Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症をめぐる臨床倫理的問題(日本臨床倫理学会@順天堂大学)

2015年03月09日 | 脊髄小脳変性症
日本臨床倫理学会 第3回年次大会にて標題の演題発表をさせて頂いた.神経変性疾患のなかで筋萎縮性側索硬化症(ALS)の臨床倫理的問題については従来多くの議論があるが,多系統萎縮症(MSA)では,これまでほとんど議論がなされてなかった.以下,要旨をまとめてみたい.

多系統萎縮症(MSA)は本邦の脊髄小脳変性症のなかで最も頻度の高い病型であるが,多彩な症候を呈し,睡眠呼吸障害や睡眠中の突然死を合併することがある.これらに対する治療として,持続的陽圧換気療法(CPAP)や気管切開術が行われてきたが,我々は,いずれの治療も突然死を完全には防止できないことを報告した(J Neurol 255:1483-1485, 2008).このような突然死のリスクがある神経変性疾患患者に対する告知については,これまでほとんど議論されて来なかった.本演題では,CPAP療法を導入した自験例の臨床経過を参考にして,今後,MSAにおいて議論をすべき臨床倫理的問題は何であるのか,明らかにすることを目的とした.

対象は,2001年から2012年までの間に新潟大学医歯学総合病院に入院し,Gilman分類のprobable MSAと診断された症例のうち,睡眠呼吸障害の改善,および突然死の防止目的のため,CPAPを導入した症例とした.CPAP導入後の突然死を含めた転帰, CPAP中止後の治療と予後について,後方視的に明らかにし(Niigata MSA study),その結果を踏まえ,告知や治療の自己決定において議論すべき問題を検討した.なお突然死の定義として,ICD-10のR96.1(発症から24時間以内の原因不明死)を用いた.

対象は29名で,転帰については観察期間中のCPAP中止が19名(66%),死亡が6名(突然死4名を含む),CPAP継続中が4名であった.CPAPの継続期間は中央値13ケ月(1~53ケ月)と短かった.CPAP継続中止の原因は,呼吸器感染(9名),呼吸不全(4名),CPAPマスクの不快感(3名)が多かった.CPAPの継続を中止した19名は,気管切開術を希望しないA群9名(47%),気管切開のみ行い人工呼吸器装着を希望しないB群6名(32%),人工呼吸器装着を希望したC群4名(21%)に分類された.CPAP断念後の生存期間は,A群,B群,C群の順に37.5 ± 8.5, 29.4 ± 6.1, 51.8 ± 18.3ヶ月であり,人工呼吸器装着は生存期間を延長する可能性が示唆された(ここまでの結果はSleep Med 15; 1147-9, 2014に報告した).しかし人工呼吸器装着による長期生存により高度の脳萎縮と認知症を来す症例がみられた.また我々は過去にCPAP導入を検討する段階ですでに認知機能障害を合併している症例が存在することを報告しているが(Mov Disord 25:2891-2, 2010),CPAP導入時に認知機能障害を認めた4例において人工呼吸器を装着した症例はなかった.

以上より,人工呼吸器装着例では生命予後が改善する可能性があるため,CPAP断念後は人工呼吸器を装着するかどうかの自己決定が必要であることが示唆された.同時に人工呼吸器装着後に,疾患の進行に伴い認知症を来しうる可能性も示した.

結論として,MSAにおける臨床倫理的問題として,少なくとも以下を検討する必要がある.
1.突然死の危険性についての告知はいつ行うべきか?
2.認知症を合併した患者さんの告知はどのように行うべきか?
3.人工呼吸器を装着するかどうかの選択は,いかに行うべきか?


今後,どのような場で議論を進めるべきかの検討も必要である.

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