Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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パーキンソン病に対する2つのαシヌクレイン抗体による臨床試験の失敗

2022年08月06日 | パーキンソン病
New Engl J Med誌の最新号に,凝集αシヌクレインに結合するヒト由来のモノクローナル抗体を用いた2つの臨床試験(シンパネマブCinpanemabとプラシネスマブPrasinezumab)の結果が報告されました.パーキンソン病の進行を初めて抑制する病態修飾薬となるのではないかと期待された臨床試験でしたが,結果はまったく効果がありませんでした.私も落胆した反面,やはりそうかという感じもしました.

いずれも病初期のパーキンソン病患者(発症3年以内,修正版 Hoehn-Yahr 重症度分類2~2.5以内等で,両試験で異なるため詳細は論文参照)を対象とした52週間の多施設共同二重盲検第2相試験でした.前者は偽薬またはシンパネマブ(250 mg,1250 mg,3500 mg)を4週間ごとに静脈内投与するもので,2:1:2:2の割合(100人: 55人:102人: 100人)で割り付けています.一方,後者は偽薬またはプラシネズマブ(1500mg,4500mg)を4週間ごとに静脈内投与するもので,1:1:1(105人,105人,106人)で割り付けています.主要評価項目は,52週目(および72週目)におけるMDS-UPDRS合計スコア(範囲0〜236,スコアが高いほど不良)のベースラインからの変化です.結果は,両試験とも偽薬群と比較して,主要評価項目において有意な効果が得られませんでした(図).画像バイオマーカーを含む副次評価項目でもまったく効果はありませんでした.



ちなみにシンパネマブはαシヌクレインのN末端を認識し,モノマーとの結合親和性は低く,プラシネスマブはαシヌクレインのC末端を認識し,モノマーともよく結合できる特徴をもちます.性質の異なる2つの抗体で効果がなかったことは,細胞外のαシヌクレインを標的とする抗体療法単独では少なくとも病初期の患者の進行を抑制できない可能性がかなり高まったように思います.試験失敗の原因に関する議論は深くなされていませんが,介入のタイミングの遅さのみ記載されていました.「αシヌクレインオリゴマーが神経細胞内に入り機能不全をきたすのはより早期のイベントであり,発症前もしくは前駆症状期に治療介入を行う必要がある」と述べています.アミロイドβ抗体はいままで明らかな成功はなく,進行性核上性麻痺のタウ抗体も2つのN末端抗体で無効,そして今回の結果です.多系統萎縮症に関するαシヌクレイン抗体LuAF8242も国内も含め進行中ですが,標的タンパクに対する抗体療法はそう簡単には行かない様相を呈してきました.
N Engl J Med 2022; 387:408-420(doi.org/10.1056/NEJMoa2203395)
N Engl J Med 2022; 387:421-432(doi.org/10.1056/NEJMoa2202867)
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