ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

日航機123便墜落事故 - 51 ( マハティール首相の言葉 )

2024-07-30 22:25:17 | 徒然の記
   3. 平成10 ( 1996 )年刊 ・・橋本内閣
    ・サミュエル・ハンチントン氏著  『文明の衝突』
 
 氏の意見を理解するには、東アジア経済協議体 ( EAEC ) とASEAN(東南アジア諸国連合)について知っておく必要があります。
 
  〈 東アジア経済協議体 ( EAEC ) とは 〉
 
  ・EU(欧州連合)の市場統合や、NAFTA(北米自由貿易協定)など、地域主義の動きに対抗したものである。
 
  ・マレーシアのマハティール首相が、1990 ( 平成2 )年に提案した貿易ブロック構想である。
 
  〈 ASEAN(東南アジア諸国連合)とは 〉
 
   ・  当初の加盟国は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国。
 
   ・ その後、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオスが加盟し、1999 ( 平成11 )年にカンボジアが加わり、東南アジア10ヶ国がまとまった。
 
  ・  これにより、人口5億人を超える集合体となった。
 
  しかし忘れてならないのは、マレーシアのマハティール氏です。東アジアの指導者の一人として、注目を集めています。
 
 東アジア経済協議体」 ( EAEC ) の構想を提案したのは氏で、日本、韓国、中国など、東アジア地域諸国も団結すべきという信念を持っています。
 
 多少の違いがあってもヨーロッパ諸国がまとまっており、アメリカも同様なので、アジア人もまとまらなければならないと言うのが、マハティール氏の意見です。
 
 ですから氏は、オーストラリアが参加を希望したのに、ヨーロッパ人の国だと参加を拒み、オーストラリアとニュージーランドとアメリカを除外しました。
 
 覇権国としての威信を傷つけられたためか、結局この構想はアメリカの反対で実現しませんでしたが、ハンチントン氏の説明を読みますと、日本の置かれた立場が分かります。
 
  ・東アジアに、意味のある地域的組織が生まれるには、それを維持できるだけの文化の共通点が、存在しなければならないだろう。
 
  ・欧米と異なっているが、東アジアの社会には確かにいくつかの共通点がある。
 
  ・マハティール首相によると、これにより協力の基盤ができ、EAECの促進が図れると言う。
 
  ・この会議にはASEAN加盟国と、ミャンマー、台湾、香港、韓国が参加し、最も重要な参加国として中国と日本も含まれると言う。
 
 ここで氏が、マハティール首相の言葉を紹介します。
 
  ・東アジア内の組織とはいえ、単なる地理的な集団でなく文化的な集団でもある。
  
  ・東アジア人は、日本人であれ、韓国人であれ、インドネシア人であれ、文化的にはある程度似ている。
 
  ・目的は、アジアで共通点を持つ国同士の、地域貿易を拡大することである。この考え方に基づいて、オーストラリア、ニュージーランドと米国が外された。
 
 経済の発展が国を豊かにするのですから、世界の富を欧米諸国だけに占有させず、今後はアジアも一つになり経済圏を作ろうと言う氏の提案でした。ここで、ハンチントン氏の説明が入ります。
 
  ・しかしEAECの成功を、決定的に左右するのは、日本と中国の参加である。マハティールは、日本の参加を熱心に要請した。
 
 日本のマスコミは、大きな報道をしなかったと記憶しています。氏の紹介するマハティール氏の訴えは、私たち国民に届いていませんでした。
 
 ・マハティールは、日本の聴衆に語った。
 
 ・日本はアジアです。日本は、東アジアの国なのです。この地理的、文化的な事実に、背を向けることはできません。あなた方は、ここに属しているのです。
 
 マスコミが伝えなかった理由が、氏の次の説明で分かりました。
 
 ・だが日本政府は、参加に乗り気ではなかった。
 
 ・一つにはアメリカの機嫌を損ねることを恐れ、また一つには、自らをアジアの一国と認識するかどうかで、意見が分かれていたからだ。
 
 ・日本が参加すれば指導的な立場に立たされ、参加国の懸念や不安を掻き立て、中国には敵意を抱かせる可能性がある。
 
 ・以前数年にわたり日本が主導し、アジアに円ブロックを作ろうと、盛んな討議がなされたことがある。
 
 ・ところが日本は、近隣諸国と文化的なつながりを持たないほとんど孤立した国であり、1995 ( 平成7 )年現在、円ブロックは、実現していない。
 
 ・ASEANの発展は遅れ、円ブロックは夢のままで日本は躊躇し、EAECは発足できずにいる。
 
 円ブロックについては、アメリカの強力な反対で頓挫したとマスコミが報道していましたから、覚えています。氏が言うように、日本の優柔不断だけが原因でなかったはずです。
 
 「日本がアジアで孤立しているのは、文化的なつながりの欠如というより、」「アメリカへの忖度が、そうさせるのではないですか。」
 
 言いたくなりますが、氏は百も承知の上で、近隣諸国と文化的なつながりを持たない孤立した国として、日本を語りたいために説明をしています。
 
 目から鱗の意見と言ったのは、氏の強引な日本孤立論で無く、マハティール首相の言葉です。
 
  ・日本はアジアです。日本は、東アジアの国なのです。あなた方は、ここに属しているのです。
 
 マハティール首相がこんなにも熱心に、日本へ語りかけていたことを知る驚きがありました。同時に、アメリカへの忖度から、マハティール氏の呼びかけに応えられなかった日本政府を知る無念さです。
 
 突然ですが、「尻切れトンボ」であることを覚悟の上、51回続いたシリーズの最後として「日航機墜落事故」に関する「ねこ庭」の中間結論を述べます。
 
 ・「日航機墜落事故」の処理に際し、全てをボーイング社の責任にした「政府の事故報告書」のため、大きな借りを作った中曽根内閣以降、日本はアメリカとの経済戦争に負けた。
 
 ・自衛隊が事故犠牲者の遺体とともに現場を焼却した理由は、依然として国民に封じられたままである。
 
 ・これでは、国民悲願の「憲法改正」が困難になる。
 
 森永氏や三橋氏のように命を懸けていませんが、今回で終わろうと決心しました。
 
 もしかするとこれは、「ねこ庭」の手に負えない大きな問題だったのかもしれません。正直に言いまして酷暑の夏に、これ以上この問題を追求するには気力と体力が続きません。涼しくなり、気力体力が回復しましたら、再度挑戦できるかもしれません。
 
 長いあいだお付き合いを頂きましたことに、心から感謝いたします。
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日航機123便墜落事故 - 50 ( ハンチントン氏の誤解 ? )

2024-07-30 13:39:55 | 徒然の記
   3. 平成10 ( 1996 )年刊 ・・橋本内閣
    ・サミュエル・ハンチントン氏著  『文明の衝突』
 
  現在と同じ意見なので、5年前に読んだ時の「ねこ庭」の感想を紹介します。
 
  ・中国と韓国の成長は、中国への多額のODAや韓国への巨額の賠償金などを考えると、日本の支援がかなり貢献をしていると思いますが、米国の学者はそう見ていません。
 
  ・国際社会では米国の学者の意見が尊重されますから、日本がいくら主張しても、中国や韓国の発展に関する日本の役割は考慮されません。氏に指摘されるまでもになく、昔も今も日本は国際社会で孤立しているという現実があります。
 
  ・しかし国際社会での孤立について、重大に考える必要はありません。国はすべて孤立して存在し、自国の利益のため協力したり離れたりしているので、孤立していない国は世界のどこにもないからです。
 
 「アジア諸国は、アメリカの要求や利益にそった行動をとることが少なくなり、アメリカや、他の西欧諸国からの圧力に抵抗する態度を、取れるようになっている。」
 
 「こうした文化的復興の重要性は、アジアを代表する二国と西欧文化との関係が、変化していることからも読み取れる。」
 
  ・氏の言うアジアを代表する二国とは、日本と中国のことです。ここで氏は、日本と中国について述べていますが、まず日本に関する意見を紹介します。
 
 「日本では、1980 ( 昭和55 ) 年代の目覚ましい経済発展と対照的に、アメリカの経済や社会制度は失敗し、敗退しつつあるとの認識が広まり、日本人は欧米を手本にすることをやめ、成功の理由は自分たち自身の文化にあると、考えるようになった。」
 
 「壊滅的な軍事的敗北を招いた日本の伝統は、戦後は一転して否定すべきものとされたが、1985 ( 昭和60 ) 年には経済的成功をもたらし、改めて受け入れられるようになった。」
 
 「日本人は、西欧的であることが、ただそれだけで素晴らしい魔法をもたらしてくれるのではないと、気づいた。」
 
 「明治維新の日本人は、 「脱亜入欧」という選択をしたが、20世紀の日本人は、 「脱米入亜」ともいうべき方針を、肯定するようになった。」
 
 「まず第一に、日本の伝統文化を再認識する過程を経て、その価値を主張するようになった。第二に、日本を 「アジア化 」 しようと努めた。」
 
 以下は氏の意見に対する、5年前の「ねこ庭」からの疑問です。
 
 ・どういう情報から、このような日本像を描いたのか知りませんが、氏の意見は私の実感とは一致しません。
 
 ・私の前にある日本は、ずっと「東京裁判史観」を超えられない社会であり、対米従属の政治です。
 
 ・バブル景気に浮かれ、にわか成金となった経済人が、米国の企業や建物などを買いあさっていたことは記憶していますが、「 脱米入亜」 や「アジア化」を、本気で考えていたとは感じたことがありません。
 
 ・1989 ( 昭和64 ) 年の日米貿易摩擦の最中に、ソニーの会長である盛田昭夫氏と、石原慎太郎氏が共同執筆した『NOと言える日本』が、その論拠となっているのでしょうか。
 
 ・そうであるとしたら、氏の論拠は間違っていると思います。儲けすぎる日本を米国が散々叩き、激しい日本バッシングをしていたとき、やっと反論したのがこの本でした。
 
 ・私は「ごまめの歯ぎしり」みたいなものとして、読んだ記憶があります。
 
 ・論拠はこんな一冊の本からでないと思いますが、やはり氏の日本に関する説明は、違和感を与えます。
 
 以上「ねこ庭」の過去記事の紹介をしましたが、次回は私を啓蒙してくれた氏の意見を紹介します。
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日航機123便墜落事故 - 49 ( ハンチントン氏の意見 )

2024-07-30 11:10:29 | 徒然の記
   3. 平成10 ( 1996 )年刊 ・・橋本内閣
    ・サミュエル・ハンチントン氏著  『文明の衝突』
 
 まず、氏の経歴を紹介します。
  
  ・昭和 2 ( 1927 ) 年生まれ、アメリカの国際政治学者
 
  ・コロンビア大学の「戦争と平和研究所」副所長を経て、ハーバード大学教授。
 
  ・ 昭和42 ( 1967 )年から、ジョンソン政権の国務省で、ベトナム戦争に関する報告書を執筆
 
      ・大統領選で、ニクソンと争ったヒューバート・ハンフリー候補の演説原稿を執筆
 
  ・カーター政権でアメリカ国家安全保障会議に加わり、ブレジンスキーの下で勤務
 
 ヴォーゲル氏も政府機関と関係がありましたが、ハンチントン氏はさらに深く繋がっていました。もしかすると時の政府に、影響力のある発言をしていた可能性もあります。
 
 氏は世界の文明を、「消滅した文明」と「生き延びた文明」の二つに大きく分けて説明しています。そんな意見があったのかと、5年前に「ねこ庭」で氏の著書を取り上げました。ですから説明の大半は、「ねこ庭」の過去記事からの紹介になります、
 
 ・世界の学者に認識の違いはあるとしても、主要文明の区別についての異論はない。
 
 ・歴史的には、少なくとも主要な文明が12存在し、そのうちの7つは最早存在せず、5つが存在する。
 
   1.  消滅した7つの文明
    メソポタミア、 エジプト、   クレタ、  古代ギリシァ・ローマ、
 
    ビザンティン、 中央アフリカ、 アンデス
 
      2.  現存する5つの文明
    中国、  日本、  インド、  イスラム、 西欧
 
 興味深いのは、この説明でした。氏は現存する5つの文明の中に、日本を独立した文明国として明記しています。このため日本の読者の中には、氏は日本の理解者だと感激し、素晴らしい本と褒めている人がいます。
 
 最初は私もそう思って喜びましたが、最後まで読むと氏は日本の理解者というより、多くの点で日本を誤解している学者でした。
 
 それなのになぜ「ねこ庭」で紹介するかと言いますと、氏は日本を敵視したり憎んだりしていないアメリカ人の仲間だからです。いわば氏は、アメリカにいる反日勢力と日本を敵視しない勢力との中間にいる学者です。
 
 氏の著書『文明の衝突』は、554ページの分厚い本です。手に持っていると、重さに耐えられなくなりますので、机に向かい正しい姿勢でしか読めません。厚くて重いというだけでなく、文章が固くさらさらと読み進めない厄介な本でした。
 
 氏が日本を誤解しているのでないかと最初に感じたのは、151ページの説明でした。「アジアを見直す」というタイトルがあり、ここにも日本に関する記述があります。
 
 ・東アジアの経済発展は、20世紀後半の世界に展開した最大級の出来事です。
 
 ・その端緒となったのが昭和25 ( 1950 ) 年代の日本であり、しばらくの間日本は、近代化に成功し、経済発展を遂げた唯一の非西欧国家として特殊な例とみなされていた。
 
 ・しかし経済発展という現象は、四頭の虎 ( 香港、台湾、シンガポール、韓国 )、次いで中国、タイ、マレーシア、インドネシアに波及していき、現在はフィリピン、インド、ベトナムでも、ハッキリと見られるようになった。
 
 ・アジア経済のこうした成長は、ヨーロッパやアメリカ諸国の緩やかな発展、そして世界の他の地域に蔓延している停滞と、見事なまでの対照を示している。
 
 ・こうして例外は、日本だけでないことが分かった。アジア全体が例外なのである。
 
 同じ米国人学者による日本認識も、45年前と28年前では大きく違っています。45年前『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いた、エズラ・ヴォーゲル氏は、世界一の日本を大きく捉え、油断するなと米国人に警鐘を鳴らしました。
 
 ハンチントン氏は28年前の本で、日本だけが例外でなく、アジア全体が例外なのだと言い、東アジア文明による西欧文明への挑戦が始まったと、欧米社会に警鐘を発しています。
 
 ここで大事なのは、氏がヴォーゲル氏同様にアメリカへ油断してはいけないと警告を発していますが、同様に憎しみや敵対心からしているのでないという点です。学者として研究した結果を踏まえ、事実を根拠に発言しています。
 
 残念ながら今の多くの日本の学者は、このような姿勢を失っています。左翼学者は保守学者を敵として攻撃し、保守の学者も彼らを敵として論争します。「ねこ庭」も同じで、反日左翼勢力を嫌悪し、「獅子身中の虫」と言って攻撃してきました。
 
 「憎しみと敵対心でする議論からは、実りのある結論が生まれない。」
 
 「相手を論破するのはなく、どうすれば、前に進むための合意が得られるかが、議論の目的ではないのだろうか。」
 
 このようなことを考え始めたにはここ何ヶ月のことですから、自分でも驚いています。
 
 だから「ねこ庭」は、ハンチントン氏の意見を紹介しようとしています。次回は、「ねこ庭」が誤解と考える氏の意見への疑問です。
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