田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

わたしの庭を乱さないで/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-15 06:06:44 | Weblog
第二十章 酒の谷唄子

6

「唄子がもどらない」
翔太郎に美智子が訴えた。
「トイレからもどらない。時間がかかり過ぎる」
2人はあわてて廊下の隅のトイレに向かった。
トイレには唄子の姿はなかった。

廊下のさらに奥の非常階段への扉が半開きになっていた。
おかしい。百子ならぴしっと閉めてでたはずだ。
扉のすき間からは、庭での怒号がきこえている。
扉の細い空間には闇が詰まっていた。

「唄子―。唄子」
美智子が扉から外にとびだそうとした。
「止めなさい。あの声がきこないのか。ダンプで新たな敵が侵入してきた」
「でも……でも、唄子が」
「モーもいない。猫をつれてでていったのだ」
「黒服に拉致されたんじゃないの」
「ここもあぶない。パニックルームへ隠れなさい」
トレイレのドアの隣の壁がするすると上った。
美智子を押しこむ。

「美智子さんは?」
部屋に戻る。
一人だけもどった翔太郎に隼人がきく。
「美智子はパニックルーム。唄子さんは出ていってしまった」
「黒服の攻撃がじぶんだけにむけられている。
じぶんさえいなければ……そんなことをおもっての行動でしょう」
翔太郎はだまって床の間の刀掛から刀をとる。
むかし、里恵が中山家へ嫁ぐとき、守り刀として贈った。
鹿沼は細川忠相の鍛えた名刀だ。
気配でさっした隼人が「ぼくもお伴します」といった。

「傷を受けているのは、左肩。まだまだじゅうぶん戦えるから」
これは光と闇の戦い。
日光の先住民族。
山の民とわれら麻耶、黒髪、榊一族とのたたかいなのだ。
むかしから戦いつづけてきた。
それを終焉させようとした滝尾美樹の計画も潰えるのか。
過激派さえいなければ。
人の世に破滅を!!
そう願う過激派の存在がなければ――。
麻耶と滝尾の血をむすびつけた美樹のおもいも叶わないのか。
智子を想いながら階段をおりた。
翔太郎を黒服が待ちうけていた。
袈裟がけに斬り倒す。
待ちうけていたモノがまだいた。
里恵と里佳子だった。パニックルームで外部に連絡していた姉妹だ。

「お父さんだけカッコつけないでよ」
なぎなたをひっさげて庭にとびだした。
キリコと百子が玄関前で黒服を防いでいた。
なぎなたの刃が月光にきらめいた。
黒服の首がふたつ宙にとんだ。

「遠慮いらないからね。里佳子。敵は鬼よ」
「すごい。おふたりとも勇ましい」
百子とキリコが驚嘆の声援をあげる。
「あんたら。こんどこそ、許さないわよ。
世の平穏をみだすヤカラ。ぜったいに許さないから」
里恵が古風な挨拶をおくる。
「わたしの家の庭に乱入するなんて身の程知らずもいいとこよ」
里佳子も叫ぶ。
しかし敵はさすがに鬼族。
タジロガナイ。
隼人は弾つきた拳銃を黒服になげつけた。
顔面にヒットした。
隼人は徒手空拳。
このほうが、隼人らしい。
榊流拳法が炸裂した。


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コメント (2)
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