日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

空の旅 美しい「雲平線」

2010-02-24 13:04:00 | 建築・風景

空港に着くと其のざわめきに胸がときめいたものだ。行く先のアナウンス、フライトナンバーが読み上げられると、成田空港だとこれから訪ねる国やまちの様が思い浮かぶし、英語のアナウンスによってNYやロンドンに向かう人と同じ場にいるのだという、晴れがましさを感じたりしたものだ。誰しもそうだと思うが、好奇心が初めて訪れる国への不安をこえた。
羽田でも同じだった。

其のときめきの鼓動がいつのころからか薄れてきた。なぜだろう。
でもフライト中、窓から眼下に見る街中の、無音で走る車の光景はそこに人がいるのだという不思議観を持つのは、何度見ても、歳をとっても変わらない。国内線は高度が低いので晴れてさえいれば地上の様子がよく見える。だから僕は窓側に座る。

1泊2日で札幌に行ってきた。
建築家上遠野徹さんを「偲ぶ会」と、JIAメンバーの内輪の会「偲び会」、それに本の編集の打ち合わせをおこない、翌朝、雪の中の上遠野邸を訪ねて徹さんにお花をささげ、教師のMOROさんとともに学生を連れてご子息克さんに案内していただき、雪をかいて通路を作ってくれた所員H君に感謝しながら外観を観た。積まれたレンガ、耐候性鋼の錆と雪の取り合わせに、何度も見たのにやはり胸打たれる。

徹さんの奥様と克さんの奥様にご挨拶した後、克さんに解説を願った。若者への伝言が、徹先生から克さんに引き継がれたのだ。この家は「未完の家」、あの人は未完のまま逝ってしまったと奥様がつぶやかれたので、建築家ってそうですよ、だから建築家なのですと申し上げると、そうね!と頷かれた奥様の微笑が胸に残る。

MOROさんの車で、市内の`GALLERY創`で開催されていた「上遠野徹 木造の住宅」展を見た後、徹さんが竹中時代に設計された傾斜地に建つ旧栗谷川邸を道路の下から、実施設計や現場の担当をされたレーモンドの聖ミカエル教会を拝観した。丸太で組まれた会堂の、壁の十字架がほのかな灯りに照らされて浮かび上がっていた。

眼下に微かに点の様な船の明かりが見えるが、夕日に染まった雲と濃くなってきた空のブルーが美しい。こういう言葉があるとしたら「雲平線」だ。
魅入られながら上遠野徹建築三昧だったこの二日間の旅を想う。