Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

輝く時へと譲るべき大人

2019-07-28 | 文学・思想
今晩はザルツブルクからの放送がある。ピーター・セラーズ演出「イドメネオ」の初日である。オープニングには初めてオーストリア首相が挨拶していた。初日にも多くのリーダーが集うのだろう。セレモニーから地球温暖化問題をセラーズが取り上げたことで、完全に政治的な催しとなっていた。そして「イドメネオ」でもそれが扱われる。

特に注目されるのが「ありのままの私」が再びここでも強調されていたことで、モーツァルトの作品から不要と思われるものを削除してある。セラーズと指揮者のクレンツィスが同意して削除したようだが、同様な改変は昨年の「ティートゥス」にもあったので驚きには当たらない。寧ろその理由の一つとしてナショナリズム的な「国のために死をも辞さない」とする"No, la morte io non pavento" をヒトラーの1936年ではないのだからとして、ごみとして、そしてヴォルフガンクをファザーコムプレックから救い出してやる作業をしたとするところが興味深い。

元々リベラルのセラーズの主張であり、次世代の為にこれからの社会への決定権を子供に更に多くとする主張は先頃日本の参議院選でれいわ新選組の主張として安富歩がアピールを繰り広げたモットーそのものである。

さて木曜日のバイロイト初日の新制作「タンホイザー」の新聞評が載っている。まさしくそのリベラリズム派にそこで描かれたアナーキズムがあり、それに対抗するものとして法があるとしている。自由と安全、革命家と巨匠ヴァークナー、アップデートされるレジーテアターと歴史的様相の歌劇とを対置させてエンターティメントにしたのがクラッツァーの演出だったとする。ルガトーショコラのフィギュア―にフォイヤーバッハならずマルクスの資本論を読む。

当日13時19分にヘリが緑の丘のバス停に降り立った。デビューを飾った指揮者ゲルギーエフである。終演には盛んにブーの洗礼を受けた。筆者は、多くはプーティン一派としてのまたは反同性愛者への抗議の一つとして理解する。その通りプーティンの義兄弟であるシュレーダー元首相が珍しく赤絨毯に五人目の奥さんと現れたのも指揮者にも招待されたからであろう。こちらも明らかに親ロシアの政治的表明でもあった。

既にペテルスブルクの白夜祭でこのドレスデン版を振って準備をしていて、「軽く、柔軟性に富み、能動的に攻撃的なスイングで、狙った通りのアクセントを付けて聴かせ、熱を放った」と全くバイエルン放送協会のコメントとは正反対の評である。要するに私に言わせると前日の記者会見でのカタリーナの談話から印象操作がされていたというのが事実だろう。なんと言っても新顔に手解きをしようとして手ぐすねを引いて待ち構えていた初代音楽監督の指導の時間をすっぽかしてしまったのだ。どんな嫌がらせがある事か。若干リテラシーの低いジャーナリズムは乗せられるのだろう。公平に見て、ここ十年にバイロイトの劇場で指揮した中では、キリル・ペトレンコは別格としても、このゲルギーエフの程度に匹敵する指揮者が思い浮かばない。あとは皆二流の指揮者ばかりだ。精々、今年から指揮するビュシュコフが指揮技術的にも上回るぐらいだろうか。

そして歌手陣に関しては、後を引く歌唱でもリリックな歌唱でもない自らの葛藤を表現したアイへを最初に挙げて全く私と同じだ。会場でも声が小さいところは無かったのだろう。少なくとも放送では十分な声が出ていた。そして主役のグールド、勿論文句は無い。個人的な印象ではまだ期間中に更にいい歌が歌えると確信する。更に会場で一番湧いていた代役のツィドコ―ヴァの安定した狙いを定めた歌唱とその晩の名人芸を披露した燃えるメゾソプラノ。同様な持ち役となる「影の無い女」の染屋の女房をハムブルクで歌い大変評判の良かったアメリカ人歌手よりも同じタイプながらこちらの方が断然良かった。そして見つけものとして挙げられるのはエリザベートを歌ったリサ・ダヴィットスンで、こちらはミュンヘンで既に予行練習をしていて評判も良かったので驚かない。ハルテロスの役だが、断然こちらが声も良く才能がある。但し放送でも批判されていたように何回か歌ってドイツ語がもう少し分かるようにならないといけないだろう、恐らくその批判が正しい。

さて、ゲルギーエフ氏、ブーを受けた公演後に再びヘリでザルツブルクに向かったようだ。まだ数回往復しながら指揮をして来年はいつものようなドイツの地方の音楽監督に指揮を譲る。バイロイトが少しだけ音楽的にも輝く時かもしれない。



参照:
Glanz und Elend der Libertinage, JAN BRACHMANN, FAZ vom 27.7.2019
ホモのチャイコフスキーは? 2013-12-24 | 文化一般
真夏の朝の騒がしさ 2019-07-26 | アウトドーア・環境
ザルツブルク、再び? 2017-11-17 | 文化一般
コメント (4)
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