米国神経学会年次総会@フィラデルフィアのPlenary Session(学会員全員が集まるセッション)のひとつに,2名の演者が議論を戦わせるControversies in Neurology Plenary Sessionがある.3つのトピックスが議論されたが,そのなかの1つが「将来,脳神経内科医は人工知能(AI)に取って代わられるのか?」という議論であり,参加者の関心が大きく,会場は大いに盛り上がった.
【脳神経内科医は負けないとする立場】
まずペンシルバニア大学Joseph Berger教授が,脳神経内科学は放射線診断学,病理学,皮膚科学のようなパターン認識が重要なウェイトを占める診療科ではないこと,脳神経内科学は問診や診察の過程での「人としてのつながり」が重要であること,とくに患者さんへの共感(empathy)やいたわり・思いやり(compassion)の気持ちが重要で,それは決してAIに取って代わられるものではないことを根拠として挙げられた.さらにbad newsを患者さんに適切な方法で告げることはAIにはできるものではないと主張された.むしろAIの役割は,検査や文献情報などの情報の提供により脳神経内科医を支援し,その結果,生じた時間的余裕を脳神経内科医は患者さんと接する時間に当てるべきだと述べた.結論として,「決して我々がAIに取って代わられることはない!」と述べ,大きな喝采を浴びた.
【AIに取って代わられるとする立場】
つぎにJohns Hopkins大学のDavid Newman-Toker教授による発表が行われた.明らかに不利と思われる雰囲気の中でプレゼンを開始されたが,2つの主張は多くの脳神経内科医を考えさせるものであった.まず神経診察で評価するような細かな手足の運動や眼球運動を認識し,かつ正確に定量する技術がすでに開発されている実例を動画で示し,すでにAIが医師による神経診察に取って代わるだけの状況にあることを指摘した.つぎに(A)脳神経内科医の偏在が米国内,国外を問わず顕著であるデータを示し,適切な脳神経内科医療にアクセスすることが現状では困難な患者さんが多数いること,また(B)アクセスできたとしてもとくに救急医療を中心に少なからぬ誤診が生じている状況をデータとして示され,このような現状を考えれば,AIが脳神経内科医に一部代わって診療に関わるべきではないかと主張をされた.うーんと唸ってしまうほどの説得力があり,議論がかなり引き戻された印象を持った.
【さて軍配は?】
両者のプレゼン後,いずれに軍配が上がるか,アプリを使用した投票が行われた.結果は投票者の66%対34%で,「脳神経内科医がAIに取って代わられることはない」という判断が多かった.しかし 3人に1人はAIに取って代わられる可能性があると考えたということのほうが印象的だった.
実は私が編集委員を務める「Brain and Nerve」誌の7月号増大特集は「神経学と人工知能」であり,そのあとがきを執筆するため,原稿を先に拝見させていただいた.神経学領域における人工知能研究の進歩は驚くべきものだと改めて思った.このような情報を知れば,投票結果もさらに変わるものと思われる.いずれにしても今回の議論は脳神経内科医の守るべきものと変えていくべきものを考える良い機会になった.今後,AIをどのように使用して患者さんのために役立てていくか,まずは人間がしっかりと知恵を絞る必要があるだろう.
【脳神経内科医は負けないとする立場】
まずペンシルバニア大学Joseph Berger教授が,脳神経内科学は放射線診断学,病理学,皮膚科学のようなパターン認識が重要なウェイトを占める診療科ではないこと,脳神経内科学は問診や診察の過程での「人としてのつながり」が重要であること,とくに患者さんへの共感(empathy)やいたわり・思いやり(compassion)の気持ちが重要で,それは決してAIに取って代わられるものではないことを根拠として挙げられた.さらにbad newsを患者さんに適切な方法で告げることはAIにはできるものではないと主張された.むしろAIの役割は,検査や文献情報などの情報の提供により脳神経内科医を支援し,その結果,生じた時間的余裕を脳神経内科医は患者さんと接する時間に当てるべきだと述べた.結論として,「決して我々がAIに取って代わられることはない!」と述べ,大きな喝采を浴びた.
【AIに取って代わられるとする立場】
つぎにJohns Hopkins大学のDavid Newman-Toker教授による発表が行われた.明らかに不利と思われる雰囲気の中でプレゼンを開始されたが,2つの主張は多くの脳神経内科医を考えさせるものであった.まず神経診察で評価するような細かな手足の運動や眼球運動を認識し,かつ正確に定量する技術がすでに開発されている実例を動画で示し,すでにAIが医師による神経診察に取って代わるだけの状況にあることを指摘した.つぎに(A)脳神経内科医の偏在が米国内,国外を問わず顕著であるデータを示し,適切な脳神経内科医療にアクセスすることが現状では困難な患者さんが多数いること,また(B)アクセスできたとしてもとくに救急医療を中心に少なからぬ誤診が生じている状況をデータとして示され,このような現状を考えれば,AIが脳神経内科医に一部代わって診療に関わるべきではないかと主張をされた.うーんと唸ってしまうほどの説得力があり,議論がかなり引き戻された印象を持った.
【さて軍配は?】
両者のプレゼン後,いずれに軍配が上がるか,アプリを使用した投票が行われた.結果は投票者の66%対34%で,「脳神経内科医がAIに取って代わられることはない」という判断が多かった.しかし 3人に1人はAIに取って代わられる可能性があると考えたということのほうが印象的だった.
実は私が編集委員を務める「Brain and Nerve」誌の7月号増大特集は「神経学と人工知能」であり,そのあとがきを執筆するため,原稿を先に拝見させていただいた.神経学領域における人工知能研究の進歩は驚くべきものだと改めて思った.このような情報を知れば,投票結果もさらに変わるものと思われる.いずれにしても今回の議論は脳神経内科医の守るべきものと変えていくべきものを考える良い機会になった.今後,AIをどのように使用して患者さんのために役立てていくか,まずは人間がしっかりと知恵を絞る必要があるだろう.