〈 日航機123便墜落事故に関する「ねこ庭」の意見 〉
ヴォーゲル氏は日本研究の出発点として、次の2つの視点を持っていました。
1. 日本の成功は、勤勉、忍耐力、克己心、他人への思いやりなど、日本人の美徳と考えられる特質、伝統的国民性からきているのでないか
2. 日本の成功は、日本独特の組織力、政策、計画によって、意図的にもたらされたものであるのか。
氏は「まえがき」で、次のように述べています。
・まず私が思い立ったことは、勤勉、忍耐力、克己心、他を思いやる心といった、日本人の美徳と考えられる特質を検討してみることだった。
・しかしながら、日本人の組織、財界、官僚制などへの関わりを調べれば調べるほど、日本人の成功は、そのような伝統的国民性、昔ながらの美徳によるものでなく、
・むしろ日本独特の組織力、政策、計画によって、意図的にもたらされたものであると、信じざるを得なくなった。
・こうした私の、知的労働から生まれたのがこの本なのである。
氏の思考の大枠を知るため、もう少し「まえがき」を紹介します。アメリカについても日本についても厳しい批評をし、両論併記の公平さがあり、反日・左翼学者のように、我田引水の主張を展開しませんので温故知新の書にふさわしい本とも言えます。
・アメリカにとっての過度のプライドとは、世界の他の国々の発展に注意を払わず、国際情勢に効果的に対応するための対策を欠いたことであるが、日本人にはこの種の危惧は当てはまらない。
・なぜなら日本人は、自らこういった危機意識を持っていて、自己に対する批判も怠っていないし、むしろ国際情勢の変化に呼応して対処することに巧みであったからである。
・日本人の傲慢の罪は、自らの優秀性について次第に自信を持つようになり、そこまでは良しとしても、外国人に対して、尊大な態度をとるようになり、狭量にも自己の利益を追求するあまり、他の国々との友好関係を失い、ついには必要な協力を得られなくなることにある。
アメリカのことを説明しているのかと考えてしまいますが、氏の目にはこういう日本の姿が映っていたのです。
・ここにこそ、日本人が受けるネメシスの報いの可能性がある。
ネメシスとは、ギリシア神話の中に登場する天罰の女神の名前です。得意になり、身のほどを忘れたイカロスが、ネメシスの報いを受け、命を落とすという話です。耳痛い言葉ですが、思い当たる節があります。
世界第2位の経済大国になった時、豊かになった日本人がどっと海外旅行をし、少し前の中国人のように、フランスやイタリアやアメリカで爆買いをしました。安くて性能の良い日本企業の製品が、アメリカの鉄鋼業と自動車産業を衰退させました。
弱気一辺倒と言われている外務省が、現金で相手国の頬を叩く「札束外交」と批判されたのも当時の話です。愛国者だった氏には、そんな日本の傲慢さが我慢ならなかったものと見えます。
えっ、そんなことがあったのかと、私を含め多くの人は驚くかもしれませんが、自分のことは分からないという自己採点の難しさがここにあります。話が横道へ逸れますが、息子たちのためにも実例を紹介します。
何年か前の「ねこ庭」で取り上げた、マレーシア人のラジャ・ダト・ノンチック氏の詩がそれです。平成元年 ( 1989 ) に、首都クアランプールで書かれたものです。
かって 日本人は 清らかで美しかった
かって 日本人は 親切でこころ豊かだった
アジアの国の誰にでも
自分のことのように 一生懸命つくしてくれた
何千万人もの 人の中には 少しは 変な人もいたし
おこりんぼや わがままな人もいた
自分の考えを おしつけて いばってばかりいる人だって
いなかったわけじゃない
でも その頃の日本人は そんな少しの いやなことや
不愉快さを超えて おおらかで まじめで
希望にみちて明るかった
戦後の日本人は 自分たちのことを 悪者だと思い込まされた
学校でも ジャーナリズムも そうだとしか教えなかったから
まじめに
自分たちの父祖や先輩は
悪いことばかりした残酷無情な
ひどい人たちだったと 思っているようだ
だから アジアの国に行ったら ひたすら ぺこぺこあやまって
私たちはそんなことはいたしませんと
言えばよいと思っている。
そのくせ 経済力がついてきて 技術が向上してくると
自分の国や自分までが えらいと思うようになってきて
うわべや 口先では すまなかった 悪かったといいながら
ひとりよがりの
自分本位の えらそうな態度をする
そんな 今の日本人が 心配だ
ほんとうに どうなっちまったんだろう
日本人は そんなはずじゃなかったのに
本当の日本人を知っているわたしたちは
今は いつも 歯がゆくて
悔しい思いがする
自分たちだけで 集まっては 自分たちだけの 楽しみや
ぜいたくに ふけりながら 自分がお世話になって住んでいる
自分の会社が仕事をしている その国と国民のことを
さげすんだ目で見たり バカにしたりする
こんなひとたちと 本当に 仲良くしていけるのだろうか
どうして
どうして日本人は
こんなになってしまったんだ
バブル経済が破綻したのが平成3年ですから、この詩が書かれたのは、バブルの絶頂期です。政治家や経済人だけでなく、海外で働く日本人も、このように驕っていたのでしょう。
急成長した中国や韓国が大国意識をかざし、日本を酷評したり威嚇するのも、かってのわが国と同じことをしている訳ですから、本当は、お互い様なのかもしれません。
マレーシア人のノンチック氏は嘆くだけですが、ヴォーゲル氏は戦勝国アメリカの国民ですから対抗心を燃やします。それがこの『日本弱体化計画の手引書』として完成され、「ネメシスの報い」を日本へもたらしていることになります。
こう考えますと、「日航機墜落事故」の原因の深さがなんとなく分かります。墜落事故の直接の原因は、フライトレコーダーとボイスレコーダーでしか究明できませんが、事故の原因となった大きな背景は、これも何となく分かる気がします。
次回は『日本弱体化計画の手引書』の中身を、更に紹介しようと思います。