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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

BT / "This Binary Universe"

2006-09-08 02:54:48 | music3
Tbu

>> http://www.thisbinaryuniverse.com/

□ BT / "This Binary Univerese"

The Internal Locus

Release Date;29/08/2006
Label: DTS Entertainment
Cat.No.;1140
Format: 1xDVD and 1xCD.
Note: DTS 5.1ch Surround Mixed

>> Tracklisting.

[DVD]

1. All That Makes Us Human Continues [Film]
2. Dynamic Symmetry [Film]
3. The Internal Locus [Film]
4. 1.618 [Film]
5. See You On The Other Side [Film]
6. The Antikythera Mechanism [Film]
7. Good Morning Kaia [Film]

[CD]

1. All That Makes Us Human Continues
2. Dynamic Symmetry
3. The Internal Locus
4. 1.618
5. See You On The Other Side
6. The Antikythera Mechanism
7. Good Morning Kaia

映像と音響のコラボレーション。
この作品はBTの正統なアーティストアルバムとは言えないですが(5th Albumは製作中)、さほど目新しくはないにしろ、21世紀初頭にして次世代の音楽との付き合い方を提起しています。各曲に割り当てられた、新進気鋭のデジタル・アートクリエイターによるヴィジュアルアート、CGアニメーションをエディティングして音楽とシンクロさせ、視覚刺激、聴覚刺激の両面から視聴者を圧倒する仕掛けがいっぱい。更にこの作品はDTS 5.1ch Surroundにて真価を発揮します。(アメリカでは5.1ch Surroundで聴いてもらう為に、各地の映画館でツアー上映が行われています。)

5つの出力音源と重低音をフルに活用して、音源移動(音がグルグル回る!)や包み込むようなリアルな環境音、サウンドエフェクトを超巧微細にブレンドし、分厚いオーケストラが壁のように押し寄せる演出は正に音のトリック。5.1ch Breaksサウンドを構築するSonic Architects製のプラグイン(未発表)を使用しています。

音楽性については、残念ながら個人的には斬新さに欠けるような気がしました。BTがやる必要はないというか、この手の音楽なら既にIDM・エレクトロニカシーンで先進性を切り詰め切り詰め、末端に至るまで多様な試みが行われてきたからです。それらに鑑みても、BTの今作品の音はむしろIDMの前時代に聞かれた様式、よくいえばかつてAutechreが奏でていた音をもっと単純化したような。。映像に助けられている部分が大きいです。とはいえ、ザラついたアトモスフィアの質感などは、この人にしか出せないものがありますね。BGV・サウンドスケープとしては良い具合にアンビエントで、これくらいが映像を邪魔せず良いのかもしれません。

BTはアーティストアルバムと並行して、多くのリミックス・ワークやフィルム・ワークをこなす職業音楽家でもあり、寧ろそっち方面が本業なくらい大きな評価を得ています。この"This Binary Univerese"の前身であり、同じDTS Entertainmentから発表されたシャーリーズ・セロン主演の映画"MONSTER"のサウンドトラックではややハンス・ジマーを意識したサウンド構成が見られましたが、基本的にこのTBUと変わらない路線でした。(「モンスター」の実話をモデルに映画化した『テルマ&ルイーズ』のスコアはハンス・ジマーが手掛けていた)

テクノ・エレクトロニカリスナーが音楽を聴いていて思い描くヴィジュアルはどういうものでしょうか。個人差はあれど、おそらく多くの場合アブストラクトな形象の「動き」や、シュールなアートワーク、主観で宙を駆けるイメージ等など共有する領域は決して狭くはないと思うのですが、ここに収録されているCGアートもご多分に漏れず私達に喚起されるイメージをコンピュータ上の「バイナリの宇宙」に具現化したような作品揃い。(それは主流のメソッドとソフトウェアの特性と制限を背負ったものであるけど。)ここでは一曲一曲について、紹介・感想を述べて行きます。尚、サウンドやビジュアルの視聴にあたっては公式サイトを利用することをオススメします。
>> http://www.thisbinaryuniverse.com/


"This Binary Universe" -このバイナリの宇宙で


1. All that Makes Us Human Continues                      .
Animation and Editing BY MONDI

「バイナリ化された宇宙」のソースであるアトモスフィアが波のように鳴り、全作品を通して象徴的な金属打楽器、鍵盤楽器のメランコリックな旋律で静かに幕を開ける。無数のフレームにカットアップされた「面」があらゆる方向に透過・乱反射して伸びている。無造作に分割された空間のセグメントに、サウンドの高揚に従って様々な色彩とイメージのレイヤーが明滅・回転し、ディテールが描きかえられていく。巨大で複雑な建造物からわずかに覗く外の風景(地球?)を見上げるようでもある。

画面にはしばらく動きがないが、グリッチやノイズが折り重なり、臨界点を迎える曲の展開部でフレームが光源化し一気に視点移動する。サウンドにベースが乗ると、光と影の『二極化』されたフレームの織り成す世界へ。終盤で画面は徐々に夕陽色の優しい色彩を帯び始め、フレームの境界から溢れ出す眩い光で覆われる。



2. Dynamic Symmetry                                            .
Artwork BY Jeff Nentrup
Animation and Editing BY Gabe Watkins
Additional Animation And Editing BY Scott Pagano

水平線に隔てられた海と空の『2つの世界』の狭間を1羽のハトとトンボロボットが往く。。まるで絵本に飛び込んだかのような幻想的世界。しかしどこか悪夢的でビザーレであり、動物ともロボットともつかない奇妙な生物が夜を支配する。BT得意のブレイクスに併せて画面がクローズアップ。曲調がジャズ色を帯びると、怪奇生物の宴が始まる。

あのねー。。とにかくキモイ。CGでコラージュされた空想の動物。目玉の塊とか、体が犬で頭が毛の無い鳥?みたいなヤツとか、形状だけならまだしも動きが生理的にキモイ。うわ。。見たくない、見たくない。。とか思ってると嫌がらせみたいに突然カメラが寄る(!)だがそれがいい。。のか?銀河を吐き出す装置がお気に入り。これは是非観てもらいたい。



3. The Internal Locus                      .
Artwork BY ADAM DOYLE
Animation and Editing BY Scott Pagano

イラストレーター、アダム・ドイルが描く1枚1枚の絵を大胆なカメラワークとエフェクトで捉える物語。音楽は"This Binary Universe"において最も複雑で聴き応えのある構成で、ハイライトトラックと呼ぶに相応しい。スクラッチされたフィルム効果、雨の音と雷鳴、錆びれたパイプと地下室の絵で始まり、ドビュッシー・フレーバーのするピアノが、ある一人の少年の日常にフレームセットする。

日々の生活を長閑に過ごす少年。彼はウサギが飛び回る夜にある夢を見る。いつもと変わらない朝。彼は日常の些細な変化に思いあたる。あのウサギがいなくなってしまったと寂しさに駆られるが、同時にある疑念を抱く。(少年(あるいはロボットも)はBT自身の象徴かもしれない。彼は最近愛犬のTOOTSIEを亡くしており、本作は彼に捧げられている。)そう遠くないところにある大木、ウサギはそこからやってきたのだろうか。

彼がそこで目にしたものは、頭が魚、体がウサギに改造された奇妙な生き物。ウサギは地下に伸びるケーブルに彼の注意を向ける。その下には、孤独に発明を続ける一体のロボットが息を潜めていた。やがて交わることのなかった『二人の世界』が繋がる時が来る。

音楽はトーマス・ニューマン風に生楽器とオーケストラをふんだんに使って展開され、BT独特のイリーガルな音響効果・ブレイクスのコンビネーションも見られる盛り沢山の内容。絵と音が奏でる、どこか寂しくて心温まる物語に、しばし無心で耳を傾けて欲しい。



4. 1.618                                                               .
Cinematography,Animation,and Editing BY Scott Pagano

吹き抜けるような肌寒い風を想わせるアトモスフィア。鳥の鳴き声が入る。映像は一転して実写。特殊なレンズを通してミニチュア化された荒涼とした岩場・砂漠の風景。その造型をアーキテクトする数学的真理が裏側に息づいている。美の摂理、黄金比(1:1.618...)。

ここでは法則的に振舞う『自然の二面性』が象徴される。イメージのシークエンスは実写→左右対象のワイヤー運動→CGメカニック・アート→アニメーション→各シークエンスのフラッシュバックなど、非常にヴォリュームとヴァラエティに富むが、やや猥雑な印象も受ける。

黄金比を示す多様なシンボルが紅い色彩に目まぐるしく動く芸術的意匠は、極めてビデオ・ドラッグ的要素が強い。複雑に流れるように噛み合う装置の艶かしい質感。主観でトンネルを潜り抜ける臨場感あるカメラワーク。黄金比の定義よろしく、分割されたフレームの一部に際限無く取り込まれていくフラクタル・イメージ。ドープなエコーとエッジの効いた粒状のビートと、ギターの奏でるアコースティックな色合いが不思議とマッチしている。空間の前後に流れていくような音圧を感じさせるサウンドエフェクトが、広大にデザインされた宇宙を泳ぐ主観を演出する。



5. See You On The Other Side                                 .
Animation  and Editing BY Dose Productions.

空間上の見えざる平面に反射する光源。モニター平面に描かれる宇宙に、位相を別とするもう一つの空間が重なる。『2重の世界』の光の競演。哀愁のギターリフに重なるように、ギミックを施された粒状のブレイクビートが聴覚空間上に質量を纏う。静止した宇宙空間では、干渉できないもう一つの世界が光の洪水を伴って別次元の暗黒物質を照らし出す。

やがてビート同士が共鳴し、リズムという重力によって結晶化、規則性のある運動を見せはじめると同時に、空間上のワイヤーも結晶化、組成して『踊り始める』。やがて2つの宇宙は重なり充溢する。各々の音の響きが「光」としてお互いに干渉しながら、燃えるように溶け合い、高みへと向って主観が飛翔する。



6. The Anhtkythera Mechanism                                .
Cinematography,Animation,and Editing BY Scott Pagano

"1.618"と同じ舞台、物悲しいピアノの旋律とともに雪に覆われた岩場が開け、一人の少女が途方に暮れて歩き出す。彼女は記憶を頼りに迷宮の入口となったクリスタル(装置)に触れる。システムに内包された『2重の時間軸』と並行する世界。

ソフィスティケイトされたサイバーなビートワークが、この世界に潜む機械的な意思を不気味に投影する。やがて少女は作られた現実の森を脱出しようと走り出す。ここで大胆な映画的ストリングス・ワークが登場。ちょっとナルニア国物語思い出した(笑)

映像は透明で見えない何らかの装置の鳴動を、光の屈折を重ねて描き出す。そして突然システムの正体、紅い機械仕掛けの都市が眼前に顕れ、主観で空中を舞うと、音楽は再びブレイクスにカットイン。しかし突然装置がホワイトアウトし、活動を停止。ここの360°サラウンドを駆使した罅割れるような音響効果が圧巻。少女は変形していくクリスタルを手放し、フェードアウト。

標題の"The Anhtkythera Mechanism"(アンティキティーラ・メカニズム)は、実際に存在する考古学的遺物。紀元前82年にギリシアで作られた精巧な天球儀(アストロラーベ)。エーゲ海沖、アンティキティラ島付近に沈む難破船から発見された。その不可解な程の精密さから、史上最古のコンピュータと形容される。



7. Good Morning Kaia                                             .
Directed BY BT
Editing BY Jonathan Silver and Kevin McCullough
Additional Editing BY Chris McKinley and Radar Dog Productions
Addtional Animation,Editing,and Typography BY Scott Pagano

BTの一人娘、Kaiaに捧げられたメッセージ・フィルム。
ピアノの独弾きから(映像ではBTがKaiaの手をピアノにあてがっている)ノイズの導入でシューゲイザー風に展開するミニマルなロックで、これまでの閉塞感を爽快に吹き飛ばすほどのエピックで優しい楽曲。ホームビデオを監修してビジュアルワークを施し、父親としてのBTの想いを綴ったタイポグラフィが娘との『二人の絆』を物語る。見ててちょっと気恥ずかしいかも。

"I will watch you create for the stars conspire for you"
(あなたとあの星々が創り出すものを見届けるよ。)

一人の人間と世界との関わりを、愛のある視点で更に外部から見守る存在がある不思議。『This Binary Universe』この二分化された宇宙は、決して外部に埋没する自他との関わりだけで成り立っているわけじゃない。希望と慈愛に満ちた観察する視点、この物語を紐解く「あなた」が心を開いて受けとめることができるのだ。



今回はMacBookでデータ参照しながら旧マシンで書き込み。
やっぱりMacは強し。むしろメインマシンは
このままで良いような気さえしてきました。(笑)