Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月16日)  

2022年04月16日 | COVID-19
今回のキーワードは,ワクチン接種と自然感染では長期的な感染予防ができないことを受け入れなければならない,COVID-19は嗅覚組織における神経軸索損傷と微小血管障害をきたす,です.

◆ワクチン接種と自然感染では長期的な感染予防ができないことを受け入れなければならない.
最新号のN Eng J Med誌でワクチン4回接種の重症化予防効果についての論文が報告されたが,この論文に関するeditorialが掲載されている.その一部を紹介する.

「現在,人々は完全ワクチン接種(fully vaccinated)の意味について混乱している.この理由は容易に理解できる.COVID-19ワクチンにまつわる最も残念なことは,ワクチン接種後の軽症ないし無症状感染を『ブレークスルー感染』と名付けたことであることは間違いない.従来,すべての粘膜ワクチンの目標は重篤な疾患から人々を守ること,つまり入院,ICU入室,死亡から人々を遠ざけることであった.しかし『ブレークスルー』という失敗を意味する用語は,ワクチンによる完全な感染の防止という非現実的な期待,すなわちゼロ・トレランス戦略を生んでしまった.もし私たちがパンデミック(世界的な感染大流行)からエンデミック(一定の地域や季節に繰り返す疾患)への移行を目指すのであれば,ある時点でワクチン接種や自然感染,あるいはその組み合わせでは軽症感染に対する長期的な予防ができないことを受け入れなければならないだろう.米国のファウチ首席医療顧問も,『ワクチンなどの対策を採った上で,コロナと共存を考える新たな段階に近づいている』と話している.よってCDCはワクチンの限界について一般市民に啓発する必要がある」

→ 納得できる意見である.実際,第6波も収束しない状況で,社会活動を再開し第7波に突入した日本の現状は「ワクチンを打ちつつコロナと共存する状況」を目指していると言えるだろう.ただコロナとの共存は,従来よりも施設や病院におけるクラスターを防ぐことが困難となり,ハイリスク患者の感染や通常診療への悪影響が生じるだろう.さらにより多くの認知機能障害などの後遺症を呈するlong COVID患者の発生を招くことにもなるだろう.つまりwith coronaには覚悟と準備が必要ということになる.後者では,最近,米国でバイデン大統領が打ち出したような政府による本格的な対策(long COVID患者のケアサービス・支援の改善,官民セクターや医療界における教育やアウトリーチの強化,研究の推進)が日本でも必要と考えられる.
N Eng J Med. April 13, 2022(doi.org/10.1056/NEJMe2203329)
JAMA Health Forum. 2022;3(4):e221280.(doi.org/10.1001/jamahealthforum.2022.1280)

◆COVID-19は嗅覚組織における神経軸索損傷と微小血管障害をきたす.
COVID-19における嗅覚障害は,嗅覚ニューロンへのウイルス感染が原因であると推測されている.しかしウイルス感染が嗅覚組織の損傷を引き起こすかは不明であった.米国から,剖検組織を病理学的に検索した研究が報告された.COVID-19による死亡患者23人および対照14人を対照とした.嗅覚組織の変性の重症度,神経軸索の喪失,微小血管内皮障害の重症度について評価した.軸索病理スコア(範囲,1~3)は,COVID-19 患者で1.921,対照で1.198(P<.001),軸索密度はCOVID-19患者で 2.973×104/mm2,対照で3.867× 104/mm2(P = .002)であった(図1).



微小血管障害スコア(範囲,1~3)は,COVID-19患者で1.907,対照群で1.405であった(P < 0.001).嗅覚神経軸索と微小血管の病理変化は,COVID-19患者でも嗅覚障害を認める場合により高度であった(軸索病理スコア,2.260対1.63;P = .002;微小血管障害スコア,2.154対1.694;P = .02)(図2).しかし臨床重症度やおよび感染のタイミング,ウイルスの存在とは関連がなかった.



以上より,SARS-CoV-2感染が嗅覚組織における神経軸索損傷や微小血管障害をきたすことが示された.一部の症例では顕著な軸索病変を認めたことから,嗅覚障害が重篤かつ永続的となる可能性が示唆された.また嗅覚病理はウイルスによる直接傷害ではなく,局所炎症と関連している可能性が考えられた.
JAMA Neurol. April 11, 2022.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.0154)


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