Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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シャルコー・マリー・トゥース病の患者さんのQOL

2005年10月02日 | 末梢神経疾患
今回,イタリアからシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)患者さん121名に対して行われたSF-36を用いたQOL調査の結果が報告されている.SF-36は健康関連QOL(HRQOL: Health Related Quality of Life)を測定する尺度のひとつで,疾患特異的な尺度ではなく,包括的尺度に分類される.利点としては,疾病の異なる患者さん間のQOLの比較が可能であり,かつ一般に健康と言われる人のHRQOLと比較することもできる.
研究の対象は2001年から2003年までの約3年間において,Dyckによる診断基準を満たした121名で,80名(66.1%)は脱髄型,41名は軸索型であった(正中神経のMCV 38m/sで区別).80名で遺伝子診断を行い,53名で原因遺伝子が判明(CMT1A; 42名,CMT1B; 4名,HNPP; 4名,CMT1X; 3名),原因遺伝子が明らかにならなかったケースの大半は軸索型であった.
QOL評価の信頼性の検討は「内部一貫性(内的整合性)」internal consistencyを用いて評価した.例えばQOL調査票で,ある項目の下位尺度に属する質問項目が複数あるとして,一つの項目で「問題なし」と答えた人では残りの項目でも「問題なし」であることが望ましく,さらに問題がある人ではすべての項目で「問題あり」となることが望ましい.こうした一貫性を信頼性の一つとみなし,クロンバッハのアルファ係数(Cronbach's coefficient alpha)として数値化する.本研究ではこの係数が常に高く(0.70以上),研究の信頼性は高いと判断している.
さて問題の結果であるが,CMTの患者さんはSF-36の8つの下位尺度(身体機能,日常役割機能,体の痛み,全体的健康感,活力,社会生活機能,日常役割機能,心の健康)のいずれの項目も,既報のイタリアの健康な人と比較して低いことが分かった.さらに以下のことも判明した.①働いていない患者は働いている患者よりスコアが低い,②女性は男性よりスコアが低い,③高齢者ほどスコアが低い,④脱髄型と軸索型では差がない,⑤整形外科的手術の有無で差はない,⑥罹病期間とmental function(SF-36のmental componentを用いて評価;mental summary measure)に相関はない.
働いているか否かがQOLに影響を与えることは想像に難くはない.女性でQOLスコアが低い原因は,性差による病気の症状の違いということではなく,男女間で家庭,仕事の面で違いがある可能性を著者らは考えている.脱髄型と軸索型で違いがなかったのは,それぞれの病型でも表現型や症状の程度はさまざまで均一ではない可能性が考えられる.また著者らは身体能力(走ること,歩行,握力),感覚障害,うつ,疲労といった因子がQOLに及ぼす影響は検討しておらず,今後の課題だとしている.
このようなQOL評価は,患者さんのQOLにどのような因子が影響を与えているかを明らかにし,そのQOLの向上に役立つのみではなく,治療効果を患者側から判断するということにも役に立つ.とくにCMTではアスコルビン酸,プロゲステロン・アンタゴニスト,神経栄養因子NT3といった治療薬の候補がいくつかあり,このような観点から治療効果を見ていくことは非常に大切であると考えられた.

Neurology 65; 922-924, 2005
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