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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症における各治療介入の順番・頻度と,治療選択時の意思表示能力

2016年06月15日 | 脳血管障害
多系統萎縮症(MSA)に対する根本的治療法は開発されていないが,対症療法は経験を積んで発展し,摂食嚥下障害に対する胃瘻造設,睡眠呼吸障害に対する非侵襲的陽圧換気療法(NPPV),上気道閉塞・喀痰の管理等に対する気管切開術等が行われている.しかし,これらの治療介入がどのような順番で,どの程度の頻度で行われるのかについては十分なデータがない.さらにMSAでは認知症を合併しうるが,各治療を選択する際の意思表示能力についてもこれまで検討されていなかった.この情報は,治療計画を考えるうえで極めて大切なものとなる.

このため,吉野内科・神経内科と新潟大学脳研究所神経内科は協力して,MSAに対する治療介入の頻度,順序,および意思表示能力を明らかにすることを目的とした後方視的研究を行った.MSAと同様に各治療介入を必要とする筋萎縮性側索硬化症(ALS)についても併せて検討し,両者の相違についても検討を行った.対象は吉野内科・神経内科を受診したMSAおよびALSの連続症例,それぞれ28名および62名であった.

結果であるが,各治療介入の頻度は,MSAではALSと比べ,NPPVの導入頻度が明らかに低く(25%対71%),胃瘻造設はやや低頻度で(43%対63%),気管切開術については同程度であった(25%対29%).治療介入の順序,時期については,MSAとALSでは大きく異なっていた.MSAではALSと比べ,治療介入の時期がいずれも有意に遅く,NPPV導入,気管切開術,胃瘻造設の順に行われていた.一方,ALSでは胃瘻造設,NPPV導入がほぼ同時期に行われ,少し遅れて気管切開術が行われていた.MSAでは睡眠呼吸障害がまず出現し,しばらくして嚥下障害や呼吸不全が出現するのに対し,ALSでは嚥下障害と呼吸不全が早期からあまり間隔を開けずに出現することが原因と考えられた.

最後に各治療介入時の意思表示能力(図)については,ALSと比較し,MSAではいずれの治療介入に関しても,不自由なく可能である患者の頻度が低く,とくに気管切開術において顕著であった(このことは気管切開術という極めて重要な決定を,本人以外の者の考えで行わねばならない可能性があることを示すものである!).MSAにおける意思表示能力低下の原因としては,運動機能障害と認知機能低下の2つの要因の関与が考えられた.

本研究は症例数が限られていること,ならびに単一施設による検討で,治療介入に主治医の考え方が反映されるという限界がある.しかし,MSAにおける治療介入の頻度や時期,順序を初めて示したこと,ならびに各治療介入を決定する際に,意思表示能力が低下していることを示した点で,患者さんを担当する上で重要な意義を持つものと考えられる.具体的には認知機能が保たれる,より早い時期での病状説明と治療方針の自己決定を検討することが必要である.

浅川孝司ら.多系統萎縮症における治療介入に関する検討 ―筋萎縮性側索硬化症との比較―.神経内科84; 600-605, 2016 



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