Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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SCA2の発症年齢に影響を及ぼす因子

2005年09月29日 | 脊髄小脳変性症
 今年3月31日に,遺伝性脊髄小脳変性症の発症年齢に影響を与える因子について記載したが,SAC2をモデルとした新たな研究が報告された.具体的にはどういうことかというと,いわゆるCAG repeat病(ポリグルタミン病)の発症にCAG repeat数が影響を与えることは有名な話であるが,発症年齢とrepeat数の相関を調べた際の決定係数(coefficient of determination;重相関係数Rの2乗.独立変数が従属変数のどれくらいを説明できるかを表す値.決定係数の値が高いということは,得られた重回帰式の予測能力が高いことを意味する)を検討すると,CAG repeat数のみで発症年齢のすべてを予測できるわけではなく,つまり,それ以外の修飾因子の存在が疑われる訳である.例えばHuntington病では,GluR6遺伝子のpolymorphismが発症年齢の修飾因子であることが知られているし(PNAS 94:3872-6, 1997),以前紹介したCAG repeat病の発症年齢修飾因子に関する研究(Ann Neurol 57; 505-512, 2005)では,MJDとSCA6ではCAG repeat数が発症年齢に及ぼす影響は他の疾患より低く(具体的にはSCA1, SCA2, MJD, SCA6, SCA7のR2は,順に0.66, 0.73, 0.45, 0.44, 0.75),何らかの影響因子(遺伝因子もしくは環境因子)の存在が示唆されている.
 さて今回,CubaのSCA2 148名(57同胞)を対象として,発症年齢に影響を及ぼす遺伝的因子が検討された.仮説としては,9つ知られているCAG repeat病のうち,SAC2をのぞく他の8疾患(SCA1, MJD, SCA6, SCA7, SCA17, DRPLA, HD, SBMA)のCAG repeat長(2つ存在するものの長いほう)が発症年齢に影響を及ぼす可能性を考えている.結果としてSAC2におけるCAG repeat数の決定係数は57%であり,variance-components analysisを行うと,残りの影響因子のうち55%は遺伝的要因であることを明らかにした.さらにSCA6の原因遺伝子であるCACNA1Aの長いほうのCAG repeat数が,有意にSCA2の発症年齢に影響を及ぼすことを示した(その決定係数は5.8%).
CACNA1Aはプルキンエ細胞に高発現するCa-channelであり,P/Q currentとcomplex spike形成に重要である.また興味深いことにataxin-2は細胞質に局在する蛋白であるが,CACNA1Aも同じく細胞質蛋白(膜蛋白)であり(その他の原因遺伝子産物はみな核蛋白),細胞内局在の一致は何らかの意味があるのかもしれない.さらに著者らはpreliminary dataとしてSCA2剖検脳の細胞質aggregateにCACNA1Aがco-localizeすることをdiscussion内で述べている.以上より,理論的にもSCA6のCAG repeatがSCA2の発症に影響を及ぼしてもおかしくはないというdiscussionである.
 ただこの研究結果がどのように臨床的に役に立つのかはよく分からないので(例えば,SCA2発症年齢の予測にataxin 2とCACNA1Aのrepeat数の両者を用いた予測式を使うぐらいだろうか),Brainに載るほどの論文なのかなという気がしなくもない.SCA2研究では有名なPulst自身が第一著者であり,偉い先生にもかかわらず自ら論文を書くあたりは「さすがだなあ」と感心したが・・・

Brain 128; 2297-2303, 2005
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