Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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上肢Barré徴候というものはない

2019年02月14日 | 医学と医療
朝のカンファレンスで,有名な上肢Barré徴候という名称は英米では使われないという話をしました.一方,下肢の不全麻痺の診察法として背臥位で行うMingazzini試験があります(写真C).これはイタリアの神経学者Giovanni Mingazziniが1913年に報告したものですが,同時に上肢の診察法も報告していました(写真A).つまり本来であれば上肢の落下試験はMingazzini試験と呼ばれるべきでした.そのあと1919年,フランスの神経学者Jean A Barréが,腹臥位で下肢の不全麻痺を診察する新たな変法を報告しました.Barréは1937年の論文の中で,自身の変法(写真D)とともに写真BとCを掲載していますが,上肢については記載が曖昧であったため,本邦ではBarréによるものと誤って紹介され,今日に至りました.結論として「上肢ではMingazzini試験(A),下肢には背臥位のMingazzini試験(C)と腹臥位のBarré変法試験(D)がある」ということになります.

上記は尊敬するneurologistのひとり,廣瀬源二郎先生の論文で学びました(臨床神経2015;55,455-8).注意すべきはMingazzini試験オリジナルは,手掌を下にし,指を開き行うことです.廣瀬先生はオリジナルを行った後,手を回外位に保ち閉眼させ,回内・落下を確認すること(pronator drift)を勧めています.

ちなみにBarréは変法を報告する3年前の1916年に,Geoges GuillainとAndre Strohlという2名のフランスの神経内科医とともに「細胞反応がなく脳脊髄液の蛋白増加を伴った根神経炎症候群について」と題した2症例の報告をしています.つまりGuillain-Barré(-Strohl)症候群のBarréと同一人物です.



廣瀬源二郎.Barré試験とMingazzini試験 ―Mingazzini原著の重要性―.臨床神経, 55:455-458, 2015
なおこの内容は,平山恵造先生も神経症候学Ⅱ,およびClin Neurosci 18: 106, 2000に記載されておられる.また福武敏夫先生も脊椎脊髄ジャーナル 28; 246-53,201および著書「神経症状の診かた・考えかた(2014、2017)」にて紹介されておられる.

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