田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

霧代おばあちゃんなの/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-21 09:22:32 | Weblog
第二十二章 奥霧降高原

1

「春の霧降もいいわよ。
雪解けの水で霧降の滝も増水している。
美智子さん誘っていこうか」

キリコが隼人に声をかける。
隼人は特殊犯罪捜査室の隅に机を置いている。
直人の部屋が同じ階にあってそこに住みこんでいる。
仕事には同じ部屋にいたほうがいいだろう。
ということで秀行が机を空けてくれた。
麻薬取締官の机もある。
同居人のおおい部屋だ。

「それはいい。行詰まったときは、現場にもどる」
秀行が離れたところで妹のことばをきいていた。
あいづちをうつ。
「現場百回ですね。
ぼくも直人の滑落事故現場をこのめでみたいですから」
「このところ、おかしいと思わないか。
芸能界やスポーツ界で麻薬汚染が多発しすぎる」
タレントが大麻煙草を吸ったということで逮捕さている。
ごていねいに、自宅の部屋で大麻を栽培していた。
角界の関脇級の力士が逮捕された。
断固として大麻吸引、その事実を否定しているものもいる。
あれほど空港で厳重に見張っているのに。
その蔓延ぶりは異常だ。

赤の緊急ランプが点滅した。
「わかりました。霧降川ですね」
キリコが受話器を置く。
「霧降りにいく運命みたい」

「場所はわかるのか」
「兄さん。わたしがどこで育ったか忘れたの」
「ドクターヘリにも出動要請をして置く。連絡を絶やさないようにな」
「隼人。いくわよ」

屋上に格納してあった。
あの日光遊覧ヘリだ。

「こんどは、わたしに操縦させて」

キリコがまぶしそうな顔で隼人を一瞬みつめた。
出会ったころのことを、思いだしているのだ。
「美智子さんに、今日はもどれないかもしれないって連絡しといたわ。
翔太郎さんがいるから安心よ」
「いいのか、そんなことして」

霧降は霧の中だった。
このあたりを遊び場として育ったキリコでなかったら。
着陸地点を探せなかったろう。
滝のずっと上流だ。 
現場に駆け付けたばかりといた警官。
ヘリの到着のはやさにおどろいている。

「ほんとに、東京からきたのですか? おどろきました」
「流れ着いたという女のひとは? どこ」
「あ、失礼しました」

ふたりは炭焼き小屋に案内された。
いまは、炭焼きはしていない。
観光客が興味をもつかもしれない。
費用をかけて撤去することもあるまい。
いまは使用されていない小屋。
なん十年も、放置されている。
やっと風雨を避けられるといつた小屋だった。
渓流釣りにきていた男たちがいた。
発見して連絡をよこした人たちだ。

心配そうにのぞきこんでいる。
その先に!!! よこたわっていたのは……。

「おばあちゃん。霧代おばあちゃんなの」



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