音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ Bach Sinfonia Nr.1には、 Fuga 様式の全要素が、含まれている ■

2014-09-15 20:01:43 | ■私のアナリーゼ講座■

■ Bach Sinfonia Nr.1には、  Fuga 様式の全要素が、含まれている ■           ~ 第 1回 Inventio 講座、楽譜は何を選ぶべきか ~
           2014.9.15   中村洋子

 

 


Bach  Sinfonia Nr.1 シンフォニア 1番の楽譜は、一見、

たくさんの音階が、よどみなく、サラサラと流れているように、

見えます。

事実、そのように、表面を小奇麗に整えた、滑らかな演奏も、

多いようです。


ところが、この短いわずか 21小節の中に、

 「 Fuga  フーガ 」 様式のすべての要素が、含まれているのです。

驚くべきことです。


★しかしながら、それが分かるためには、

「 Wohltemperirte Clavier Ⅰ  平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 」 、

「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」 を、

徹底的に、読み込む必要があります。

そうでなければ、気がつかず、見過ごしてしまいます。


★ Sinfonia Nr.1 シンフォニア 1番 C-Dur のもつ力は、

それだけ強く、巻頭にふさわしい曲です。

野に咲く可憐なお花の下には、いかにその根が土壌に張り巡らされ、

その結果として、揺るがずに立っているか。

それを理解いたしませんと、その花の 「 真実 」 の姿は描けない、

ということと、同じでしょう。


★Bach は、そこまで要求しているのであると、思います。

≪ 「 Fuga  フーガ 」 様式のすべての要素が、含まれている ≫

につきましては、17日の KAWAI 金沢・アナリーゼ講座で、

詳しくお話いたしますが、それでは、一体、

どの楽譜を、使ったら良いのでしょうか。

それも、皆さまの大きな関心事であると、思います。

 

 


Bach の 「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」 は、

以前、Edition Peters ペータース社と、

Dover Publications ドーヴァー社から、

刊行されていましたが、いまでは、入手困難です。


★Bach の 「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」 を、

公開しているインターネット上のサイトを、探し出し、

是非、ご覧下さい。

まずは、これが第一歩です。


校訂版としては、疑うことなく、Edwin Fischer

エドウィン・フィッシャー校訂版 ≪ Edition Wilhelm Hansen  ≫ です。

こちらは、何とか、現在でも入手可能です。


★Bach の 「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」 を研究し、

 Edwin Fischer の校訂版を読み込みますと、ほぼ間違いなく、

真の Bach の姿に、到達します。


★Edwin Fischer 版の残念なところは、

その成立年代が1954、55年と、古いため、

当時は、それが正しいと思われていた 「 装飾音 」 等の誤りが、

見受けられることです。


★それを確認するためには、やはり、最新の、新 Bach 全集

Urtext der Neuen Bach-Ausgabe による Bärenreiter

ベーレンライター社の楽譜を参照する必要があります。


★しかし、この Bärenreiter ですら、

編集者の恣意的な改竄が、多く見られますので、

油断は禁物です。

あくまでも、何度も何度も Bach の

「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」 に、

戻ることです。

 

 


★同時に、「 Inventionen und Sinfonien 

インヴェンションとシンフォニア 」 の初稿が収められている、

「 Klavierbüchlein für Wilhelm Friedemann Bach

ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集 」 も、

必ず、目を通してください。


★私は、海外の歴史ある出版社のものは多く取り揃え、

勉強していますが、上記の楽譜で、十分であるといえます。

しかし、日本の楽譜は、最新刊でも残念ながら、

孫引き、ひ孫引きの、パッチワークですので、

お薦めできないのが、現状です。


ついでですが、 Bach  バッハ  の偉大な作品の演奏を、

CD で聴く場合、まず、何を揃えるべきか・・・。

・「Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲 」 は、

 Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) 。

・「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 は、

 Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886 ~ 1960) 。

・「 Drei Sonaten und drei Partita für Violine solo 」 は、

 Joseph Szigeti ヨーゼフ・シゲティ (1892年-1973)です。


この三人の maestro マエストロ が、

それぞれの全曲録音を、初めてした演奏家であるのも、

偶然ではありません。

パイオニアであったのです。

血の滲むような勉強と、努力なくして、

初めての全曲録音は、不可能でしょう。

 

 


Szigeti シゲティ は、次のように書いているそうです。

≪若い頃 (1910年頃)、 Bach の C-Dur と G-Moll Sonata の、

公開演奏を、一度も聴いたことがなかった。

当時は、ほとんど一つの楽章が演奏されただけで、

しかも、それは、物凄いスピードで弾くという、

テクニックを誇示するための曲として、弾かれた。

Bach の音楽への理解を、完全に欠如していた。

1932年まで、4楽章の Sonata の全曲録音はなかった。

私が録音した C-Dur と G-Moll が、初めてであった≫


★Casals や Fischer の場合も同様です。

この三人の偉大な音楽家の演奏は、Bach の音楽と同じで、

汲めども尽きぬ泉のように、

不滅の価値がある、芸術作品です。


いまの日本は、若い音楽愛好家や音楽を学ぶ人たちの、

目と耳から、彼らの演奏を隠しているような状況です。

その結果、本物の芸術に触れる機会を奪い、

まがい物の、「クラシック音楽もどき」がはびこる原因、

でもあるといえます。


★ 「 Inventionen und Sinfonien  インヴェンションとシンフォニア 」 は、

決して、小手先で弾ける音楽ではありませんが、

真摯に取り組み、勉強いたしますと、 「 西洋クラシック音楽 」 の、

豊饒な大宇宙へいざない、その扉を開く曲なのです。


★その豊かな世界に、足を踏み入れるのは、

早ければ早いほど良い、ということも、事実です。

しかし、大人になってから、趣味でピアノを始めた方にでも、

その扉は、いつも、大きく開け放たれているのです。

それが、Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 )の、

偉大さです。

 

 

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中村 洋子 BACHインヴェンション・アナリーゼ講座
     第 1回 「 Inventio & Sinfonia  Nr.1  C-Dur 」(全 15回)
           ~ 第 1番は、全 30曲の 主題となる最重要曲 ~

 

・日  時  :  2014年 9月17日(水) 午前 10時 ~ 12時 30分
・会  場  :   カワイ金沢ショップ、金沢市南町5-9 
                        ( 尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 )
・予  約   :   Tel   076-262-8236 金沢ショップ

■今後のスケジュール
・第2回 2014年10/15 (水)   Inventio & Sinfonia    第 2番    
・第3回   2014年11/19 (水)  Inventio & Sinfonia      第 3番

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■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

   2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

   07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

   08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
       CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

   08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

   09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
          「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
           初演される。

   10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

   10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

   11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

   12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

   13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
           「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

 

 ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/   で
販売中

 ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union クラシック館で、購入できます。

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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