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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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認知症を主徴とするCBDの臨床診断は難しい

2017年03月10日 | 認知症
病理学的に診断が確定した210例のCBD症例の解析の結果,いわゆるArmstrong基準では4つの表現型,すなわちCBS(大脳皮質基底核症候群),Frontal behavioral-spatial syndrome (FBS;前頭葉性行動空間症候群),Nonfluent/agrammatic variant of primary progressive aphasia (naPPA;原発性進行性失語 非流暢性/失文法 異型),Progressive supranuclear palsy syndrome (PSPS;進行性核上性麻痺症候群)が採用された.しかし,これ以外にアルツハイマー病様認知症(AD-like dementia)という表現型が存在することも指摘されていたが,この表現型は診断基準に採用されなかった.その理由は,ADとの鑑別が難しく,疑陽性が増加するためである.しかし,これまでCBDとADの認知症の特徴の違いや鑑別について検討した研究はほとんどない.今回,認知症を主徴とするCBDの臨床像,診断,そして病理所見について,検討した研究がセントルイス・ワシントン大学より報告されたので紹介したい.

方法は,初診時に明らかな認知機能障害を呈し,かつ最終的に病理学的に診断されたCBD 17例とAD16例を比較している.いずれの症例も1年毎に問診,神経学的所見,神経心理検査を受けている.初診時および最終の臨床診断,合併する神経症候,合併病理を含む病理診断と臨床への影響について検討している.以下,結果を述べる.

1)CBDの臨床診断は可能か?
ADの16例については,初診時15/16例(94%)がADと診断し,最終臨床診断も15/16例(94%)がADと変わらなかった.一方,CBDは初診時2/17例(12%)のみCBDと診断した.この2名とも典型的なCBSの臨床像であった.残りの臨床診断は,AD 7例,bvFTD 3例,PPA 3例,PCA 1例,多発性硬化症1例であった.また最終臨床診断では6/17例(35%)がCBDと診断され,残りは,非典型的神経症候を伴うAD 6例,bvFTD 4例,多発性硬化症1例であった.以上より,認知症を主徴とするCBDの生前診断は難しく,生前の正診率はわずか35%になることが分かる.

2)CBDを示唆する症候は何か?
CBDとADで,発症年齢や受診までの期間に有意差はなし.CBDでは初診時の認知障害として,即時記憶の障害が最も多かった.CBDは初診時,5/17人(29%)で非対称性運動・感覚徴候,腱反射亢進,歩行障害が見られたが,これら3つは初診時からCBDとADの鑑別に有用であった(図A-C).またパーキンソニズム・ジストニアは受診の2年後から(図D),転倒,尿失禁は4年後から,眼球運動異常は6年後から鑑別に有用であった.これらの項目を3つ以上認めた場合,初診から3.1年(95%信頼区間2.9–3.3年:発症から5.2年)で80%の確率で,鑑別が可能となった.またCBD症例では,エピソード記憶,遂行機能,文字流暢性の低下が急速に認められた.

3)病理所見と合併病理
CBD症例で前頭葉と頭頂葉における顕著なタウ病理が認められた.AD病理の併存がCBD症例の59%(10/17例)に認められたが,臨床表現型,認知症の進行速度,認知症の期間には影響しなかった.

結論として,本研究から言えることは次の2つである.
1)認知症を主徴とするCBD症例の臨床診断は極めて難しい
しかし以下の症候を3つ以上認めたときにはCBDに伴う認知機能障害を積極的に疑う.1つのみの場合もCBDの可能性を疑って神経心理検査等を追加し,かつ長期的な経過観察を行う.

【鑑別を可能とする症候】
A. 初期(初診から4年未満)
 非対称性運動・感覚徴候*
 病的腱反射亢進*
 歩行障害
 パーキンソニズム・ジストニア*
B. 進行期(初診から4年以上)
 転倒
 尿失禁
 外眼筋障害*
 *はCBDに特異的な臨床症候

2)ADを診断する際に,CBDが混入する可能性を考える
CBDにおいてAD病理が59%にも合併することから,今までのADの診断バイオマーカーを用いてもADとCBDの鑑別が困難である可能性がある.これはADの臨床試験を行う場合,非常に大きな問題になる.AD病理を認めるためADと診断されうるが,主な脳の病理変化はタウ病理であり,当然,ADに対する治験薬は効かないことになる.ADを診断するバイオマーカーでなく,CBDを診断するバイオマーカーが必要といえる.

Differntiating cognitive impairment due to corticobasal degeneration andnAlzheimer disease. Neurology 88; 1-9, 2017 

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