日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

「ダブルプレー」 R・B・パーカーの描く男

2005-10-01 18:03:30 | 日々・音楽・BOOK
 
ボストンにスーザン・シルヴァマンという素敵な精神科医を恋人に持つ、スペンサーというタフな探偵のいることはご存知のことと思う。
ボストンでは彼を知らない者はいない。どの店で何を食い、何を着て何を履いているかも知れ渡っていて大人気だ。相棒といってもいい、スキンヘッドのマイケル・ジョーダンをクールにしたようなホークの存在も思い浮かべて欲しい。我がジェームズ・ボンドはシェイクしないドライマティニが大の好物だったが、スペンサーは極めてアメリカ人的で、ビールをよく飲む。
 
 ところでジョセフ・バークという第2次世界大戦で戦い、負傷して除隊した後ボクサーになった白人のボディガードは知っているだろうか。ジャッキー・ロビンソンは、1947年黒人として初の大リーグ入りをし、人種差別と戦いながら野球殿堂入りをし、歴史を変えた名選手だが、バークはあらゆる迫害から彼を守るためにそのボディガードを勤めた。

 無論スペンサーもバークも、作家ロバート・B・パーカーが生み出した、いかにもアメリカ的な素敵な`ガイ`だが、ジャッキー・ロビンソンが、ドジャースと契約を交わしたのは、1947年4月、日本で言う昭和22年、戦後2年目のことだった。当時はニグロリーグが行われており、スターだったロビンソンが大リーグ入りをすることは、ニグロリーグが衰退することになり、またロビンソンの存在は、白人の大リーガーにとってもそのポジションを奪われることを意味し、両方から指弾されるという厳しい状況になることは明白だった。
 しかし彼は、自分の存在がいずれ人種差別をほぐしていくことになることを心に秘めて、トライしたのだ。事実今抜群に面白い大リーグは、ジャッキー・ロビンソンが、いなかったら少し様相が変わっていたかもしれない。
 
 この小説「ダブルプレー」(早川書房)は、スペンサーシリーズがちょっとマンネリっぽくなって寂しくなったところで発表されたのだが、実在のロビンソンと架空のバーグの、お互いの尊厳をベースにした友情と共に、定番ながらローレンという危うい魅力に満ちた女の存在もあるし、何よりあの時代のアメリカの裏社会が見事に描き出だされていることが僕にはこたえられず、ロバート・B・パーカーの新境地を見るようで嬉しい。
 そしてこのジャッキー・ロビンソンについての記述を読んでいて感銘を受けるのは、かれが戦う男だったことだ。戦わなくては男ではない!と思っている僕は、こういう言い方をするとちょっと照れるが参ってしまうのだ。では何のために戦うのか!言うまでもなく自分のプライドのため。そこが泣かせるのだが、何に対してと問われると、ウーム・・・とちょっと考える。 

 さて、一言加えれば、ここに描かれた物語に内在しているのは、スポーツの世界の素晴らしさだと言ってもいい。
 あらゆる迫害に耐えてグランドに出たロビンソンが新人賞を得たとき、新人賞を主催している権威ある<スポーティング・ニュース>紙の選考理由にそれを見る。当時の社会状況を考えると、アメリカの懐の深さも感じとれる。下記池井優氏の解説から収録させていただく。
 『今回の選考に当り、ジャッキー・ルーズベルト・ロビンソンが他の新人以上の障害に出くわしたこと、さらには一人前の大リーガーとして認めてもらうためこれまで苦労しなければならなかったことを本紙はまったく考慮に入れなかった。(中略)ロビンソンは大リーグにおける一人の新人選手として扱われ、打撃、走塁、守備、そしてチームへの貢献度を基準にして新人王に推されたのである』 


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3 コメント

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そうきましたか! (xwing)
2005-10-02 02:08:41
ソコニーハウスについての勉強を開始していた矢先に、「ライトクロス」を被せられた感じです。最近は、津本陽の時代物に走っていたのですが、思わず書棚の奥の列を前面に入れ替えました。

さて、やはり札幌に来ていただくしかありませんね。そして一緒にビールをぐっと一気にあおりましょう!ビール園で。(…ちょっと違いますね。)「ビールをちびちびと飲む人間は信用するに値しない」のですから。

元ボクサーのスペンサーということでボクサーの話を私も。私にも今までの人生で、先生と心の底から呼べる方がおります。(幸運なことに、その事については非常に恵まれているのです。)さて北海道出身の世界チャンピオン沼田義明との初の日本人対決を制し新チャンプとなった小林弘選手をご存知でしょうか。現在は、武蔵境で小林ジムの会長をなさっております。元祖雑草男といわれていましたが、ライトクロスが芸術的な技巧派だったのです。今年で30代最後の私でもちょっと古い時代のチャンプなのですが、その小林会長は実は私のボクシングの先生でした。(私はアマチュアですがボクサーだったのです。)

会長は精神の方は「雑草魂」まる出しで、とても厳しい方でした。何せ、座右の銘が「我慢」というくらいの人なのですから。社会人の私にも容赦無しでした。しかし、生き方(戦い方)は会長から教えていただきました。ボクシング以外ではとても優しい方でもありました。(おっと、過去形にしてはいけませんね。)

タイタニックを引き上げた男もA-10のパイロットを奪還した男も、皆優しさ(人を思いやる心)を持っています。そんな男達にしびれてしまうのです。

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素晴らしい大人 (penkou)
2005-10-03 13:59:35
ボクサーとは!

僕はボクシングのことはあまり知らないのです。まあ白井義男とカーン博士とのこと(もう歴史ですね)、原田、具志堅、蛙飛びの輪島、蝶のように舞蜂のようにさすカシアス・クレイ(どうもモハメド・アリとはいいにくい)、猪木がなんとも情けなく寝ッコロガッタ闘い?などは覚えてます。小林弘選書も沼田選手も名前は知ってます。初めてボクシングを見たのは、東京オリンピックの時、券の割り当てがあってサウスポーの桜井の試合でしたけど。

もう一回は、僕の古いお付き合いの大工さんの息子がボクサーになったので、後楽園に応援(というより好奇心に駆られ観に)行ったことぐらいかなあ!非日常的な雰囲気を体感しました。

ところで、先日NHKの「課題授業」でカシアス内藤が出てきて、出身校の子供と対話しましたが、穏やかな、なんとも温かい笑顔で子供たちと対話しているのを見て、ジーンときました。かれは世界チャンピオンになれなかったのですが、(だから)素晴らしい大人になっていました。(ダーク・ピットのように?)

うーん!僕もまんざらボクシングを知らないということでもないか。
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趣味はBoxing観戦とおっしゃっても (xwing)
2005-10-03 23:57:54
誰も疑わないほど、お詳しいです。桜井さんやカシアスの名前を出せる方は、そうはいらっしゃいませんよ!Boxingは、まさしく非日常の匂いが男心をくすぐるのです。ロードワークも、ジムでの練習も、ジムへの生き返りの道も全て…。
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