田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

隼人の恋心/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-06 08:13:51 | Weblog
第十九章 麻薬汚染

3

「翔太ジイチャン。ありがとうね。唄子に星弁護士をつけてくれて、ありがとう」

あれほどの人気が。
人気のある歌手、女優の唄子。
それがだれもちかよらない。
あれほどの人気が一夜にして凋んでしまった。
奈落の底へおちていく。
かわいそうだ。
なんとかならないの。
美智子はなんとかしてあげたい。
必死だ。なんとか唄子を苦境から救いたい。
人気商売の残酷さをまざまざとみせつけられた。
だれも唄子の苦しむ顔。
悲しむ顔をみても、そしらぬ態度。
わたしだけでも……。
わたしは。
唄子のみかただ。
これまでも。
いまも。
そして未来でも。

翔太郎はまだテレビをみることはできない。
「よかった。なんとか星くんがしてくれるだろう」
それだけいうと、また眼を閉じてしまった。
「はやくよくなって」

おなじ画面を隼人も事務室のじぶんの席から見ていた。
直人が使っていた机だ。
ドアにノックがあった。
霧太がはいってきた。
同じ階に麻薬取締班の特別室がある。
特捜班の捜査官が詰めている。
「たいへんな騒ぎになりましたね」
「日本ではいつでもこうですか」と隼人。
「いや、今回が初めてですよ。酒の谷唄子は有名ですから」
「直人さんは、よくこの部屋で美智子さんに電話してました。
ここに寝泊まりしてましたから」
「そのころから捜査に進展は……」
「ありません。
持ち込まれるのではなくて。
この日本のどこかで大麻もMDMAもつくられていると。
わたしたちは推定しています」
「麻薬常習者ほど仕入れルートは明かさないでしょうからね。
それはアメリカも日本もおなじでしょう?」
「美智子さんはよく一度でやめましたね」
「オジイチャンのおかげらしいですよ」
「彼女を直人にかわって見守ってあげてください」
隼人はむろんその気でいる。
なにか美智子のことばかりかんがえている。
美智子を好きになったのかもしれない。
いや、はじめて日光で会ったときから恋の予感はしていた。
いつも美智子のことを思っている。
日光の駅で出会ったときから……胸がザワメイテいた。
直人への熱い思いを山のレストランできかされて感動した。
感動は恋にかわっていた。
ただ直人への遠慮があった。
あんなに――。
直人を純粋におもっている。
ぼくが入りこむ隙間はない。
そうおもって、恋心を抑えていたのだ。
それが……病室によこたわっている美智子をみているうちに。
胸がいっそうあっくなった。
頭がぼうっと恋にかすんだ。
ぞくぞんするような恋の喜び。
ひたひたとうち寄せてきた。




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