非正規に置き換えよう、そんなことばかり夢想されているのなら――真面目に自身のキャリアを考えている人ほど、早期に退職を検討するものです。

 

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3 コメント

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泥船と思っていない (ヘタレ一代)
2014-05-05 21:06:30
<ブラック企業>学生と企業の認識の差 給与金額で顕著に

毎日新聞 5月5日(月)15時26分配信

<中略>
ブラック企業になると思う目安の質問では「新卒者の入社3年後の離職率」で「3割超」を選んだ学生は36%と最も多かったが、企業側は53%が「5割超」。「1カ月の残業時間」では、学生の最多は「40~60時間未満」(24%)だったが、企業側の最多は「100~120時間未満」(34%)。

ディスコの担当者は「学生は企業研究が足りず現実より厳しく考える傾向がある。ブラック企業を警戒しすぎているかもしれない」と分析している。


経営者目線でブラック企業の定義がすでに決まっていて、それに合わせられない学生が悪いとでも言いたげです。

世の言説から場合によっては目を背ける力、逃げ出す勇気「脱コミュニケ-ション」を図らないと、どんなに我慢していても沈没しかないでしょうね。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2014-05-05 23:02:39
>ヘタレ一代さん

 一方的な経営側目線で学生側を断罪する記事も多いですよね。厚生労働省が示す過労死として認定される基準に沿っている学生と、完全に無法者としか言い様がない企業側、正しく現実を認識しているのがどちらであるかは言うまでもないことなのですが。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-05-07 01:00:57
>しかし、他の会社に就職しようとする上で何の役にも立たないようなキャリアでしかないのならば、

日本の会社はガラパゴスとかローカルルール大好きだからね。
汎用的なスキルを身につけさせる気なんてさらさらないよ!

>果たしてヨドバシカメラは新人が10年間、我慢して働き続けた先にどのような対価を用意してくれるのでしょうか。

ヨドバシには悪いが10年務めたところでしょせん販売チームのリーダーレベルとかだろ?
CEOにでもしてくれんの? こんなこと言っちゃ夢も希望もないが、
あの仕事で年収1000万とかなれるとは思わんが?
本社のバイヤーとかなら高年俸なのかな?
客の多い日なんて1日中レジ打ちとか、修理受付とか、はっきり言って申し訳ないがこんなの
本当にバイトの延長だろ? それとも勤務時間内に商品知識とか業界のトレンドの勉強会のような
いつ辞めても家電のコンサルにでもなれるぐらいのハイレベルな知識を見つけさせてくれる
時間を設けてるのか?
この人事もこんなやらしいこと言わずに、「僕らみたいにバカ正直に
サラリーマンでいるから世の中成り立つんだよ」という「おしん」よろしく、
みたいなコメントを言ってくれた方がまだ誠実だろ!
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