日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

広島ハウスの・建築家石山修武

2008-08-13 09:56:33 | 建築・風景

NHK日曜美術館「建築が見る夢 石山修武と12の物語」を見て、僕の石山修武感が少し変わった。「広島ハウス」が映し出された瞬間、思いがけずいいじゃないか!と思ったのだ。
この建築は、原爆を被災した広島と、ポルポトによる虐殺をうけたカンボジャの首都ブノンペンを結ぶ建築として2000年に着工した。建築の専門家だけでなく、広島やブノンペンの人々の手作業による穴あき煉瓦積みによって7年を経た昨2007年、ブノンペンのウナロム寺院境内西側道路に面して竣工した。

発端は1994年の4月、広島アジア大会でカンボジャの選手参加を支援するための組織ができ、市民交流が始まったことによるという。96年3月広島で講演した石山が「交流の家」計画に賛同して基本案を作成して一年後建設計画がスタートした。
この建築に掛けた石山の想いは、世田谷美術館で行われている展覧会のカタログに書かれた鈴木博之の「石山修武という建築家」から読み取れる。

「資金を募り、労力を集めて、自力建設の成果としてこの建築は出来上がった。石山は、建築家・設計者というよりも、建設全体を率いる勧進僧のような役割を果たした」
この建築を観るために、毎年調査に参加するアンコール遺跡のあるシエムリアップからブノンペンへ飛行機で飛んだ鈴木は、この建築が出来上がってしまうのを石山は悲しんだのではないか、永久に作り続けられる建築のあり方が彼にとっては幸せだったかもしれない、と書く。
「しかしこの建築はでき上がった。」
長年の友石山の建築をみる鈴木博之のこの思いもまた興味深い。

日曜美術館で映し出された自邸「世田谷村」。当然の事ながら広島ハウスつながるプロジェクトだ。石山にとっては自邸もプロジェクトなのだと僕は云いたいが、そこにえもいわれぬ面白さが浮かび上がる。

「夏暑く、冬は寒い」。今朝も家族は怒っていたと石山は苦笑いをする。歳とったら動きたくなくなるよね。この家から一歩も出ないで生活したい。世田谷村は永久に未完、だからプロジェクトだ、と僕は思う。
「理屈としては正しい。でもね、理屈は生活に負けるからね!」と、会場で談笑する仲のいいサックス奏者本坂田明とのやり取りも味わい深い。

その石山修武(と有名人を呼び捨てにしたいが、やはりさんをつけることにする)さんの家族・奥様に会った。8月9日にお茶の水女子大で行われた「湯立坂・銅御殿の景観」というタイトルのシンポジウム会場でのことだ。
日曜美術館は面白かったですね、と述べるとニコニコした。翌日僕は世田美に行った。
日曜日なので石山さんはいないだろうと思っていたが、会期中会場内に移した早稲田大学石山研究室分室で、石山さんは黙々とスケッチを重ねている。
展示を観て面白くなった僕はカタログを買った。石山さんが書きましょうかとギャラリーショップに出てきた。シルバーサインペンによる朴訥なサインだ。昨日奥様に会いましたよ、と述べる。何だか困ったような顔をした石山さんも、展示に負けずに変に面白い。

銅御殿シンポジウムが終わった後、コーディネータを担った鈴木博之さん(ここでもさんをつけよう)に、一杯やらないかと誘われた。
お茶の水大学校舎の正面を振り返り、こういう旧い校舎っていいですよねと頷きあったら、実はね、ぼくはここで小学生と中学生時代を過したんだ、という。女子大だけど、小学、中学は共学なのだそうだ。
無くなった同潤会大塚女子アパートメントの敷地を囲んでいる塀を見ながら、村松英子さん(女優・シンポのパネリスト)は、石原慎太郎知事を褒めてたねと鈴木さんと苦が笑いする。文学評論家だった村松さんの父親と親しかった石原知事がこの建築を取り壊したからだ。

3時間半に及んだシンポは面白かったし、庭の視点からの、パネリスト赤坂信、藤井英二郎お二人の千葉大教授の建築論考に学ぶことも多かった。でも少々くたびれたし、何だか名残惜しくなってビールでも飲もうということになったのだ。
いいお酒のある店、静かにJAZZが流れている。いいね、この曲は!と乾杯したものの、お互いに聴き聞き込んでいるスタンダードナンバーなのに、曲名とプレイヤー名が出てこない。歳だなあとまあそんなことを楽しむ。

ところで石山さんの「広島ハウス」はいいですね、と日曜美術館の話をする。
カンボジャの伝統的なあの屋根が三層に重なっていて、ブノンペンの街並みにとけ込んでいるだけでなく、刺激を与えている。
「いやね、石山さんはフラットルーフでやりたかったらしいんですよ、屋根を掛けろと言われてしまった」いやあ、フラットルーフではねえ、石山さんも屋根をやってみて学んだのではないかなア、などと勝手を云って酒を楽しむ。僕の酒は青森の田酒だ。鈴木さんは黒龍。

そしてふと思う。建築が世に現れる物語はどの建築でも面白い。僕はその物語を伝え続けたいと思うが、その建築に魅力がなくてはいけない。この石山さんの建築の魅力は「バナキュラー」だ。名のある建築家のつくったバナキュラー。生まれる建築・バナキュラーの摂理に反するが、だからこの建築は生き続けていくに違いない。「出来上がった」が時と共に、そして風化と共に、完成に向かって生き続けて、いく・・・

<この建築展は、8月17日(日)まで開催>




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6 コメント

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そーなんです ()
2008-08-13 20:53:25
いくら世田谷区内に御住まいでもまさか日曜日にご本人が「出勤」されているとは思いもしませんでした。 pekouさんは10日午後に行かれたのでしょうか?(お逢い出来ず残念) 

【余計なお世話】
銅御殿などのシンポで石山氏の奥様と会われたのは9日(土)ですか?(16日って・・明々後日☆笑)

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夏ボケです(笑) (penkou)
2008-08-14 10:23:32
mさん
ご指摘有難う。9日のシンポで石山夫人にお会いし、10日に世田谷美術館に行って石山修武さんに会いました。(日にち修正しました。夏ボケです)
歳ボケでない事を祈ってきます。これからお墓参りに行ってご先祖様に(笑)
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それって・・・ ()
2008-08-15 21:05:44
ある意味、お釈迦様の境地でしょうか?(シンプルな笑) 私なんぞ年中ボケてます。涙
墓参、お気を付けて行ってらっしゃいませ。
【追伸】
出来ましたら・・最初の私のコメ、削除して頂けると助かります。(何やら偉そうな指摘に読めちゃうので:大汗)
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この暑さ、と暑さのせいにしたくなる (penkou)
2008-08-15 21:53:33
mさん
我がうっかりボケを戒めるために(笑)そのままにさせてください。
いやア、ご指摘いただかなかったら、多分そのまま気がつかず、(まあ読んでくださった大半の方々も・失礼!)・・・良くあることですけど。
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ああ羨ましい! (moro)
2008-08-16 12:16:09
ゆっくりと作業が進んでいた「広島ハウス」がこんなに早く完成するとは思っておりませんでした。
北海道出身の女流画家、丸木俊氏が夫丸木位里氏と共に描いた「原爆の図」などをネットで見たり、様々なことを考えてしまいます。

ところで…
penkou師匠と絵夢さんのやりとりは…
羨まし過ぎて、歯軋りした奥歯から血がでそうなくらいです(笑)!「やはり北海道にUターンしたのは間違いだったか?いやしかし北海道で頑張っているからpenkou師匠や絵夢さんと知り合えたとも言えるし…。」などと自分を慰めてみたりします(笑)。いややはり首都圏が羨ましい!!!
更に新日曜美術館は録画に失敗(ビデオデッキが壊れました。泣)しました。今日の「美の巨人たち・代々木体育館」の録画は親に頼みました。(情けない)
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建築よりオリンピックだ! (penkou)
2008-08-16 17:05:47
moroさん
まあまあ、あまり暑くなりませんように。オリンピックを楽しみましょうよ(笑)
とは云いながら・・・それはmoroさんのブログのコメントで!
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