日々・from an architect

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沖縄旅(4) 旧沖縄少年会館(久茂地公民館)に込められたもの

2012-03-06 14:28:49 | 沖縄考

那覇市中心市街地から一歩入った久茂地川に沿って建つ、旧沖縄少年会館(久茂地公民館)の解体決議が市議会でなされ、2月8日に入札が行われ解体業者が決まった。「まだ解体されていません」という一言から始まる「新沖縄子供を守る会」の方々や、その会をサポートする地元の建築家からの切実な思いに満ちたメールが送られてくる。

宮里栄一が設計し1966年(昭和41年)に完成した「旧沖縄少年会館」は、沖縄人の感性、つまりウチナンチュウのこの地の風土に根ざした建築家のつくった建築である。
庇の先端を支える壁柱に、三木淳の撮ったニーマイヤーの設計したブラジリアの`暁の宮殿`のシャープで優雅な曲線を思い出した(三木淳写真集:サンバ・サンバ ブラジル 研光社刊)が、日差しをさえぎる二重に重なり合う庇の楕円を取り込んだ意匠などには、湧き出て来る沖縄土着者の気概を読み取れる。

大学の後輩になる建築家照屋寛公さんが送ってくれた1月21日に行われたシンポジウムのDVDを観て、会場から発言されたご高齢(86歳)の宮里栄一氏のコメントに心打たれた。「東京上野に建つ前川國男の設計した`東京文化会館(1961年)`のように仮枠に使った美しい杉の木目の浮き出たコンクリート打ち放しの建築を沖縄の人々にも味わってもらいたい」。
横浜国大を出て東大の大学院に学んだ宮里は前川國男に師事したという。そしてその宮里によって沖縄に一味違う初のコンクリート打ち放し建築が生まれたのだ。

市は、老朽化と耐震に問題ありという。ここでも、常に言われる老朽化とは何か?と問いたくなる。メンテナンスをせずに老朽化と軽々しく言うべきではない。新耐震法以前の建築が全て現行建築基法に適合しないのは当たり前のことである。モダニズム建築であってもオセンティシティ(原初性・由緒ある正しさ)を検証し、耐震構法を検討して改修して使い続けられている事例はいくつもある。国際文化会館、重要文化財になった国立西洋美術館や広島のピースセンター、そして宮里栄一が範とした東京文化会館などなど。

―二つの疑念:そのⅠ―
この旧沖縄少年会館の解体を促進する沖縄を見て素朴に思うことがある。
戦後の疲弊した沖縄に子供の教育の拠点を作ろうと志した、屋良朝苗さんを中心とした`沖縄子供を守る会`の人たちが全国行脚をして集った多くの人々の寄付によって建てられ、後に那覇市に譲渡されて「久茂地公民館」となったこの沖縄の歴史を顧みることはないのだろうか。先達が未来を子供に託した建築を苦もなく捨て去る那覇市長や議員連のその心根は何なのだろう。
那覇少年会館ではなく、「沖縄少年会館」と名づけた当時の人々の想いに本土の僕でさえ心が打たれるのに。(この項続く)