筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する治療薬としてエダラボン静注用が承認されている.しかし有効性に関するエビデンスは,有効性が期待される部分集団においてMCI186-ALS19試験(Lancet Neurol 2017;16:505-512)で示された短期間の有益性に限られる.このため長期安全性と有効性を評価する目的の多施設共同,傾向スコアマッチ法(無作為割付が難しく交絡が生じやすい観察研究において,共変量を調整して因果効果を推定するために用いられる統計手法)を用いたコホート試験試験がドイツで行われた.
2017年6月から2020年3月にかけてスクリーニングされた1440名のうち,738名が傾向スコアマッチングに含まれた.最終的な解析対象は,エダラボンの静脈内投与を開始した患者194名(年齢中央値57.5歳,男性64%)およびリルゾールによる標準治療を受ける傾向スコアマッチングを行ったALS患者130名の合計324名である(全例,El Escorial基準によるprobableまたはdefiniteのALS).介入としては,エダラボン+リルゾール群とリルゾーン単独群を比較した.主要評価項目は,ALSFRS-Rスコアの減少によって評価される疾患進行とした.副次的転帰は,生存率,人工呼吸器装着までの時間,治療前と治療中の病勢進行の変化とした.
結果であるが,エダラボンによる中央値13.9ヶ月の治療を受けた116名の患者における疾患の進行は,リルゾールによる標準治療による中央値11.2ヶ月の治療を受けた116名の患者と差がなかった(ALSFRS-Rポイント/月,-0.91対-0.85; p = 0.37;左図の箱ひげ図).右図はALSFRS-Rの勾配の治療前から治療後の変化を示すものであるが,有意差はなかった.副次的エンドポイントである3項目にも有意差は認めなかった.エダラボンによる副作用は30例(16%)に認められ,特に輸液部位の感染症やアレルギー反応が多かった.
以上より,ALS患者に対する長期のエダラボン静注療法は実行可能であり,忍容性が高いことが示されたが,疾患修飾の効果はなかった.エダラボンの静脈内投与は,リルゾールによる標準治療に対し,追加の利益をもたらさない可能性が示された.
本論文を読んで,まず疾患修飾療法の試験デザインを,従来治療に追加するという実臨床に合わせたものにする大切さを改めて考えさせられた.そしていちばん重要なのは今後の治療方針をどうするかである.エダラボンは1日1回60分をかけての点滴静注を,28日1コースで14日間(2コース以降は10日間)行う治療である.患者・家族にとっても本当に貴重な時間を費やすものである.現時点ではMCI186-ALS19試験と今回のデータを説明し,そのうえでshared decision makingを行うことが良いように個人的には考えているが,いかがなものだろうか?
Witzel S, et al. Safety and Effectiveness of Long-term Intravenous Administration of Edaravone for Treatment of Patients With Amyotrophic Lateral Sclerosis. JAMA Neurol. Jan 10, 2022.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.4893)
2017年6月から2020年3月にかけてスクリーニングされた1440名のうち,738名が傾向スコアマッチングに含まれた.最終的な解析対象は,エダラボンの静脈内投与を開始した患者194名(年齢中央値57.5歳,男性64%)およびリルゾールによる標準治療を受ける傾向スコアマッチングを行ったALS患者130名の合計324名である(全例,El Escorial基準によるprobableまたはdefiniteのALS).介入としては,エダラボン+リルゾール群とリルゾーン単独群を比較した.主要評価項目は,ALSFRS-Rスコアの減少によって評価される疾患進行とした.副次的転帰は,生存率,人工呼吸器装着までの時間,治療前と治療中の病勢進行の変化とした.
結果であるが,エダラボンによる中央値13.9ヶ月の治療を受けた116名の患者における疾患の進行は,リルゾールによる標準治療による中央値11.2ヶ月の治療を受けた116名の患者と差がなかった(ALSFRS-Rポイント/月,-0.91対-0.85; p = 0.37;左図の箱ひげ図).右図はALSFRS-Rの勾配の治療前から治療後の変化を示すものであるが,有意差はなかった.副次的エンドポイントである3項目にも有意差は認めなかった.エダラボンによる副作用は30例(16%)に認められ,特に輸液部位の感染症やアレルギー反応が多かった.
以上より,ALS患者に対する長期のエダラボン静注療法は実行可能であり,忍容性が高いことが示されたが,疾患修飾の効果はなかった.エダラボンの静脈内投与は,リルゾールによる標準治療に対し,追加の利益をもたらさない可能性が示された.
本論文を読んで,まず疾患修飾療法の試験デザインを,従来治療に追加するという実臨床に合わせたものにする大切さを改めて考えさせられた.そしていちばん重要なのは今後の治療方針をどうするかである.エダラボンは1日1回60分をかけての点滴静注を,28日1コースで14日間(2コース以降は10日間)行う治療である.患者・家族にとっても本当に貴重な時間を費やすものである.現時点ではMCI186-ALS19試験と今回のデータを説明し,そのうえでshared decision makingを行うことが良いように個人的には考えているが,いかがなものだろうか?
Witzel S, et al. Safety and Effectiveness of Long-term Intravenous Administration of Edaravone for Treatment of Patients With Amyotrophic Lateral Sclerosis. JAMA Neurol. Jan 10, 2022.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.4893)