OK元学芸員のこだわりデータファイル

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古い本 その66 Sanger, 1881

2021年07月28日 | 化石

 次の別刷も、鯨関連。しかもZeuglodon が標題に出てくる。題は「On a molar tooth of Zeuglogon from the Tertiary Beds on the Murray River near Wellington S. A.」Proc. Linn. Soc. N.S.W., 5: 298-300. (南オーストラリア・ウエリントン近くのマレー川の第三紀層からのZeuglodon 臼歯)というもので、3ページの短い論文である。文中に歯のスケッチが提示してある。

185 Sanger, 1881 p. 298の図

 一般的にこのような「手のひらを広げたような」鯨類の歯は、始新世から中新世に見られるが、現在の分類上の位置は、原鯨類(亜目)・歯鯨類・ひげ鯨類にわたっていて、見かけですぐにわかるとは言えない。上に記したようにSangerはこの標本を原鯨類のものと考えた。しかし、前回記したBasilosaurusのような典型的な原鯨類の臼歯とはサイズに大きな差がある。上のスケッチは、キャプションに「nat. size」となっていて、2.5センチほどの大きさが示してある。後に再記載(後で触れる)された時の計測値は、「歯冠の最大前後径」として22.8 mmという計測値をあげている。それに対して、原鯨類の歯のサイズは中くらいのもので50 mmくらいもある。スケッチの右に歯根の断面図が挙げてあるのは、Owen のPlate 8 に従ったからに違いない。
 この文献のコピーは、間接的な知り合いの研究者にお願いして1980年頃に入手した。現在はインターネットで入手できる。E. B. Sanger については、ネットではよくわからなかった。政府の行った地質学的な調査に携わったらしい記録がある。何しろオーストラリア連邦の成立が1901年1月1日だから、(それまでは英領の自治区だった?)それよりも20年前。この人についてわからないのも無理はない。
 論文では新種 Zeuglodon harwoodii を提唱している。参考文献のリストというものも無いが、文中でZeuglodon cetoides に言及しているからOwen 1839を読んでいることは間違いない、種小名「Harwoodii」は当時の習慣でHが大文字で書いてある。James C. Harwood は以前南オーストラリアにいた人で、これを含む多数の化石を提供された、としている。後の論文では最後の「i」が二つではなく。一つになっているものが多いがどちらが正しいのだろう?古い命名規約で、人名に由来する種小名の語尾として「ii」よりも「i」が良い、としてあるが、勝手にそのように変更してよいとは書いてない。
 標本は1個の歯で、南オーストラリアのアデレードの近くで発見された。

186 産出地 Pledge and Rothousen, 1977(後出)

 Sanger の論文が発行されてから30年後の1911年にその標本について研究した論文が発行された。T. S. Hall. 1911. On the systematic position of the species of Squalodon and Zeuglodon described from Australia and New Zealand. (Proceedings of the Royal Society of Victoria 23(2):257-265.)(Australia と New Zealandから記載されたSqualodonZeuglodon の各種の分類学上の位置)というもの。著者はたぶんThomas Sergeant Hall (1858-1915)で、メルボルン大学に所属していた。オーストラリア生まれの最初の古生物学者とする記述もある。1911年というのは明治44年。前の1881年の論文と比べるとずいぶん読みやすい。
 この中で、次の種類について記述している。
1  Kekenodon onamata Hecter 1881
 1881年にJames Hecter が記載した種類で産出地はニュージーランド南島のワイタキ川上流のWharekuriというところ。1993年に私は近くまで行ったが産出地のすぐ横にあるワイタキ湖を丘の上から見下ろしただけで、その場所に行っていない。時代は漸新世。

187 遠景の山の下にある水面がワイタキ湖。1993.2.6

 上の写真はワイタキ湖。産地のWharekuriはその湖の岸にあたり、左の丘の向こうにあって見えない。この種類の特徴は変わった形の歯で、歯根は二つあるが広がらないで寄り添っている。

188 Kekenodon onamata Hecter. Holotype(一部)

 Kekenodonは、原鯨類と歯鯨+ひげ鯨のいずれに属するのか議論されている種類で、前述のKellogg 1936 「a Review of the Archaeoceti」でも取り上げられている。
2  Parasqualodon wilkinsoni (M’coy) n. gen.
 1846年にM’coyがオーストラリア・Castle Coveの漸新世の地層から報告した種類で、その時には新種Squalodon wilkinsoni とされた。Hallはこの時に新属Parasqualodonを設立した。論文には一枚の図版(pl. 36)が示されている。Figs. 1-5がParasqualodon wilkinsoni、figs.6-7は次に述べるMetasqualodon harwoodi

189 Hall, 1911 Plate 36

3 Metasqualodon harwoodi (Sanger)
 fig. 6は原論文の標本ではなく、別の地点の化石。Fig. 7はSanger 1881のスケッチの転載である。本文中で、Metasqualodon harwoodi原標本は探したが見つからなかった、としている。
 このHall 1911は、オーストラリア・ニュージーランドのスクアロドン・ゼウグロドン型の歯の化石について詳しく論議したもので、そういった歯の注目すべき形態(歯冠・歯根の形態、鋸歯の形態、表面の装飾や光沢などを詳しく論じている。時代を考えると先進的ではあるが、一方で「歯のあるひげ鯨」の概念がない頃なので、現在は通用しない部分があるのは仕方がない。コピーはインターネットから最近入手したもの。以前から存在は知っていたが南半球の一部の標本を論じているものと判断していたが、読んでみたら結構鋭い指摘があって面白い。さらに、Kochの見世物にされたZeuglodonまでも登場する。

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