非国民通信

ノーモア・コイズミ

「影」の部分も考えよう

2011-06-14 22:48:17 | ニュース

東日本大震災3カ月 生産復旧 電力の壁 関電節電、西日本に停滞波及(産経新聞)

 全国規模で広がる電力不足が、東日本大震災から3カ月を迎える日本経済の重い足かせとなっている。10日には関西電力が15%の節電を要請し、東日本から西日本への生産などのシフトを進めてきた企業を直撃した。震災被害や電力不足で停滞する東日本をカバーし、牽引(けんいん)役を期待されていた西日本の生産活動も縮小すれば、復興も停滞しかねない。企業の海外移転による空洞化が加速する懸念もある。

                   ◇

 「今後、影響を精査してこのまま計画を進めるか修正するかを決めたい」。富士通では、関電の節電要請に困惑の色を隠さない。

 同社では、東京電力管内の電力不足に対応し、東京・蒲田と川崎市のシステム開発拠点にあるサーバー約1万台のうち最大3600台を6月末までに兵庫県と富山県のデータセンターに移す作業の真っ最中。「移転先でも十分な電力を確保できるのか」。今後の対応の検討に追われている。

 サーバーを保管するデータセンターは機器の過熱を防ぐ冷房に大量の電力を消費する。停電でデータが消失するリスクを回避するため、西日本のセンターに管理を委託する動きが広がっているが、「節電要請が全国に広がれば海外に移すしかなくなる」(IT大手)と苦慮している。

 生産シフトを進めていたメーカー各社も、計画の修正を余儀なくされる恐れがある。

 伊藤ハムでは、主力の西宮工場(兵庫県)など関電管内の3工場に東日本から一部生産を移す予定だった。夜間や日曜の工場稼働など新たな節電対策の検討を始めたが、「生産移転は白紙になる可能性もある」(同社)と頭を抱える。

 資生堂は、7~9月に東電管内の鎌倉工場(神奈川県)と久喜工場(埼玉県)から一部品目を移管する予定だった大阪工場(大阪市)について、節電対応の調査に着手。兵庫県に製鉄所が集中する神戸製鋼所は、夜間への生産シフトの検討を始めた。

 さて、必然的な動きが出ています。当初、電力不足が見込まれるのは東日本だけでしたが、しかるに西日本でも電力不足となるのが必至、東京一極集中から西日本への分散化という対策を立てた企業も計画変更を余儀なくされているようです。こうなると土日祝日や夜間へのシフト、そして海外移転を加速させるという結果にならざるを得ません。ただでさえ海外移転が進んでいる中で、新たに電力事情が企業の背中を後押しするような状況ともなれば、今まで水漏れのようなものであった雇用の流出が今度は堤防が決壊したかの如き勢いへと変わることもあり得るでしょう。そして労働者は深夜労働や休日労働へと駆り出されたり、最悪の場合は失職したりするわけです。自分が職を失う可能性など考えたこともない驕れる中産階級や、あるいは不都合なことは何でも中国人や韓国人原発や電力会社のせいにしてしまえば納得できる人も少なくないのかも知れませんが、現実問題として割を食わされる人も少なくない、こういう部分が蔑ろにされるようなことはあって欲しくないと思います。

 電力は足りる、と机上の空論を振りかざす人もいます。その中身はと言えば、あまりにも甘すぎる想定に基づいた代物でしかなかったりしますが、まぁ何であれ売り込みを図る側は自説に好都合な部分しか見せようとしないものです。この辺の売り文句を鵜呑みにして失敗する人もいて、それが後から訴訟沙汰になったりすることもあるのは先日のエントリで取り上げたところでもあります。とはいえ訴訟に勝っても失敗が挽回できるはずもない、だから「そう都合良くはいかないだろう」と自主的にリスクを勘案して「備え」を取るところもあるわけです。上で名前の挙がった企業はこのパターン、「電力は足りる」という威勢のいい言葉を鵜呑みにはせず、足りない場合をも想定して対策を練らざるを得ないのでしょう。こと世論上は、対策を取るより失敗という結果を目にしてから「そら見たことか、やっぱりダメだったじゃないか」と後ろ向きの予言に走る人が多いですけれど、こんな真似をしていては組織が潰れますから。

 ちなみに電力需給に関する見解は、おおよそ3パターンに分けられると思います。「元から(原発がなくとも)電力は足りてるよ派」と「節電すれば足りるよ派」、「節電したって危ないよ派」ですかね。そこで「節電すれば足りるよ派」の場合、節電に励む企業には割と肯定的だったりします。節電と称して電気代を節約しているだけだったり(参考)、利用者(とりわけ弱者)に不便を強いたり(参考)、労働環境を著しく悪化させたり、あるいは自前の設備で発電した電気を顧客や自社従業員のためには使わず売却に回すという飢餓輸出に走ったり等々(参考)困った企業は後を絶ちませんが、節電に協力的な企業は脱原発にも協力的と期待してしまうのか、決して否定的な目を向けてはいないようです(道徳家にとっては人々に忍耐を強いることではなく、儲けることこそが「悪」なのでしょう)。しかるに「元から電力は足りてるよ派」が、この節電に励む企業をどう評するのかは興味深いところです。節電に励むことはすなわち、節電しないと電力が不足するという現状認識を如実に示すものでもあります。節電にいそしむ人々の存在は「原発がなくとも元から電力は足りている」という彼らの世界観を覆すものでもあるはずですが――


[CML 009327] 共産党 原発政策を転換か? 共産党のこれまでの主張と吉田万三さんの「脱原発」宣言

私の知っている東京在住のある共産党員の若手弁護士は先にあった東京都知事選と関連させて共産党の原発政策のあいまいさについて次のような感想を述べています。

「小池さんの選挙で歯がゆかったのは、すっりと脱原発と言い切っているようには聞こえないことです。安全神話問題から始まり、最後の方になってようやく、自然エネルギーへの転換が出てきます。これでは現代人のペース・理解力には合わないのではないでしょうか。新聞報道では、ワタミの人の方が反原発論者で、小池さんの言っていることは要約されるとよく分かりません。/また、東京では連日のように反原発のデモ・行動が行われていますが、赤旗では報道されません。今の反原発の波に乗れなかったことが、敗因の一つではないでしょうか。/ドイツの緑の党の躍進と対照的ですね。」

この若手弁護士は、共産党が「反原発」政策を明確に述べなかったことが都知事選「敗因の一つ」ではなかったかと分析しています。比喩的に言えば共産党が「反原発」政策を明確に述べなかったことが「東京都民の半数近くを敵に回す」ことになった、と同若手弁護士は分析しているということです。○○さんの分析とはまったく逆の分析ということになりますね。

 某所でこのような書き込みがあったわけで、まぁ今となっては共産党も世論の熱狂に引きずられているフシも少なからず見受けられるのですけれど、人によっては共産党の原発に対する姿勢が生ぬるいと不満を持っているようです。まぁ、うちの選挙区の共産党議員でも若い人は割と猛々しく原発を非難していますけれど、配っているビラに書いてあった放射線量は随分と大人しいものでした。「放射能汚染」と銘打った割には自然放射線量を差し引けば「気にするほどの放射線量は検出されていない」と判断できそうな代物です。もちろん0でなければ「汚染されている!」と大騒ぎする人もいるのでしょうけれど、どこで計ったのか条件は元より真偽すらも不確かな放射線量を引き合いに出すような週刊誌報道と比べれば物足りないと感じる人も多いのかも知れません。もっと公務員の人件費を高く算出してほしい放射線量を高く発表してほしいと願う人からすれば、共産党の姿勢を歯がゆく思うものなのでしょう。

 さて「あいまい」とされた共産党候補の小池氏に対し、引き合いに出されたのは民主党が推したワタミの社長で、そっちの方が明確な反原発論者だったと評されています。まぁ「脱原発が第一」の人からすれば、そういうものなのでしょう。ならば、どうしてワタミの社長が小池氏とは違って明確な反原発論者となれたのか、その辺は考えてみる余地があると思います。

 ヒントになるのは、ワタミの社長と同様に威勢の良い反原発論者である大阪の橋下の存在です。橋下もまた、小池晃よりも立場は明確と言えます。なぜでしょうか。それはつまり、昨今の反原発論の煽りを食らう人々への配慮の有無が違いを産んでいるようにも思います。ワタミの社長も橋下も、自らの政策のウケの良さは気にしますけれど、その人気政策が実行される影で切り捨てられる人の「痛み」など省みようともしないわけです。だからこそ、思い切ったことが言えるのです。昨今の流行の中で脱原発を叫ぶのは簡単ですが、それを実現に移したときの犠牲は決して小さいものではありません。この小さなくない「痛み」を住民に強いることに躊躇いを感じる人であれば、必然的に慎重な態度に終始せざるを得ないでしょう。一方で「痛み」を「耐えよ」とばかりに一蹴してしまうような人物であれば、自らの政策の「影」になる部分など考えません。反原発を叫ぶときの思い切りの良さは、政治家あるいは政党としての責任感の欠如の度合いに比例します。そして責任感に欠ける政治家を台頭させようとする気運は、左右問わず広がりつつあります。

 

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Unknown (spec)
2011-06-15 06:03:01
 私の誤解でなければ、共産党はもともと反原発では無かったはずです。ただし吉井議員の津波の指摘の件で分かるように、安全性に対する観点は厳しく問いただしていました。
 その若手弁護士の指摘のように、共産党の原発政策はあいまいだっとともいえますが、私は逆にバランスがとれていたとも思います。
 今回の件を気に、脱原発の方にシフトするようですが。
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なぜか節電要請が来ない北海道 (こっぱなお役人(北のほう))
2011-06-15 22:59:36
なんですが、冷静に考えると当たり前なんですよね。
電気使用のピークは北海道だけは2月ですし、本州に送ろうにも(津軽海峡横断送電線の容量の)60万Kw/hしか送れない。
でも北海道に逃げてくるような企業ってほとんどないんですよね…
地価は(本州に比べると)激安で(国内ですから当然ですが)言語・生活習慣・時差の問題は一切なく、唯一の問題は「冬(雪と寒さ)」くらいなのに…
北海道って本州の企業のみなさんからすると「国内」じゃないのでしょうかねぇ
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-06-15 23:30:27
>specさん

 元より共産党は科学が好きなところがありましたからね。原発に対して厳しいけれど、必ずしも否定的ではなかったと私にも思われるのですが、昨今の風潮にはあらがえないところもあるのでしょうか。どうせ反原発の流れに乗ったところで共産党より「威勢のいい」ところはいくらでもあって二番煎じ以下にしかなれないのですから、変に世論に媚びずに従来の信念を貫いて欲しいところです。

>こっぱなお役人(北のほう)さん

 節電や電力不足とは無縁と言うだけで、なにやら日本とは別世界に思えてしまいますね。ちょっと羨ましいところでもありますが、やはり企業側は「どうせ移転するなら海外」なのでしょうか。労働力や電力の問題もさることながら、市場規模という点で北海道は弱いのかも知れません。今後の日本で電力不安の恐れがないというのは他県にはないメリットになる、それは産業側にとっては決して小さくないはずですが……
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Unknown (とおる)
2011-06-16 05:44:36
微妙に話がずれますが、昨日、茨城の海の放射線調査が報道されていました。
結果は0.04~0.15マイクロシーベルトということで、「国の定めた学校の行程の基準値よりもずっと低い・・・」と述べていましたが、この数値は、自然放射線量の範疇なので、この報道の仕方は少しおかしく、正しくは「放射線量は平常値で異常は無かった」とすべきだと思いました。
やはり、マスコミは視聴者が飛びつく放射能不安を煽りたいだけで、安心できる事実はなるべく伏せたいのかと思いましたね。

ちなみに、国民に原発不安が生じてしまった以上、政治的にある程度は脱原発路線に傾くのは、民主主義としては、まあ仕方が無いと思います。経済不安か放射能不安かどちらを優先させるのかは、まさに政治的な判断ですので。

政治的には、脱原発のメリット・デメリットを示した上で、国民に冷静な選択を呼びかけるしかない訳です。現実の経済停滞か、将来的な原発事故の可能性のどちらを優先するかという問題に尽きる訳なので、人によって考え方は千差万別でしょう。

まあ、橋下のようなエキセントリックな扇動家は論外ですが。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-06-16 22:45:01
>とおるさん

 脅威を煽るのに協力しないと、やれ電発推進派だの御用学者だの電力会社に買収されているだの、いずれにせよ視聴者のご機嫌を損ねてしまいますからね。あるいは脱原発にしても、「安全性が確保できればいいのか」それとも「とにかく原発であること自体がNG」なのかとか、「電力不足が見込まれる時期であろうと脱原発」なのか「電力供給の不安を解消した上で脱原発」なのか等々、もうちょっと考えるべきことはあるはずですが、単純に「脱原発に賛成するのか反対するのか」という二元論に持ち込まれがちで、その辺もまた危うさを感じるところです。
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