音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「エリーゼのために」 の7小節目 「 ミ ド シ」は誤り、「レ ド シ」 が正しい■

2012-02-26 23:24:20 | ■私のアナリーゼ講座■

■「エリーゼのために」 の7小節目 「 ミ ド シ」は誤り、「レ ド シ」 が正しい■
     ~KAWAI名古屋 「第 7回 Invention アナリーゼ講座 」のご案内~
        2012,2,26    中村洋子   Yoko Nakamura

 

 

★2月29日 ( 水 ) は、KAWAI名古屋での、

「 第 7回  Invention インヴェンション・アナリーゼ講座 」 です。
http://shop.kawai.co.jp/nagoya/lecture/nakamura.html


★今回は、表参道講座で、大変に好評でした、

Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) と、

Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827) の

「 Für Elise エリーゼのために 」   a-Moll  WoO 59 との関係も、

お話する予定です。

 「 Für Elise 」 については、当ブログで、既に2回ほど書いております。
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20110918
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20110927


★先日、次のようなご質問をいただきました。

≪ 「 エリーゼのために 」 の 7小節目上声 16分休符の後は、

「 e1 」 か、 「 d1 」  なのか、どちらでしょうか? ≫

現在の日本では、 「 e1 」 の 「 ミ  ド シ 」 が多いようです。


★私は、 Beethoven の自筆譜ファクシミリ

Zweiseitiger Entwurf Beethovens ( Beethoven - Archiv , Bonn )、

( これは 4 page中、 2 pageしか残っていませんが ・・・) と、

それを、VERLAG BEETHOVEN-HAUS BONN が、実用譜とした版、

さらに、G.Henle Verlag の楽譜を、いつも見ておりますので、

 「 e1 」 がいまだに、広まっていることには、驚いております。


正しいのは 「 d1 」 ですが、それが、 「 e1 」 となっているのは、

日本の大手出版社の、最もよく売れているピアノピースに、

 「 e1 」 と、印刷されているからです。

この情報時代に、このようなミスが大手を振って、

いまだに、まかり通っていることの不思議さに驚きます。

日本で出版されている楽譜については、このように、

ミスが散見されることがあり、すべてを信用することは、

危険です ( 海外の楽譜も、大同小異ではありますが )。

 

 


★このミスが、どうして起きたのかについては、

アナリーゼ講座で、解説いたします。

「 e1 」 としたほうが、常識的な発想では、一見小奇麗なのです。

「 d1 」 にしますと、より深い感情を表現できます。

しかし、演奏は格段に難しくなるのです。


★皆さまも、 「 エリーゼのために 」 の楽譜をお持ちでしたら、

是非、お確かめください。

もし 「 誤った e1 」 が、採用されていましたら、その楽譜に限らず、

その楽譜のシリーズの、他の作曲家の作品についても、

盲信はしない方がいいと、思います。


★日本の大手出版社の、この誤ったピアノピースが、

最もよく売れているのは、他の楽譜と比べ、

数百円安いということが、主な理由のようです。


安価さゆえに、そのピアノピースを選ぶことは、

大作曲家が、その曲で意図した “ 宝物 ” に、触れることなく、

終わってしまうことに、なります。

私は、それがとても、残念であり、

“ もったいない ” ことであると、思います。

 

 


★さらに、 74小節目の右手 3拍目の和音も、

「 d1  e1  gis1  」 が正しく、 「 d1  f1  gis1 」  は、間違いです。

1拍目の和音は、 「 d1  f1  gis1 」 ですが、

3拍目の和音は、真ん中の音が  「 e1 」  となります。


★すなわち、1拍目は、左手バスの 「 H音 」 を含めますと、

「 H1  d1  f1  gis1  」 の減七の和音、

3拍目は  「 H  d1  e1  gis1  」  の属七の和音となり、

和音の種類が、異なるのです。


3拍目を、1拍目と同じ 「 d1  f1  gis1  」  にしますと、

同じ減七の和音が、二度続くことになります。

明らかに、Beethoven ベートーヴェンの自筆譜と、

齟齬が生じます。


★このような、どなたでもご存じの名曲でも、

信頼できない楽譜が、横行しているのです。 

 

 

                                         ※copyright © Yoko Nakamura
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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