日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

場と建築 山本忠司の「瀬戸内海民俗資料館」

2010-10-03 15:02:39 | 建築・風景

場と建築を考えたいとしきりに思う。
鎌倉の近代美術館や東京杉並にある東京女子大など心を打つ建築に触れて感じるものがあるからだ。場は土地或いは地域と言い換えても良い。だがよく言われる環境(エコ)という視点、つまり空気の流れや陽の光などとは一線を画し、考えたいのは場の持つ力と建築との関係性である。

四国に、場を感じとり、慈しむように建築をつくった建築家がいた。山本忠司である。代表作は「瀬戸内海民俗資料館」。
五色台山のワインディングロードを駆け上がり、車を降りて見たのは「石」だ。そして打ち放しのコンクリート。

外壁に城壁のように積まれた石は一つ一つが小ぶりで、エントランスの敷地の高低を仕切るための石は大きく、そのいづれも積み方は大胆、素朴というのではなく上端をフラットにして建築の存在を明確にした。

積んだ石は整地のために掘り起こした石を砕いて使ったと建築書に記載されているが、まさに場と建築の関係性、つまりその橋渡しの役割を見事に果たしている。
場との調和というより「場」を「再構築」したいというつくる建築家山本忠司の意思が感じ取れる。
そこに打ち放しのコンクリートをコラボレートした。時代にトライするモダニズム建築の源流を見たと思った。
場を「慈しむ」とはそういうことでもある。
この建築は翌1974年日本建築学会の作品賞を受賞した。

山本忠司は、瀬戸内海の歴史資料、例えば木造船、漁具や船絵馬などを収録・展示するために、中庭を囲む回廊式の展示室構成をした。敷地の高低をそのまま床の高さとしたようで、回廊空間は視点の変化に富む。
さらに大きなガラスによって外部の景観を取り込んだので開放感があり、木々や山の変化も感じ取れる。その寸法感覚やディテール(おさまり)がしっかりしているので、建築家の建築を「つくる喜び」が率直に伝わってくる。
いい建築に出会えたと心が震えた。

この建築が建てられたのは1973年、山本忠司が香川県の建築課長時代の作品だ。
四国には八幡浜市の職員時代に日土小学校を設計した松村正恒という建築家がいた。つくるのは組織を越えて「人」なのだと改めて思う。

山本忠司は1985年設計事務所を開設し、四国建築学会長を務めるなど四国の建築界を率いたが、1998年逝去した。74歳だった。