Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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MDS2013 Annual Video Challenge@ Sydney

2013年07月02日 | パーキンソン病
Movement Disorder Societyが主催する国際学会に初めて参加した.学会の企画のなかで一番盛り上がるのが,世界各国の学会員が症例ビデオを持ち寄り,運動障害のエキスパート5人が,その特徴や診断を議論するVideo Challengeだ.最も興味深い演題が後日表彰されるため,各国プライドを掛けてこのイベントに臨むそうだ.珍しくて役に立つ症候のビデオが見られるだけでなく,エキスパートがどのように診断に迫るのかを学ぶことができる.6月19日の夜,ワインや軽食が振舞われたあとの午後8時から開始され,終了は10時を過ぎていた,しかしホスト役のAnthony Lang,Kapil Sethi両先生の司会は軽妙で,また症例も分からないものばかりで,あっという間に時間が過ぎた.さてどんなビデオが提示されたが,12例をご紹介したい.言葉による説明では分かりにくいと思うが,ぜひキーワードを頼りに診断を考えていただきたい(結構,マニアックですが・・・).

【問題編】
Case 1(英国)
18歳男性.眼球が上下や左右,寄り目などに固定される.2~3日に1回発作的に起こり,数分から数時間続く(Episodic Oculogyric crisis).発作時に口に手を入れるような緊張や異常な姿勢を伴う.てんかん?ジストニア?髄液5-HIAAが低下.脳波異常なし.

Case 2(カナダ)
46歳男性,ジストニアによる開眼困難,アパシー,構音障害,applause sign陽性,失調歩行,頸部ジストニア,視運動性眼振消失,MRIにて両側基底核のT2低信号(パンダ様),皮膚生検にて診断.

Case 3(アイルランド)
41歳,流暢性の低下が見られるする原発性進行性失語(FTD的),小声,小字症,認知機能低下,MRI上の白質の中等度の信号変化.

Case 4(ドイツ)
25歳女性,3年の経過で動作誘発性の失調歩行,腱反射消失,MRIでは歯状核,錐体路,後索に異常信号,MRSにて乳酸ピーク,アセタゾラミド有効.

Case 5(インド)
23歳男性,13歳視力低下,14歳全身痙攣,23歳不眠,記憶障害,視神経萎縮・網膜症,手をよく洗う強迫性障害,ミオクローヌス,舞踏運動,パーキンソニズム(akinetic rigid syndrome),MRIでは大脳萎縮と白質変化.

Case 6(スペイン)
家族性の認知症+パーキンソニズム(akinetic rigid syndrome).後者はL-dopa抵抗性.
CTでは小脳+大脳萎縮,軽度の白質の低吸収域,MRI拡散強調画像でprion病様高信号

Case 7(オランダ)
27歳男性,本態性振戦(ミオクローヌス的),ジストニア,軽度の自閉症,気管支喘息,失調,遺伝子診断でFXTASは否定.

Case 8(日本)
52歳女性,9歳,頸部不随意運動,12歳右手→全身へ波及,47歳失調,激しい運動時の振戦,家族歴なし.進行性ミオクローヌス+失調を主徴とする.

Case 9(国名?)
32歳男性,家族内類症あり.13歳,進行性の筋緊張亢進,痙性のため膝折りできない,嚥下障害.

Case 10(ブラジル)
59歳女性,急性発症の他人の手徴候.

Case 11(英国)
45歳男性,奇形症候群(副甲状腺・胸腺無形成症,特有の顔貌),病初期はL-dopa有効のパーキンソニズム(左手の無動・振戦).

Case 12(国名?)
性染色体劣性遺伝,急性溶血性貧血,痙攣,認知機能低下.


【解答編】
Case 1;AADC(芳香族アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症
常染色体劣性遺伝の先天性代謝異常,Oculogyric crisisと呼ばれる異常眼球運動を発作性に呈する点が特徴的.

Case 2;神経セロイド・リポフスチン症(NCL)
知能・運動の退行,てんかん,視力障害を主徴とする.遺伝子異常により10のサブタイプに分類されているが,乳児型,後期乳児型,若年型が主要な臨床病型であるが,成人例もありジストニアを呈する.病理学的には,自家蛍光を有するリポフスチン顆粒のリソソーム内への蓄積と神経細胞の変性を特徴とする.

Case 3;神経軸索ジストロフィーを伴う遺伝性白質脳症(HDLS)
Colony stimulating factor 1 receptor(CSF1R)遺伝子変異による,最近,注目されている白質ジストロフィー.

Case 4;Leukoencephalopathy of brainstem and spinal cord involvement and elevated lactate (LBSL; DARS2 mutation)
LBSLは稀な常染色体劣性遺伝疾患で,原因遺伝子はmitochondrial aspartyl-tRNA synthetase(原因遺伝子DARS2は2007年に同定).進行性痙性失調症を呈し,MRIでは複数のlong tractの異常信号を伴う白質病変が特徴的.

Case 5;亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis; SSPE)
麻疹に感染してから数年の無症状の期間を経て,神経症状が出現・進行するミオクローヌス,舞踏運動,アテトーゼ,失調,痙攣.,髄液麻疹ウイルスIgG陽性.

Case 6;Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(Y218Nミスセンス変異)
GSSの特殊な病型で,アルツハイマー病やFTDの診断基準を満たしうる認知症を主訴とし,かつパーキンソニズムを呈する病型.

Case 7;Klinefelter症候群
X染色体過剰の47, XXYの染色体構成をもつ,不随意運動(ミオクローヌス,ジストニア)を合併しうる.

Case 8;Mutations in SCA6 and MRE11 (Ataxia telangiectasia-like syndrome)
Ataxia telangiectasiaは常染色体劣性遺伝,責任遺伝子はATMでDNA損傷修復反応に関与する.二本鎖DNA切断はMre11/Rad50/NBS1(MRN複合体)によって感知され,ATMを損傷の場に誘導する.このMre11に遺伝子変異を原因とする疾患はataxia-telangiectasia-like disorder (ATLDと呼ばれる.本例ではさらにSCA6の遺伝子変異も合併し(double mutation),失調症状に関与したものと考えられる.

Case 9;Spastic ataxia-1(SPAX1 mutation)
常染色体優性遺伝形式の痙性と失調を主訴とする.

Case 10;クモ膜下出血

Case 11;22q11.2欠損症候群
遺伝子異常に起因する奇形症候群の一つ.かつてCATCH22(Cardiac defects,Abnormal facies,Thymic hypoplasia,Cleft palate,Hypocalcemia)という名称で知られていた.有名なDiGeorge症候群(副甲状腺・胸腺無形成症)は本症候群の一部.知的障害以外に,パーキンソン病の危険因子となることが近年,報告された.

Case 12;ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症
伴性劣性遺伝,乳児期から溶血性貧血,認知機能低下,痙攣,脳卒中を来す。血液異常に乏しく,筋痙攣,繰り返すミオグロビン尿のみをみる筋型もある.
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