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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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意図的に目を開けられない脊髄小脳変性症

2007年02月17日 | 脊髄小脳変性症
 顔面失行は顔面筋の運動が反射的・自動的には正当に行えるが,随意的・意図的には正しく遂行できない状態をいう.特定の運動が著しく障害される場合を限局性失行といい,開眼失行,閉眼失行,眼球運動失行,発語失行,嚥下失行などに分離される(神経症候学.平山2006).開眼失行は意図的に開眼ができない状態であり,上眼瞼挙筋を支配する動眼神経の核上性機能障害によって生じると考えることができる.眼瞼痙攣を伴うことも,伴わないこともある(眼瞼痙攣を認める場合には開眼失行とは呼ばない立場もある).機序に関しても名前の通り「失行」と捉える立場と,局所の「ジストニア」と考える立場がある.開眼失行は,進行性核上性麻痺(PSP)やパーキンソン病患者さんにおいてときどき経験することがある.

 今回,遺伝性脊髄小脳変性症に開眼失行を合併した症例が新潟大学から報告された.1例は遺伝性脊髄小脳変性症2型(SCA2)であり,もう1例はマシャド・ジョセフ病/ SCA3である.さらに遺伝性出血性毛細血管拡張症Rendu-Osler-Weber disease(ROW)に開眼失行を合併した症例もあわせて報告している.いずれの症例も各基礎疾患を発症後に,明らかな眼瞼痙攣を伴わない開眼失行が出現している.開眼失行を合併したSCA2およびROWとしては初めての報告である.

 興味深いことに,いずれの症例も眼瞼痙攣を認めないにもかかわらずボツリヌス毒素注射が開眼失行に有効であった.すなわち,開眼失行は外見上,明らかな眼瞼痙攣を伴わないような症例であっても,「ジストニア」が原因で生じている可能性が考えられた.これら神経疾患に伴う開眼失行では,眼瞼痙攣を認めなくてもボツリヌス毒素注射が有効であることを認識し,積極的に治療すべきと考えられた.

 ちなみに本報告のROWでは,肝内での動脈・門脈シャントが存在しており,この結果,マンガン脳症が生じたものと考えられた.マンガン脳症ではパーキンソニズムやT1強調画像での基底核の高信号を呈することが知られているが,本例でもこれらの所見を認めた.キレート剤はパーキンソニズムと画像所見の改善をもたらしたが,開眼失行には無効であった.錐体外路症状を認め,T1強調画像で基底核の高信号を呈する症例に遭遇したら,マンガン中毒や肝硬変の合併を疑い検索を行うことも重要である.

Mov Disord. 2007 Jan 31; [Epub ahead of print]
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