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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月15日)  

2022年01月15日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ブースター接種は医療者における感染率を低下させる,mRNAワクチンのブースター接種で,オミクロン株に対する中和抗体の交差反応性が生じる,女性と入院時の症状が多いことは,long COVIDの症状の多さの危険因子である,急性期の低酸素血症が後遺症としての認知機能低下を招く,です.

今週はブースター接種に関する話題と,long COVIDの危険因子に関する研究をご紹介します.後者では急性期におけるCOVIDによる症状の数が多いこと,そして呼吸不全にともなう低酸素血症がlong COVIDの危険因子であることが示されました.

◆ブースター接種は医療者における感染率を低下させる.
60歳以上のひとに対するファイザーワクチンのブースター接種は,感染および重症化のリスクを低下させるが,医療従事者に対する有効性については不明であった.イスラエルから,ファイザーワクチンを2回接種した医療従事者1928名(年齢中央値44歳,女性が71.6%)において,同ワクチンのブースター接種の効果を検証した前向きコホート研究が報告された.1650名(85.6%)がブースター接種を受けた.中央値39日の追跡期間中(最終9月20日)に,44名がCOVID-19に感染し,うち31名(70.5%)が症状を呈した.44名の内訳はブースター接種済みが5名,ブースター未接種が39名であった(発生率,それぞれ10万人・日あたり12.8および116)(図1).両群間の調整ハザード比は0.07(95%CI,0.02~0.20)であった.以上より医療者における検討でも,ブースター接種はCOVID-19感染率を有意に低下させることが示された.
JAMA. Jan 10, 2022.(doi.org/10.1001/jama.2021.23641)



◆mRNAワクチンのブースター接種で,オミクロン株に対する中和抗体の交差反応性が生じる.
88名のモデルナワクチン(mRNA-1273),111名のファイザーワクチン(BNT162b),40名のヤンセンワクチン(Ad26.COV2.S)接種者の血清を用いて,野生型,デルタ株,オミクロン株の各SARS-CoV-2偽ウイルスに対する中和能を測定した.SARS-CoV-2の感染歴を考慮しつつ,最初のワクチン接種を最近(3カ月未満),6~12カ月前,そしてブースター接種を受けた群で調べた.驚くべきことに,ほとんどのワクチン接種者でオミクロン株に対する中和は認められなかった.しかし,mRNAワクチンをブースター接種した群では,オミクロン株に対する中和反応は野生型の4~6倍低いだけと強力であった(図2).以上よりmRNAワクチンのブースター接種で,オミクロン株に対する中和抗体の交差反応性が生じることが示された.
ちなみに図2の3番目「6-12ヶ月前のワクチン+感染」で,野生型,デルタ株,オミクロン株に対する中和抗体価は,ブースター接種と比較してだいぶ低い.「オミクロンは軽症なので感染して免疫をつけたほうが良い」と言う人に会ったが,後遺症もまだ不明であるし,中和抗体価もこの結果では,賢明な方法とは言えないだろう.
Cell. Dec 23, 2021.(doi.org/10.1016/j.cell.2021.12.033)



◆女性と入院時の症状が多いことは,long COVIDの症状の多さの危険因子である.
スペインからlong COVIDの症状の多さに関連する危険因子を調査した多施設共同研究が報告された.1969名の患者(年齢中央値61歳,女性46.5%)が退院後8.4カ月でランダムに評価された.結果として,long COVIDの症状の増加と関連する要因は,女性(オッズ比1.82),入院時の症状の数(1.309;図3),併存症の数(同1.182),入院日数(1.01)であった(いずれもP<0.001).さらに入院時の症状が,嘔吐(1.78),下痢(1.51),頭痛(1.50),咽頭痛(1.36),呼吸困難(1.20)のいずれかであった場合も,long COVIDの症状の多さと関連していた(すべてP<0.01).以上より,性別以外に,入院時の症状の多さと一部の症状がlong COVIDの症状が増加する危険因子であることが分かった.
Int J Infect Dis. 2022 Jan 8:S1201-9712(22)00007-8.(doi.org/10.1016/j.ijid.2022.01.007)



◆急性期の低酸素血症が後遺症としての認知機能低下を招く.
メキシコからCOVID-19生存者に認められる後遺症としての認知機能障害の出現に関する危険因子を検討した前方視的研究が報告された.18 歳以上の重症患者92名(年齢中央値50歳,女性41.3%)を対象に,退院後 6 カ月に追跡調査を行った.このうち50名(54.4%)が認知機能障害(MoCA 26点以下と定義)を呈した.まず血栓形成・炎症に関わるバイオマーカー(CRP,フィブリノゲン,好中球)と入院時の低酸素血症の重症度との間に相関を認めた.またPaO2/FiO2の低下が,年齢,院内せん妄,侵襲的人工呼吸器換気とは独立して,認知機能に直接影響を与えることが示された(図4;PaO2/FiO2 300 mmHgを境に比較).以上より急性期の低酸素血症が後遺症としての認知機能低下を招く要因として重要な役割を持つことが分かった.
Neurol Sci. Jan 13, 2022.(doi.org/10.1007/s10072-021-05798-8)



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