Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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パーキンソン病の病因タンパクαシヌクレインは炎症・免疫のメディエーターとして作用する

2022年01月17日 | パーキンソン病
αシヌクレイン(αS)は,パーキンソン病(PD)におけるレビー小体の構成タンパクであり,かつPDの発症に関与している.しかしその本来の生理機能は不明であった.これまでの研究で,αSは脳の細胞内に多く存在し,神経細胞間の情報伝達の場であるシナプスの機能に重要な役割を果たしていると考えられてきた.しかしシナプスにおける正確な役割は,ほとんど謎に包まれていた.一方,αSが小児の腸管神経系におけるノロウイルス感染によって神経終末より分泌されること(かつ炎症が強ければ強いほど,その分泌量は多かった),マウスの実験で致死的な神経向性ウイルス感染から保護することが報告されていた.さらに食細胞の強力な走化性活性化因子でもあると報告されていた.

今回,Cell Reports誌に米国からの報告で,αSが炎症反応や免疫反応の重要なメディエーターであることが示された.実験では野生型およびαSノックアウトマウスを用いている.まず腹腔内に注入した細菌由来のペプチドグリカンにより惹起した腹膜の炎症が,腹膜を支配する神経細胞からのαS産生を誘発することを確認した(図).具体的には,注入後わずか数時間で,大腸および横隔膜の神経終末がαSを分泌し始めた(その濃度は注射部位に近い横隔膜でより高かった).そしてαSは,Toll-like receptor 4(TLR4)をトリガーとして抗原提示細胞を活性化し,腹腔内免疫後の抗原特異的反応およびT細胞反応の発現を促進した(自然免疫および獲得免疫が活性化させる).つまり神経細胞が供給源となるαSは,腹膜炎の誘発と免疫応答に必要と言える.一方,αSノックアウトマウスでは,これらの反応が限定的で遅かった.さらに注目すべきは,白血球もαSを産生できるが,この系ではほとんど産生していなかったことである.つまり炎症反応を起こしているのは,腸における免疫細胞ではなく神経細胞であった!



今回の報告は,αSは腸における免疫や炎症反応に不可欠な役割を果たすというだけでなく,著者らはPD患者の神経系内にαSが蓄積するのは,炎症/免疫反応のためであるという仮説を支持するものと考えている(こうなると腹膜炎後の脳の変化が気になるが,本論文ではマウスの脳は検索していない).PDでは以前から感染症に伴い症状が悪化することが言われていたが,単に廃用ではなく,シヌクレイン病理が増悪するのかもしれない.しかしウェブ上の研究者の意見を読んでいると,αSの本来の役割は興味深いが,ミスフォールドしたαSが凝集して新たな毒性を獲得することが本態であるため,αSの生理機能は直接関係はなく,必要な治療法を追求するには無関係であるという意見も認める.確かに正常の機能を果たすαSが,PDを引き起こす病原性をもつαSに変化するメカニズムは最大の関心事である.そうなると,腸の炎症や環境が,αSのコンフォーメーションを変えうるのか今後,検討されるものと思われる.

最後にこの論文を読み,印象深く思った点を2つ示したい.①調べつくされたと思われるテーマでも,過去の研究を丹念に紡いでいけば新たなアイデアの糸口を見いだせること,②神経変性疾患の病態解明にはやはり神経免疫学的アプローチも必要であることである.

Alam MM, et al. Alpha synuclein, the culprit in Parkinson disease, is required for normal immune function. Cell Rep. 2022 Jan 11;38(2):110090.(doi.org/10.1016/j.celrep.2021.110090)

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