日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

マイ 小田急ロマンスカー 賛歌

2012-03-20 15:36:58 | 日々・音楽・BOOK

そろそろ貫禄中年になるオバンが、隣の席にドシンと腰を落としたとたん、思わず身体が飛び上がりそうになった。3月19日、朝の9時3分途中停車して町田からほぼ満席となる沢山の乗客を乗せた小田急ロマンスカーMSE(60000形)2号車の車内である。

オバンは見向きもせず通りかかった車掌に前方車両の窓際の席に移動させてくれないかと談判する。しゃがんだ車掌は丁寧にこれから前方点検に参りますので空いている席がございましたらご案内しますという。新百合ヶ丘駅を過ぎたころ戻ってきて、6号車(新宿より)に一席空いておりますがこれからでもお移りになりますかと問うと、うなずきもせずに立ち上がり歩き出した。
僕は一瞬ぽかんとした。袖で振り合うも他生の縁は死語になった。
健康保険高齢受給者の僕が言うのもおかしなことなのだが、言葉を交わさずともこんなオバンより隣席は若い女の子のほうが楽しい。だがほぼ満席になる通勤時のロマンスカーに乗るのは、大方中年を越したオジンとオバンで若い子に巡り合うことはほとんどないのだ。

しかし!と思った。数年前の本欄で車内で化粧する女性を揶揄したが、そのときの論旨は建築学会の機関紙に掲載された自宅空間と車内の区分けのできなくなった社会状況指摘論文に共鳴して、人前で熱心に化粧したってちっとも綺麗にならないじゃないの!という実感を述べたのだ。若い子が座ってくれても、隣で化粧されたらちょっと困る。話はそれていくがロマンスカー内でのもう一つのエピソードを書いてみたくなった。

ある日、がら空きの車両の通路を挟んだ反対側の座席に、若い女の子が座った。チラッと目をかわしたがやおらその子は化粧品を取り出した。美形とはいえないので関心がなくなって僕からその子が消えた。だが新宿について同時に立ち上がって目をかわした途端アッと驚く。美人だ。
あるスーパーモデルの話がある。ハリウッド映画にスッピンで出て、化粧して変身していくさまを映し出して話題になった。ケイト・モスだったような気もするが、うろ覚えで資料もなく彼女の経歴を調べても出てこないので違うのかもしれない。1990年代の一齣だった。

さてタイトルは吾がロマンスカー賛である。
新幹線旧車両の引退も話題になっているが、ロマンスカーのHiSE(10000形)、RSE( 20000形)がこの16日(2012年3月16日)に引退した。帰りは普通の急行に乗るが、故あって体調管理のために当面朝は本厚木から新宿までのロマンスカー通勤をしている。

2階に運転席が在って展望室のあるHiSEに引退するのだと気がつかないまま乗ったが、シートリクライニングの間隔が大きくて一段倒すと外が見えにくくなって困った。僕は車窓から移り行くまち並みと建築を見るのがすきなのだ。この車両は人気があったのにやはり時が経たのだ
沼津まで行く「あさぎり号」のRSE( 20000形)はつい最近乗ってみると、窓が大きいのがことのほか快適だった。一味違う楽しさがあるのに引退である。

さて、深みのあるブルーのMSE(60000形)は、早稲田の建築学科を出て山下設計を経たのちフランスに渡ってポンピドウセンターの設計にも関わり、神戸芸工大の教授も勤める建築家岡部憲明が設計したと嘗て話題になった。その内部意匠には建築家としての心が騒ぐ。だがしかし、冒頭のオバンのように、ドシンと座られると隣席に振動が伝わるのは困る。工夫はされたのだろうが骨格はともかく座席の厚みも薄いのだ。

昨年一緒に乗ったときに「ワー、ロマンスカーだ!」とはしゃいだ娘が、一番乗りたくなかった車両だ!とがっかりした茶系外観の地味な色調EXE(30000系)には僕のものつくり心も刺激されない。だけど僕はこの電車の乗り心地がすきなのである。
それはともかく吾がロマンスカー群の乗り心地は、遮音や空調設計をも含めておそらく新幹線を凌駕し、日本一と言ってみたくなる。娘は僕の一言にフーンという顔をしていたがさてどうだったカナ!

<写真 MSE(60000形)の車内>