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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳卒中と感染・炎症-国際脳卒中学会(ISC2016@ロサンゼルス)

2016年02月19日 | 脳血管障害
国際脳卒中学会(ISC2016)に参加した.私達のチームは,脳保護薬プログラニュリンの続報(神経保護メカニズム)を発表した.個人的関心はやはり基礎研究で,急性期の神経保護療法の今後や,回復期の幹細胞移植療法の現状を知ることにあったが,ここでは面白かった臨床的トピックをまとめたい.それは「脳卒中と感染・炎症」をテーマにしたThe interface between infection and cerebrovascular diseaseというシンポジウムである.結論から言うと,「脳卒中は感染・炎症と深い関わりがあり,治療標的となる」,もっと具体的に言うと,(1)脳卒中は(単一ではなく)さまざまな感染症がリスクや引き金になり発症し,(2)発症後,全身性の炎症反応が引き起こされ,(3)感染,とくに肺炎は予後を増悪させる,ということである.以下,3つに分けて説明したい.

(1)感染症は脳卒中のリスク・引き金となる
以前より,肺炎クラミジアは血管内皮障害を介して,脳梗塞の危険因子になる可能性が指摘されたが,結局,メタ解析で否定され,現在,このような単一の感染症は脳梗塞の危険因子とならないとは考えられている.しかし,近年,単一の感染症ではなく,さまざまな感染の繰り返し・総和(inflammatory burdenという)が動脈硬化に関連することが分かってきた.つまり「歯周炎・肺炎クラミジア・ピロリ菌・ウイルス感染(CMV,HSV)などの感染」に,遺伝・環境因子も関与して,脳卒中が生じるという考え方である.これらの感染を数値化したInfectious burden indexと頸動脈エコーの最大プラーク径が相関することが示されている.このindexは認知機能低下にも関わる.
上記のような長期的な感染だけでなく,インフルエンザや肺炎,尿路感染症,ヘルペス感染といった感染は,短期的に脳卒中の引き金にもなることが分かってきた.
以上の結果から,脳卒中患者や危険因子を抱えるひとでは,脳卒中の引き金になるインフルエンザを予防するためのワクチンの励行が勧められ(AHA/ASAガイドラインに掲載),かつ長期的にも「感染➔血管プラーク➔脳卒中」とならないよう,感染症の積極的治療が推奨される.

(2)脳卒中後の全身性炎症反応は保護的効果をもつ
脳卒中後の発熱は30%の症例に見られるが,必ずしも感染を伴わない.これは,2つの機序により生じると考えられている.1つ目は脳内で生じる炎症(血管炎症,サイトカイン,好中球,ミクログリア・リンパ球の順に活性化)が,破綻した血液脳関門を介して全身に波及する(Brain Immune interface;local pathway),2つ目は,脳からのシグナルが全身,とくに骨髄と脾臓に伝えられ,変化が生じる(Brain Immune interface;neural pathway)というものである. 後者に関して,脾臓は脳卒中後,サイズが縮小するが,4日目頃から逆に大きくなるらしい.このような反応はまとめて,systemic inflammatory response syndrome in stroke(SIRS)と呼ばれ,脳卒中の重症度や予後と相関する.炎症経路と炎症抑制経路が同時に活性化する.SIRSを示す徴候としては以下が報告されている.
1.発熱
2.循環型DAMP(damage-associated molecular patterns):S100,HMGB1
3.血漿サイトカイン(IL1,6,8,10,17)
4.炎症性プロテアーゼ(MMP9)
5.白血球左方移動
6.血球トランスクリプトームの変化
しかし,このSIRSの臨床的意義は十分に解明されていないが,とくに脾臓からの単球は保護的効果を含むと考えられている.よってSIRSの抑制は予後を悪化させる可能性がある.治療への応用のためにはメカニズム解明が不可欠で,preconditioningはSIRSと同様の変化をきたすことから,SIRSの保護的効果の解明に有用と考えられている.

(3)脳卒中後感染,特に肺炎は予後を悪化させる.
脳卒中後,感染は20-61%,肺炎は6-22%に合併する.とくに後者は予後不良に関連し(オッズ比2-6),かつ死因の1位である(オッズ比2-14).AHA/ASAガイドラインでも肺炎,尿路感染に対する積極的治療の必要性が記載されている(Class Iエビデンス;写真).肺炎の原因は嚥下障害等に伴う誤嚥と,脳卒中後の免疫抑制であると考えられている.であれば,予防的抗生剤の投与で予後が改善するのではないかと期待される.肺炎を起こす脳梗塞マウスモデルがあり,実際に脳卒中後免疫抑制も確認されていて,予防的抗生剤投与を行うと予後が改善した.しかしヒトでは2つの大規模試験が行われたものの無効であった(しかしプロトコールの改善の余地あり).今後,脳卒中関連肺炎の定義,バイオマーカーの同定,治療開始時期,治療薬についての検討が必要である.,免疫調整療法としてβブロッカーや吸入型IFNγが期待されている.

以上より,(1)さまざまな感染症が,脳卒中のリスクや引き金とならないように適切に治療すること,(2)全身性の炎症反応を抑制せず,かつ治療に応用すること,(3)脳卒中後肺炎を予防する,という戦略が今後,考えられる.

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