Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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家族性ALSに対するトフェルセンについて理解しよう

2023年11月23日 | 運動ニューロン疾患
トフェルセンはSOD1遺伝子変異を有する家族性ALS(ALS患者全体の2%程度)の進行を遅らせる可能性のある治療薬で,ALS治療研究における非常に大きな進歩と言われています.トフェルセンはSOD1 mRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドです.SOD1 mRNAのRNase H依存性分解プロセスを利用し,SOD1タンパク質の産生を減少させます(図).具体的には髄腔内投与により運動ニューロンに入り,SOD1 mRNAに特異的に結合し,RNA-DNAハイブリッドを形成します.トフェルセンはRNase H依存性酵素を活性化し,RNA鎖を切断して変異型SOD1 mRNAを分解,減少させ,最終的に変異型SOD1タンパク質も減少して,神経変性が抑制されます.



トフェルセンの臨床試験としては,まず第1-2相試験が50人の患者を対象として行われました.主要評価項目は85日目のSOD1濃度のベースラインからの変化でした.SOD1タンパク濃度の幾何平均比は,20mg群で1%,40mg群で27%,60mg群で21%,100mg群で36%減少しました(偽薬群は3%減少).

第3相試験では72人がトフェルセン群,36人が偽薬群に割り付けられました.168日間にわたりトフェルセン(100mg)を8回髄腔内投与しました.遺伝子変異の種類による進行の速いサブグループでは,トフェルセン群では脳脊髄液中のSOD1蛋白質の総濃度が29%減少(偽薬群は16%増加),進行の遅いサブグループでは,トフェルセン群で40%減少(偽薬群は19%減少)しました.さらに神経障害マーカーである血漿中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)濃度を偽薬群よりも大きく低下させました(図).



しかし進行の速かったサブグループで,ALSFRS-Rスコアの28週目までの変化は,トフェルセン群で-6.98点,プラセボ群で-8.14点と有意差なし(差,1.2点;95%信頼区間,-3.2~5.5点;P = 0.97).副次評価項目も両群間で有意差はなし.副作用は腰椎穿刺関連の有害事象(穿刺部痛,頭痛)が認められ,重篤な有害事象(脊髄炎,無菌性髄膜炎など)はトフェルセン群の7%に認められました.

これらのデータに対し,アメリカFDAは,効果は十分とは言えないとしながらも,患者にとってリスクよりも利益が上回ることが予測できるとして,深刻な疾患の患者に対し,より早く治療を提供する「迅速承認」を支持する意見をまとめ,4月25日に承認しました.私自身も疾患の性格上,FDAの考えは支持できるものだと思いました.

一方,日本では治験が行われたものの未承認で,外国から輸入し,高額な費用を自己負担する必要があり,ほとんどの患者さんは使用困難な状況です.東京医科歯科大学の横田隆徳教授は「病気の原因に直接働きかける薬ができたという意味で,非常に価値の高い成果だと思っている」「進行が早いALS患者は2年程度で亡くなることもあるため,日本で薬が承認されるまでのドラッグラグの期間によっては治療が間に合わない.そのような患者がいち早く薬を手に取れるような社会的な対応を期待したい」と話しています(https://tinyurl.com/ylqe57uq).
Miller TM, et al. Trial of Antisense Oligonucleotide Tofersen for SOD1 ALS. N Engl J Med. 2022 Sep 22;387(12):1099-1110.(doi.org/10.1056/NEJMoa2204705
Saini A, et al. Breaking barriers with tofersen: Enhancing therapeutic opportunities in amyotrophic lateral sclerosis. Eur J Neurol. 2023 Nov 17.(doi.org/10.1111/ene.16140
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